家庭用電源から直流電源を作る整流回路
図1の(A)~(D)は,交流50Hzで100Vの家庭用電源から直流電源を作る回路です.降圧用のトランスを使用し,二次側にダイオード整流回路が接続されています.(A),(C),(D)のトランスの一次側対二次側の巻き数比は10:1です.(B)の巻き数比は10:2で,二次側にはセンタ・タップが付いています.また,負荷抵抗の値は,いずれの回路も1kΩとなっています.(A)~(D)の回路の中で,Out端子の直流電圧が負電源となるのはどれでしょうか.
Out端子の直流電圧が負電源となる回路は?
図1の(A)~(D)の回路の中の1つは,正電源ではなく負電源を作る回路となります.整流回路に使われているダイオードには,1方向にしか電流を流さないという特性があります.Out端子の電圧が正電圧となるか負電圧となるかは,トランスの二次側がどのような電圧のときにダイオードに電流が流れるかを考えれば分かります.
図1(A)は半波整流回路で,図1(B)(C)は全波整流回路です.図1(D)も全波整流回路ですが,ダイオードの向きからOut端子の電圧は負電圧となります.したがって,正解は(D)になります.
●半波整流回路の動作をLTspiceで確認する
図2が図1(A)の半波整流回路をシミュレーションするための回路です.半波整流回路は,最もシンプルな整流回路です.出力リップルが比較的大きいという欠点がありますが,回路が簡単なため,あまり大きな電流を取り出す必要がない簡易電源に使用されます.
入力信号(V1)は実効値が100Vなので,ピーク値が141Vで周波数50Hzの正弦波とします.トランスは,コイルのL1とL2を組み合わせて構成します.図2のコイル上部のコマンド「K1 L1 L2 0.999」でL1とL2を結合し,トランスとして動作させます.「0.999」は2つのコイルの結合係数です.一次側のコイルのインダクタンス値は30Hです.入力となる家庭用電源の周波数が50Hzと低いため,非常に大きなインダクタンス値となります.また,コイルのパラメータのSeries Resistanceは200Ωに設定してあります.
一次側コイル(L1)と二次側コイル(L2)の巻き数比は10:1です.コイルのインダクタンス値は巻き数の二乗に比例するので,インダクタンス値の比は100:1になります.そのため,L2のインダクタンス値は0.3Hとします.Series Resistanceは20Ωとします.
ダイオード(D1)にはロームの整流ダイオードのモデルを選択して設定しました.C1は出力のリップルを減らすための平滑コンデンサですが,その効果を確認するため「.step」コマンドでC1の容量値を1pFと470μFに変化させてシミュレーションを行います.
図3は図2のシミュレーション結果です.平滑コンデンサが無い場合(1pF時)は正弦波の上半分だけのような波形となります.平滑コンデンサが470μFのときはリップルがだいぶ小さくなり,直流電圧は約11Vとなることが分かります.半波整流の場合,リップル周波数は入力信号の周波数と同じ50Hzになります.
リップル周波数は入力信号の周波数と同じ50Hz.
●センタ・タップ式全波整流回路の動作をLTspiceで確認する
図4が図1(B)をシミュレーションするための回路図です.図1(B)はセンタ・タップ式の全波整流回路です.二次巻き線にセンタ・タップがついたトランスを使う必要がありますが,整流ダイオード2個で全波整流を行うことができます.
センタ・タップは2つのコイルを直列接続して実現する.
図1(B)には巻き数比10:2でセンタ・タップ付のトランスが使われています.LTspiceでセンタ・タップ付のトランスが必要な場合,2つのコイルを直列接続して実現します.巻き数比が10:2なので,図2のL2相当のコイルを2つ直列接続することになります.そして,コマンド「K1 L1 L2 L3 0.999」で,3つのコイルを結合すれば,センタ・タップ付のトランスになります.
図5は,図4のシミュレーション結果です.平滑コンデンサが無い場合(1pF時)は正弦波を0Vを中心に折りたたんだような全波整流波形となります.平滑コンデンサが470μFのとき図3よりもさらにリップルが小さくなり,直流電圧は約12Vとなっています.そして,リップル周波数は入力信号の周波数の2倍で100Hzになります.図4の回路において,トランス二次側のセンタ・タップを基準とすると,図5下段のようにb点の電圧はa点の電圧とは逆位相になります.そして,それぞれの電圧をダイオードD1,D2で整流するため,Out端子には全波整流出力が現れることになります.
●ダイオード・ブリッジ全波整流回路の動作をLTspiceで確認する
図1(C)のような回路をダイオード・ブリッジ整流回路と言います.ブリッジ状に接続された4つのダイオードを使用することで,センタ・タップ付のトランスを使用せずに全波整流回路を構成することができます.
図6と図7は,ダイオード・ブリッジ整流回路で,一次側の交流電源(100V)の極性の違いで起こる,二次側の電流経路の違いを示しています.図6の赤線は二次巻き線の上側が正電圧のときの電流経路を表しています.また,図7は二次巻き線の下側が正電圧のときの電流経路を表しています.このように,どちらの極性のときも,Out端子の電圧は正電圧となります.ただし,電流経路の中に2つのダイオードがあるため,図1(B)に比べ,ダイオードによる電圧ロスは2倍になります.
Out端子の電圧は正(+)電圧となる.
Out端子の電圧は正(+)電圧となる.
図8が図1(C)をシミュレーションするための回路です.センタ・タップ付のトランスを使用せずに全波整流回路を構成します.
センタ・タップ付のトランスを使用せずに全波整流回路を構成.
図9が図8のシミュレーション結果になります.Out端子には図5と同様,全波整流出力が得られています.
リップル周波数は入力信号の周波数の2倍で100Hz.
●負電源回路の動作をLTspiceで確認する
図10は図1(D)をシミュレーションするための回路図です.図1(D)も図1(C)と同様,ダイオード・ブリッジによる全波整流回路ですが,図1(C)とはダイオードの向きがすべて逆そのため,Out端子には正(+)の電圧ではなく,負(-)の電圧が出力されることになります.
図8とはすべてのダイオードの向きが逆になっている
図11が図10のシミュレーション結果です.Out端子には全波整流出力が得られていますが,その極性は図9とは反対でOut端子の直流電圧は-11Vになっています.
Out端子の直流電圧は約-11Vとなっている.
以上,トランスとダイオードを使用した整流回路を紹介しましたが,50Hz,60Hzといった家庭用電源に直接接続するトランスは非常に大きく重いものになります.そのため,最近では今回紹介したような電源ではなく,小型,軽量を特徴としたスイッチング電源が広く使用されるようになっています.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_010.zip
●データ・ファイル内容
half_rect.asc:図2の回路
full_rect_1:図4の回路
full_rect_2:図8の回路
full_rect_3:図10の回路
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