回路の基本的な素子インダクタの電圧と電流
図1は,100μHのインダクタ(L1)に周波数が50Hz,実効値が100mAの交流電流i(t)を印加した回路です.インダクタに流れる交流電流i(t)は,インダクタの電圧v(t)を基準にすると,位相は遅れます.
インダクタ:100μH,交流電流i(t):50Hz,100mA.
図2は,図1の交流電流i(t)とインダクタの電圧v(t)を図示しました.図1のL1の電流i(t)と電圧v(t)との関係が正しいのは,図2の(a)~(d)のどれでしょうか?(a)と(b)は電圧の実効値が2.2mV,(c)と(d)は3.1mVです.また,(a)と(c)は,i(t)がv(t)より位相が90°遅れ,(b)と(d)は45°遅れています.
L1の電流i(t)と電圧v(t)との関係が正しいのは?
今回は,インダクタの電圧と電流の関係について解説します.インダクタに流れる電圧と電流は「v(t)=L1*di(t)/dt」の関係があります.「i(t)=√2*IiSIN(ωt)」より,v(t)の時間変化を求めると分かります.
インダクタの電圧は,インダクタンス(L1),電流i(t),時間(t)で表すと式1の関係があります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
また,電流は式2であり「ω=2πf」です.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
図1より,L1のインダクタンスは100μH,電流の振幅は√2*100mA,周波数(f)は50Hzより「ω=100π」です.式2を式1へ代入し整理すると式3となります.
・・・・・(3)
式3より,電圧の実効値は3.1mVで,周波数(f)は電流と同じ50Hzです.また,式2の電流i(t)を基準とすれば,式3の電圧v(t)は位相が90°進みます.言い換えれば,電圧v(t)を基準にすると,電流i(t)は90°遅れます.以上より,解答は(c)となります.
●インダクタは導線を巻いたもの
図3は,導線でループを作ったインダクタのモデルを使い,図1を書き直しました.インダクタへの電流は矢印の向きに流れ,ループの長さをl,ループの面積をA,電流により生じる磁界をB(t),透磁率をμとして表しています.
インダクタに交流電流を流すと右ねじの法則で磁界が生まれ,磁束も変化するため,インダクタには自己誘導による起電力が生じます.この起電力は,インダクタに流れる電流とは反対になる電流を流そうとするため,高周波になるほどコイルに流れる電流を阻止する働きとなります.図3の巻数は,1つですが,実際のインダクタは複数の巻数で作られています.透磁率を大きくするには,巻いた内側の空洞にコアを入れます.インダクタの単位はH(ヘンリー)を使い,1秒間に電流が1A変化したとき,電圧が1V変化すれば1Hとなります.
インダクタに交流電流を流すと右ねじの法則で磁界が生まれ,磁束も変化するため,インダクタには自己誘導による起電力が生じる.
●インダクタの電圧と電流の比例関係を導く
ここでは,図3用いてインダクタの電圧と電流の関係を導き,その性質を理解します.図3のループの長さをl,ループ内の面積をA,透磁率をμとすれば,磁界B(t)は式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
このときの磁束Φと電流の関係は,式5となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
ここで,Lは自己インダクタンスであり,式6となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
インダクタの電圧は,磁束を時間で微分した関係があり式7となります.式7はインダクタの電圧と電流の比例関係を示しています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
以上より,解答の計算で使った最初の式1が導出されました.解答では式7を使い,電流の実効値と位相を調べています.実際のインダクタは,導線を複数回巻いて作られています.この場合の自己インダクタンスは式8となります.式8のkは長岡係数,またnは巻数です.長岡係数とは,ソレノイドコイル(らせん状のコイル)のインダクタンスを求めるときに使う係数です.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
●インダクタの電圧をLTspiceで確かめる
図4は,図1をシミュレーションする回路で,インダクタの電圧VLを調べます.また,インダクタに流れる電流は赤の矢印方向をプロットします.
インダクタの電圧VLを調べる.
図5は,図4のシミュレーション結果です.まず,電圧波形の振幅をカーソルで調べると4.4mVです.これは√2×3.1mVと同じであり,解答の実効値と同じであることがわかります.実効値はプロットからも求めることができ,図5のv(vl)のラベルの上にカーソルを置き,Ctrl+左クリックで現れる図6の小さなウィンドウから,3.1mVであることがわかります.
電圧波形の振幅をカーソルで調べると4.4mV.
プロットしている波形のラベルの上で,コントロールキーを押しながら左クリック.
次に電圧が0Vと交差する時間と同じように,電流が0Aと交差する時間に着目します.解答の計算で得たように,インダクタの電圧を基準とすると,インダクタに流れる電流は90°遅れます.図5では電圧波形は5msで0Vになります.電流はそれより後の時間の10msで0Aになり,1/4周期遅れていることがわかります.1周期は360°(弧度法で2π)ですので,1/4周期は90°(弧度法でπ/2)となり,解答の計算と同じになります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_004.zip
●データ・ファイル内容
L_Voltage.asc:図4の回路
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