コンデンサの理想と現実の特性を近づける
電子回路を組み立てるときに実際に使用するコンデンサは,シミュレータ上の理想コンデンサとは異なった特性を示します.そこで,図1のようにインピーダンス測定器を使用し,0.33μFのフィルム・コンデンサのインピーダンスの周波数特性を測定しました.
0.33μFのフィルム・コンデンサのインピーダンスの周波数特性を測定.
図2の(A)~(D)がその測定結果です.横軸が周波数で縦軸がインピーダンスになっています.図2の(A)~(D)の中で,現実のフィルム・コンデンサのインピーダンス周波数特性を示すものはどれでしょうか?
特性として最も適切なものは?
理想コンデンサと現実のコンデンサは,異なった特性を示します.そこで,今回は,LTspice上で理想コンデンサを現実のコンデンサの特性に近づける方法を解説します.フィルム・コンデンサは構造上,本来のコンデンサ以外に,抵抗成分やインダクタンス成分を含んでいます.それを等価回路で表現すると,コンデンサと抵抗とインダクタを直列に接続したものになります.その等価回路のインピーダンスの周波数特性がどのようになるかを考えれば,答えが分かります.
コンデンサと抵抗およびインダクタの直列回路のインピーダンンス周波数特性は,特定周波数でインピーダンスが最小になり,V字型の特性なります.そのような特性となっているのは(D)なので,正解は(D)ということになります.
●理想コンデンサと現実のコンデンサ
理想コンデンサは,周波数に比例してインピーダンスが小さくなるという性質がありますが,現実のコンデンサの特性はこれとは異なります.現実のコンデンサではリード線や電極のインダクタンス成分および抵抗成分などの寄生素子があるためです.そのため,周波数に比例してインピーダンスが小さくなるのではなく,特定の周波数以上になると,逆にインピーダンスが大きくなってしまいます.
この特性を表現するために,図3のように,コンデンサ,抵抗,インダクタを直列に接続した3素子等価回路というものが使われます.さらに厳密に特性を合わせるために素子を追加した等価回路もありますが,概略の特性は3素子等価回路で表現することができます.直列に接続した抵抗をESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)と呼び,インダクタをESL[Equivalent Series L(inductance):等価直列インダクタ]と呼びます.現実のコンデンサにはフィルム・コンデンサ,セラミック・コンデンサ,電解コンデンサなどいろいろな種類があり特性も異なります.しかし,3素子等価回路の定数を変えることで,その特性を再現することができます.
コンデンサ,抵抗,インダクタを直列に接続.
図3の回路のインピーダンスは,コンデンサ,抵抗,インダクタそれぞれのインピーダンスを加算したものになり,式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1のインピーダンスの絶対値は式2で計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2より,インピーダンスの絶対値は「ωL=1/ωC」のときに最小になり,その値はRになることが分かります.「ωL=1/ωC」となるωを求めると式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
ここで「ω=2πf」なので,式3を変形して周波数(f)を求めると式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
この周波数は直列共振周波数と呼ばれます.
●コンデンサのインピーダンスをシミュレーションする
図4がコンデンサのインピーダンスをシミュレーションするための回路です.左が理想コンデンサで右側が現実のコンデンサ(フィルム・コンデンサ)の等価回路です.抵抗(R1)が0.03Ωとなっているので,右側の回路の最小インピーダンスは0.03Ωになります.また,式4に値を代入すると,式5のように共振周波数は1.96MHzになることが分かります.
左が理想コンデンサで右側が現実のコンデンサ.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
図5がそのシミュレーション結果です.V(in1)/I(VIN1)のように,信号源の電圧を,その信号源の電流で割ることで,インピーダンスを表示させています.図4を見るとわかるように理想コンデンサのインピーダンスが周波数に比例して小さくなっているのに対し,現実のコンデンサでは,約2MHzを境に,周波数が高くなるとインピーダンスが大きくなっていきます.このグラフは図2の(D)と同じです.
現実のコンデンサは特定周波数以上でインピーダンスが上昇する.
●コンデンサの容量値を変えてシミュレーションする
図6は,コンデンサの容量値が異なるコンデンサの特性を確認するため,容量値を変えてシミュレーションする回路です.現実のコンデンサでは,容量値が異なると,インタクタンスや抵抗の値も変わりますが,ここでは,簡易的に容量値のみを変化させます.コンデンサの容量値をCという変数に置き換え「.step param C list 0.033u 0.1u 0.33u 1u 4.7u」というコマンドでCの値を変化させます.シミュレーションしたい容量値をlistの後ろに羅列します.
容量値をC という変数にして「.step コマンド」で値を変化させる.
図7が,図6のシミュレーション結果です.当然ですが,共振周波数はコンデンサの値が大きいほど低くなり,コンデンサとして働く周波数範囲が狭くなります.
●電解コンデンサのインピーダンス周波数特性
前述したようにフィルム・コンデンサ以外のコンデンサも,図3の3素子等価回路で表現することができます.図8が電解コンデンサの等価回路の一例のシュミレーション用の回路図です.
フィルム・コンデンサに比べ直列抵抗成分が大きい
図9がそのシミュレーション結果です.電解コンデンサは,フィルム・コンデンサなどと比べ,直列抵抗成分(ESR)が大きいという特徴があります.そのため,インピーダンスの周波数特性はV字型ではなく,バスタブのような特性になり,直列共振周波数がはっきりしない特性になります.なお,同じ容量値のコンデンサでもメーカや製品種別,耐圧などによって直列抵抗成分(ESR)の値は異なります.
直列共振周波数がはっきりしない特性となっている.
以上のように,現実のコンデンサは理想コンデンサとは異なった特性を示します.そのため,理想コンデンサを使用した回路シミュレーションの結果と,実際に組み立てた回路の特性が異なる場合がありますので,注意が必要です.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_003.zip
●データ・ファイル内容
idealC_realC.asc:図4の回路
val_C.asc:図6の回路
E_C.asc:図8の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs