トランスの巻き数と入力/出力電圧の関係



『LTspice Users Club』のWebサイトはこちら

■問題

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,トランス(変圧器)を使い1次側コイル(Primary)の入力電圧(vp)を2次側コイル(Secondary)の出力電圧(vs)へ変換(昇圧/降圧)する回路です.トランスの巻き数の比は,1次側コイル(Lp)の巻き数をNp,2次側コイル(Ls)の巻き数をNsとすると「Np:Ns=3:1」です.また,トランスは,漏れ磁束のない,結合係数(k)が1で,2つのコイルの内部抵抗がゼロの無損失とします.コイルのインダクタンスは,巻き数比の2乗に比例するため「Lp=900μH」,「Ls=100μH」としました.
 1次側コイルには,電圧振幅(vi)が9V,周波数(f)が100kHz,信号源抵抗(RS)が0.1Ωの交流電圧源が接続されています.この場合,2次側コイルの電圧(vs)は,次の(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 巻き数の比「Np:Ns=3:1」となるトランスの回路
2次側コイルの電圧(vs)は何Vでしょうか?

(a) 27V,(b) 81V,(c) 1V,(d) 3V

■ヒント

 今回は,トランスの巻き数の比と入力電圧,出力電圧の比について解説します.図1の2つのコイルは,結合係数(k)が1であることから,1次側コイル(Lp)の磁束Φは,漏れることなく全て,2次側コイル(Ls)に関係しています.よって,トランスの1次側コイルの電圧は「vp=Np*(dΦ/dt)」となり,2次側コイルの電圧は「vs=Ns*(dΦ/dt)」となります.この関係より2次側コイルの電圧(vs)が求まります.

 トランスは電力システムやパワー・エレクトロニクスの分野において重要な部品です.トランスは巻き数の比により1次側と2次側で電圧を変換(昇圧/降圧)できることから,高圧の電力線から家庭の100V商用電源に電圧を降圧したり,また,ACアダプタのように,商用電源から直流を作るAC-DCコンバータやDC-DCコンバータなどに広く使われています.トランスは「トランスフォーマ(Transformer)」を略した呼び名です.

■解答


(d) 3V

 トランスの1次側コイルの電圧(vp)と2次側コイルの電圧(vs)は巻き数の比に関係し「vp/vs=Np/Ns」となります.図1の巻き数の比は「Np/Ns=3」であり,vpの電圧は9Vであることから,vsは「vs=vp/3=3V」と降圧します.逆に,巻き数の比を「Np:Ns=1:3」にすると27Vに昇圧します.

■解説

●トランスは磁気的に結合されたコイル
 図2は,2つのコイルと1つのコアからなる理想トランスのイメージ図です.コイルは導線を巻いたインダクタですが,ここではコイルと呼ぶことにします.図2は,左側のコイルを1次側,右側のコイルを2次側とし,1次側コイルの巻き数をNp,2次側コイルの巻き数をNsとして表しています.
 トランスは磁気的に結合したコイルであり,1次側のコイルに電流が流れると,磁束Φはコアが通り道となって伝わり,2次側に誘導起電力が生まれます.トランスは1次側コイルから2次側コイルに「電気-磁気-電気」と変化しながら伝送します.また2つのコイルは電気的に絶縁されていることから,高電力システムからの感電を防ぐ目的もあります.
 ドット(黒の点)は極性を示し,1次側の逆起電力と2次側の誘導起電力は,ドットの記号に対して同じ方向になり,図2の場合はvpとvsが同相となります.


図2 理想トランスのイメージ図
1次側コイルの巻き数をNp,2次側コイルの巻き数をNsとした.

●トランスの電圧,電流,電力の関係
 図3は,図2で示したトランスの回路図です.2つのコイルは磁気的に結合しており,その結合係数を図1で示したkで表します.


図3 図2で示したトランスの回路図
コイルの隣にあるドット(黒の点)は極性を示す.

 結合係数(k)は,2つのコイルの磁気的な結合の尺度であり,2つのコイルの自己インダクタンス(Lp,Ls)と,相互インダクタンス(M)は,式1の関係となります.ここで,kは「0≦k≦1」の範囲であり,kが1のときが理想トランスで,1次側コイルの磁束は全て2次側コイルに入り,完全な磁気結合の状態となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 理想トランスの電圧,電流,電力の関係についてまとめると次のa~cのようになります.

a.理想トランスの1次側と2次側の電圧の関係
 1次側コイルの電圧(vp)と2次側コイルの電圧(vs)は,結合係数(k)を1としたとき,式2と式3の関係があります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式2と式3より,1次側コイルと2次側コイルの電圧の比(vp/vs)と,巻き数の比(Np/Ns)は式4となります.このように1次側と2次側の電圧の比は,巻き数の比「n=Np/Ns」に比例します.式4の関係より,図1の2次側の電圧(vs)の振幅は3Vと解答で計算しました.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
b.理想トランスの1次側と2次側の電流の関係
 トランスの1次側の電流(ip)と2次側の電流(is)は,巻き数の比により変えることができます.式5は,巻き数と電流の関係を示しました.式5を整理したものが式6であり,1次側と2次側の電流の比は,巻き数の比に反比例します.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

c.理想トランスの1次側と2次側の電力の関係
 トランスの1次側の電力(Pp)と2次側の電力(Ps)は式7と式8となります.これより1次側と2次側の電力の比は,式9となり,理想トランスの場合,電力は等しくなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 以上,1次側と2次側の電圧,電流,巻き数,自己インダクタンスは,aの電圧とbの電流,コイルのインダクタンスの関係から,巻き数比の2乗に比例することを使うと式10の関係となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)

●LTspiceで2次側コイルの電圧を確かめる
 図4は,図1の回路をシミュレーションする回路です.LTspiceでトランスを回路図エントリするとき,極性を示したインダクタはコンポーネント中の「ind2」を使います.


図4 図1をシミュレーションする回路
極性を示したインダクタはコンポーネント中の「ind2」を使う.

 結合係数(k)は,Spice Directiveを使って回路図に入れ込みます.Spice Directiveは,「Edit-> SPICE Directive」または,キーボードの「S」を押して図5のようにKステートメントを入力します.Kステートメントは,1次側コイルがLp,2次側コイルがLsで,そのときの結合係数(k)が1のとき,「k Lp Ls 1」という記述になります.詳しくは,ヘルプの検索で「K Mutual Inductance」と入力し,Kステートメントの文法をご参照ください.


図5 LTspiceで結合係数(k)を入力する画面
SPICE DirectiveでKステートメントを入力.

 電圧源の信号限抵抗は,電圧源を右クリックし,図6のように信号源抵抗0.1Ωとしています.


図6 独立電圧源の設定画面
電圧源を右クリックし,信号源抵抗値を入力する.

 図7は,図4のシミュレーション結果です.2次側コイルの電圧(vs)の振幅は,3Vであることが確かめられました.また,1次側コイル(Lp),2次側コイル(Ls)の極性(ドット)は同じ向きなので1次側コイルと2次側コイルの電圧は同相となります.


図7 図4のシミュレーション結果
2次側コイルの電圧(vs)は同相となる.

●2次側コイルの極性を反対にして電圧を確かめる
 次に2次側コイル(Ls)の極性(ドット)の向きを反対にした回路を図8に示します.


図8 2次側コイル(Ls)の極性を反対にした回路

 図9は,図8のシミュレーション結果です.図9のように,1次側コイルの逆起電力と,2次側コイルの誘導起電力が反対の向きになるので,2次側コイルの電圧(vs)は逆相となります.


図9 図8のシミュレーション結果
2次側コイルの電圧(vs)は逆相となる.

 このように,トランスの極性の向きで起こる同相と逆相は,スイッチング電源の回路方式で,同相(図4)がフォワード方式,逆相(図8)がフライバック方式となります.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_006.zip

●データ・ファイル内容
Trans1.asc:図4の回路
Trans2.asc:図8の回路

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報



別冊CQ ham radio QEX Japan No.53

巻頭企画 ハムのArduino活用の勧め

CQ ham radio 2024年12月号

アマチュア無線(再)開局お役立ち情報

CQゼミシリーズ

藤原進之介監修 テスト形式で総まとめ 情報Ⅰ標準問題集

トランジスタ技術 2024年12月号

世界AI ChatGPT電子回路

Design Wave Advance シリーズ

Arm Cortex-M23/M33プロセッサ・システム開発ガイド

アナログ回路設計オンサイト&オンライン・セミナ