エミッタ・フォロワによる簡易電源




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■問題

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,抵抗分圧回路にNPNトランジスタ(Q1)によるエミッタ・フォロワを追加した簡易電源回路です.使用しているトランジスタの電流増幅率(β)は100倍です.無負荷時(スイッチがオフのとき)のOut端子の電圧をVOUT1とします.VOUT1を測定すると1.97Vでした.次にスイッチをオンし,2kΩの負荷抵抗(RL)が接続された状態の電圧を測定します.この電圧をVOUT2とします.負荷抵抗を接続することによる電圧変化(VOUT1-VOUT2)の値として,最も近いのは次の(A)~(D)のどれでしょう?


図1 エミッタ・フォロワによる簡易電源回路
負荷抵抗を接続することによる電圧変化の値は?

(A) 200mV (B) 100mV (C) 30mV (D) 12mV

■ヒント

 負荷抵抗を接続したときの電圧変化は,トランジスタ(Q1)のベース・エミッタ間電圧の変化量とB点の電圧の変化量を足したものです.負荷抵抗を接続する前のQ1のエミッタ電流は約1mAで,負荷抵抗を接続すると約2mAになると考えて計算すれば,答えが分かります.


■解答


(C) 30mV

 負荷抵抗を接続することで,Q1のエミッタ電流が2倍に増えるので,Q1のベース・エミッタ間電圧は約18mV増加します.また,Q1のベース電流が10μA増加することにより,B点の電圧は約12mV低下します.したがって負荷抵抗を接続することで合計30mVの電圧変化が発生するため,正解は(C)ということになります.

■解説

●エミッタ・フォロワによる簡易電源の出力電圧
 LTspice電源&アナログ回路入門 001「抵抗分圧で作る最もシンプルな基準電圧源」で紹介した基準電圧源は,負荷抵抗を接続すると出力電圧が大幅に変動してしまうという欠点がありました.その欠点を改善する方法の1つが,抵抗分圧回路にエミッタ・フォロワを追加する方法です.
 図1において,Out端子の電圧をVOUT,B点の電圧をVB,トランジスタ(Q1)のベース・エミッタ間電圧をVBEとすると,式1で表すことができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 B点の電圧(VB)は,Q1のベース電流をIBとすると,式2で計算することができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 また,トランジスタ(Q1)のベース・エミッタ間電圧(VBE)は,式3で表され,コレクタ電流とトランジスタの種類によって変わりますが,通常0.6~0.7V程度になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

ただし,K:ボルツマン定数,T:絶対温度,q:電子電荷,IS:トランジスタの逆方向飽和電流とする.

●負荷抵抗を接続した時の電圧変化を計算する
 次に負荷抵抗(RL)を接続したときの出力電圧変化を計算してみます.RLを接続したときに変化するのは,Q1のベース・エミッタ間電圧とB点の電圧なので,それぞれの変化量を計算し,合算することで出力電圧の変化量を計算します.
 最初に,Q1のベース・エミッタ間電圧の変化量を計算します.まず,無負荷時にR3に流れている電流をIR3とすると,この電流は無負荷時のQ1のエミッタ電流(IE1)と等しく,式4で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 負荷抵抗を接続したときの出力電圧を計算するには,RLに流れる電流を知る必要があります.ただ,現時点でRLを接続したときの出力電圧が分かっていないため,無負荷時の出力電圧(VOUT1)を使用して電流を計算すると,式5になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 負荷抵抗を接続したときのQ1のエミッタ電流(IE2)は,IR3とIRLを足したものなので,式6になります.

・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 図1の回路定数で計算すると「IE1=1mA」,「IRL=1mA」,「IE2=2mA」になります.また,無負荷時のQ1のベース・エミッタ電圧をVBE1,負荷抵抗を接続したときのQ1のベース・エミッタ電圧をVBE2とするとそれぞれ,式7,8になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 ベース・エミッタ間電圧の変化量をΔVBEとすると式9のようになります.

・・・・・(9)

 式9から,ΔVBEはIE2とIE1の比の対数に比例することが分かります.図1の定数を代入すると,式10のようにΔVBEは18mVになります.

・・・・・・・・(10)

 次にB点の電圧変化ΔVBを求めます.B点の電圧はQ1のベース電流が増加することで低下しますが,その電圧は式11で計算することができます.

・・・・・・・(11)

 以上より,出力電圧の変化量ΔVOUTは式12から,30mVとなります.

・・・・・・・・・・・・・(12)

●負荷抵抗を接続した時の電圧変化をシミュレーションする
 図2は,図1の回路をシミュレーションするための回路です.スイッチにはLTspiceの電圧制御スイッチを使用しています.オン抵抗が1mΩで閾値が0.5VのSWという名前のモデルで,定義の記述は「.model sw sw(Ron=1m Vt=0.5)」となります.スイッチはV1の電圧でコントロールされ,0.5秒後にスイッチがオンするようになっています.


図2 負荷抵抗を接続した時の電圧変化をシミュレーションする回路
電圧制御スイッチで負荷抵抗をコントロールしている.

 図3は,図2のシミュレーション結果です.上段,下段ともに出力電圧を表示しています.上段は,下段の縦軸を拡大したものです.0.5秒後に負荷抵抗が接続されますが,そのときの電圧降下は,ほぼ計算値と同じ,29mVとなっています.


図3 図2のシミュレーション結果
負荷抵抗が接続された時の電圧変化は29mV.

●周囲温度と出力電圧の関係をシミュレーションする
 トランジスタのベース・エミッタ電圧は,温度が1度上昇すると約2mV電圧が小さくなります.したがって,図1のようなエミッタ・フォロワを使用した簡易電源は温度によって出力電圧が変化してしまいます.そこで,負荷抵抗値による出力電圧の変化を温度をパラメータにシミュレーションしてみます.
 図4は,負荷抵抗値による出力電圧の変化を温度をパラメータにシミュレーションするための回路です.RLの値を100Ωから100kΩまで変化させるシミュレーションを,温度-30℃,25℃,80℃の三種類で行います.


図4 RL対出力電圧を温度をパラメータにシミュレーションする回路
RLは100Ω~100KΩで温度は-30℃,25℃,80℃.

 図5は,図4のシミュレーション結果です.高温で出力電圧が上がり,低温になると下がることが分かります.


図5 図4のシミュレーション結果
高温で出力電圧が上がり,低温で下がる.

 以上,エミッタ・フォロワによる簡易電源を紹介しました.負荷抵抗値による出力電圧の変動は,単純な抵抗分割による基準電圧に比べ大幅に改善しますが,完全ではなく,温度による電圧変動も発生します.そのため,さらに高精度な電源とするためには,負帰還の原理を応用して,出力電圧を安定化する必要があります.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_014.zip

●データ・ファイル内容
Vref_EF_SW.asc:図2の回路
Vref_EF.asc.asc:図4の回路

■LTspice関連リンク先


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