ワイドラー電流源の入出力電流と抵抗値の関係
図1は,Q2のコレクタが出力となるワイドラー電流源(Widlar Current source)です.ワイドラー電流源は,Q1とQ2からなる基本的なカレント・ミラー回路にR2を加えたとてもシンプルな回路です.R2によりQ2のコレクタ電流は,Q1のコレクタ電流より小さな電流を出力します.R1は,6.8kΩでその抵抗の上部の端子に5Vの電源(V1)が接続されています.また,Q2は,電源(V2)が接続されコレクタ電圧は2.5Vです.この場合Q1とQ2のベース電圧を調べると645mVです.
図1で出力電流(Q2のコレクタ電流)が約100μAとなる場合,抵抗(R2)は,(a)~(d)のうちどれでしょうか.なお,計算を簡単にするため,Q1とQ2の電流増幅率(β)とトランジスタのアーリー電圧(VA)は無限大(∞),トランジスタの熱電圧(VT)は25.8mVとします.
今回は,回路のバイアス電流源で使われる,ワイドラー電源源について解説します.ワイドラー電流源は,少ない素子数で構成でき,出力抵抗が大きいためQ2のコレクタ電圧によるコレクタ電流の変化が少なく,R2により出力電流が調整できる便利な電流源として使われます.回路の計算は,Q1とQ2のベースが接続されており,同じ電圧(ここでは645mV)であることから,Q1のベース電圧であるVBE1とQ2のベース電圧であるVBE2+IE2R2が等しいと考えると解答が求められます.
ワイドラー電流源は,ボブ・ワイドラー氏(Robert John Widlar)により考案されました.ボブ・ワイドラー氏は,1963年にモノリシックOPアンプとして最初に発表されたμA702の開発や,最初の5Vリニア・レギュレータである LM109の開発でも有名なアナログ回路の先駆者の一人です.
図1のQ1に流れるコレクタ電流は,式1となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
トランジスタの電流増幅率は「β=∞」なので,Q2のコレクタ電流とエミッタ電流は等しいと考えて「IC2=IE2」とします.また,Q1のベース電圧であるVBE1とQ2のベース電圧であるVBE2+IE2R2が等しいことより,R2とIC1とIC2の関係は式2となります.式2へ「IC1=640μA,IC2=100μA,VT=25.8mV」を代入すると「R2=479Ω」となります.
・・・・・・・・・・・・・・(2)
以上より,(a)~(d)のなかで「R2=479Ω」に近い値は,(c)の470Ωとなります.
●ワイドラー電流源の出力電流は抵抗で調整できる
図1のQ1とQ2を同じトランジスタで構成したワイドラー電流源において,R2を短絡すると,基本的なカレント・ミラー回路になります.この場合,Q1のコレクタ電流とQ2のコレクタ電流は「IC1:IC2=1:1」の比になります.ワイドラー電流源は,Q2のエミッタ側に抵抗(R2)を入れることにより,Q2のベース・エミッタ間電圧のVBE2が小さくなります.このためコレクタ電流IC2が減り,基準となるQ1のコレクタ電流より小さな電流出力が欲しいときに使います.そこで,図1を用いてIC1,IC2,R2の関係を導きます.Q1とQ2のベース電圧は,等しいことから式3となります.ここでβはトランジスタの電流増幅率です.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
トランジスタのベース・エミッタ間電圧(VBE)を,逆方向飽和電流ISとコレクタ電流ICで表し,式3を書き直すと式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
電流増幅率が無限大(β=∞)とすれば,式5となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
よって,ワイドラー電流源のIC1,IC2,R2の関係は式6となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式6を抵抗(R2)で整理すると,解答の式2となり,計算で479Ωとなります.
●ワイドラー電流源の出力抵抗は大きな値となる
ワイドラー電流源のもう一つの特徴として,出力抵抗を大きくできます.出力抵抗が大きいと,電流源の出力端子電圧(図1ではV2)が変化しても一定の電流を流し続けますので,電流源の特性は良くなります.
ここで,ワイドラー電流源の出力抵抗を,図2を用いて計算します.図2(a)は,出力抵抗を検討する回路のイメージ図です.図2(b)は,トランジスタをπ型小信号等価回路で示しました.図2(b)中の記号はrπがベースからみた入力抵抗,gmはトランジスタのトランスコンダクタンス,roはコレクタからみたトランジスタの出力抵抗です.
ワイドラー電流源の出力抵抗を調べるため,Q2のコレクタへ,テスト用の電流源(it)を接続し,出力端子の電圧(vt)と電流(it)より,出力抵抗「Ro=vt/it」を計算します.またQ2のベースは,交流的に電圧が変動しないので,交流的に接地という意味でグラウンドへ接続しています.
(a) ワイドラー電流源の出力抵抗を調べる回路.
(b) トランジスタをπ型小信号等価回路で示した.
テスト用の電流源(it)から,Q2コレクタへ流れ込む電流は,図2(b)のエミッタでみると,抵抗rπとREへ流れます.これよりrπの両端にかかる電圧(v1)は式7となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
図2(b)のroに流れる電流をi1とすると,コレクタ端子のキルヒホッフの電流法則(KCL)より式8となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
式7と式8より,テスト電流源を接続したときのコレクタの電圧vtは式9となります.
・・・・・・・・・・(9)
ワイドラー電流源の出力抵抗(Ro)は「Ro=vt/it」ですので,式9を変形して式10となります.
・・・・・・・・・・・・・・・(10)
式10の右辺にある2つの抵抗項の大小関係は「(rπ||RE) << ro[1+gm(rπ||RE)]」ですので,ワイドラー電流源の出力抵抗は「rπ=β/gm」を用いると,式11で近似値が求められます.
・・・・・・・・・・・・・(11)
式11で「gmRE<<βo」なら,更に近似でき,式12がワイドラー電流源の出力抵抗が求められます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)
具体的な値を入れて計算すると,
・トランジスタの出力抵抗(ro)は「ro=VA/IC2」で求まります.ここで,VAはトランジスタのアーリー電圧であり,2N2222のトランジスタは「VA=100V」です.また図1の条件より,Q2のコレクタ電流は「IC2=100μA」です.
・トランジスタのトランスコンダクタンス(gm)は「gm=IC2/VT」で求まります.VTは,トランジスタの熱電圧で,周囲温度27℃とすれば「VT=25.8mV」です.
以上の数値より,式13のように,ワイドラー電流源の出力抵抗は約2.8MΩと大きな値となります.
・・・・・・・・・・・・・(13)
●ワイドラー電流源の出力電流を確かめる
図3は,図1のワイドラー電流源をシミュレーションする回路です.R2は問題の220Ω,330Ω,470Ω,680Ωを「.stepコマンド」で変化させます.また,Q2のコレクタ電圧をV2の電圧源を「.dcコマンド」でスイープさせ,出力電流の変化から出力抵抗も計算します.
「.stepコマンド」でR2の値を変化させている.
図4は,図3のシミュレーション結果です.この結果からもQ2の出力電流が100μAとなるR2は470Ωであることが分かります.
Q2のコレクタ電流が100μAになるR2は470Ωである.
●ワイドラー電流源の出力抵抗を確かめる
図5は,R2が470Ωのみをプロットし,2.5V~4V変化したときのQ2のコレクタ電流の変化量を求め,出力抵抗(Ro)を計算しました.先ほど計算した出力抵抗2.8MΩと同じ値であることが分かります.このようにワイドラー電流源は大きな出力抵抗となります.
470Ωのみをプロットし,出力抵抗(Ro)が2.83MΩであることが確認できる.
●ワイドラー電流源のコレクタ電流の変化を確かめる
図6は,図3の回路で,V1を5V±10%変化させたときのQ2のコレクタ電流の変化を調べました.図3の「.dcコマンド」は「.dc V1 4.5 5.5 1m」と変更したシミュレーションの結果です.
ワイドラー電流源は,Q2のエミッタ側にR2があるため,電源電圧の変動が±10%のとき,出力電流のQ2のコレクタ電流は約±4%です.電源電圧が変動してQ1のコレクタ電流が変化しても,Q2のコレクタ電流の変化を抑えることができます.
Q2のコレクタ電流の変化は約±4%の変化となる.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_008.zip
●データ・ファイル内容
Widlar_Current_Source.asc:図3の回路
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