モータが正しく回る駆動回路とコントロール波形は?
図1は,ブラシ付きDCモータを駆動する回路(回路1,回路2)と,コントロール電圧波形(信号1,信号2)です.コントロール電圧波形は,V(1)がM1のゲート電圧で,V(2)がM2,V(3)がM3,V(4)がM4となります.使用するモータの定格電圧は5Vで,モータの+側端子に正電圧を加えたときに右回転し,-側端子に正電圧を加えると左回転します.使用するMOSFETは,RSR025N03が4V駆動タイプのNch MOSFETで,RSR025P03が4V駆動タイプのPch MOSFETです.また,コントロール信号の電圧は5Vとします.
定格電圧で正しくコントロールできる組み合わせは?
この条件で,モータを5秒間右回転させ1秒間停止,次に5秒間左回転させるようにコントロールしようとしています.定格電圧でモータを正しくコントロールできる回路とコントロール電圧波形の組み合わせは(A)~(D)のどれでしょうか.
まず,MOSFETの組み合わせを考えます.回路1がNch MOSFETとPch MOSFETの組み合わせで,回路2がNch MOSFETだけで回路を構成しています.それを踏まえて,モータに定格電圧が加わるのはどちらの構成かを考えます.次に,M1からM4のMOSFETが,どのようなタイミングでONすれば,モータが希望の回転をするのかを考えれば,答えが分かります.
図1の回路1,回路2では,MOSFETをスイッチとして使用します.コントロール電圧(ゲート電圧)と,電源電圧が同じ値の場合,負荷に電源電圧と同じ電圧が加わるようにするためには,電源側のMOSFETにPch MOSFETを使用する必要があります.Pch MOSFETを使用しているのは回路1なので,答えは(A)か(B)ということになります.
Nch MOSFETをONさせるためにはゲートに5Vを加えます.Pch MOSFETをONさせるときは,ゲート電圧を0Vにします.これを踏まえて考えると,MOSFETがONするタイミングが問題の条件に合っているのは信号1です.したがって正解は(A)の「回路1と信号1」ということになります.
●MOSFETの特徴
MOSFETは,ゲートに電圧を印加することで,ドレインとソースの間に電流が流れるようになります.一般的にトランジスタと呼んでいるバイポーラ・トランジスタと比べると,ベース電流が必要無く,スイッチとして使用したときの応答速度が速いという特徴があります.
バイポーラ・トランジスタはベース・エミッタ間に0.6~0.7Vの電圧が加わるとコレクタ電流が流れますが,MOSFETでドレイン電流が流れ始めるゲート・ソース間電圧は製品ごとに異なることに注意が必要です.
図1で使用したMOSFETは,4V駆動タイプと呼ばれるもので,ゲート・ソース間電圧に5Vを印加すれば,抵抗の小さいスイッチとして動作することが保証されたものです.図1の検討をする前に,今回使用したMOSFETの静特性をシミュレーションで確認しておきます.
●Nch MOSFETの静特性をLTspiceで確認する
図2は,Nch MOSFETのRSR025N03の静特性をシミュレーションするための回路図とドレイン電流のシミュレーション結果です.ドレインに加える電圧のVDを0Vから5Vまで10mVステップで変化させ,ゲートに加える電圧のVGは0Vから5Vまで0.5Vステップで変化させています.
シミュレーション結果を見ると,VGが2V以下ではドレイン電流が流れず,2.5V以上で流れ始めていることが分かります.また,ドレイン電圧が変化するとドレイン電流が変化する領域があります.その部分の直線の傾きがスイッチとして使用したときのオン抵抗を表しています.傾きが大きいほど抵抗が小さいことになります.また,VGが大きいほど抵抗が小さくなることも分かります.
VGが2.5V以上でドレイン電流が流れ始める.
●Pch MOSFETの静特性をLTspiceで確認する
図3は,Pch MOSFETのRSR025P03の静特性をシミュレーションするための回路図とドレイン電流のシミュレーション結果です.図2と同様,ドレインに加える電圧のVDを0Vから5Vまで10mVステップで変化させ,ゲートに加える電圧のVGは0Vから5Vまで0.5Vステップで変化させています.VGは電源を基準に,負の電圧が加わるように接続してあることに注意してください.図3もVGの絶対値が2V以下ではドレイン電流が流れず,2.5V以上で流れ始めていることが分かります.
VGの絶対値が2.5V以上でドレイン電流が流れ始める.
●ブラシ付きDCモータのコントロール方法
図4は,ブラシ付きDCモータを,機械式のスイッチでコントロルする方法を図解したものです.矢印は,電流の流れる方向を示しています.S1とS4をONさせればモータの+側端子に+5Vが加わることになり,モータは右回転します.S2とS3をONさせればモータの-側端子に+5Vが加わることになり,モータは左回転します.
S1とS3がONになった状態がブレーキモードです.回転しているモータは発電機として動作しますが,モータの両端をショートすると大きな電流が流れ,回転エネルギーを失うため,モータを素早く停止させることができます.今回の問題の場合は5秒間「右回転」とした後,約1秒間「ブレーキ」の状態として,次に5秒間「左回転」とすればよいことになります.
矢印は電流の流れる方向を示している.
●MOSFETでのモータ・コントロールの動作を確認する
図5は,図1の回路1をシミュレーションするための回路図です.モータは50Ωの抵抗(RM)に置き換えています.また,コントロール信号はPWL電圧源で表現しています.なので,回路図を見やすくするため,電圧源の場所を移動し,ラベル(1~4)で接続するようにしています.
Nch MOSFETはゲート電圧0VでOFFとなり,ゲート電圧5VでONになります.Pch MOSFETはソース(電源)を基準としてゲート電圧0VでOFFとなり,ゲート電圧-5VでONになります.GND基準で考えるとゲート電圧5VでOFFとなり,ゲート電圧0VでONとなります.
停止状態では,全てのトランジスタをOFFとするため,M1とM3のゲート電圧を0Vとし,M2とM4のゲート電圧を5Vとします.
右回転のときは,M1とM2がONする必要があるので,M1のゲート電圧を5V,M2のゲート電圧を0Vにします.ブレーキのときは,M1とM2のゲート電圧を5Vにします.
左回転のときは,M2とM3をONさせるため,M2のゲート電圧を0Vとし,M3のゲート電圧を5Vにします.
コントロール信号はPWL電圧源で表現している.
図6は,図5のシミュレーション結果です.V(1)~V(4)がPWL電源の出力電圧で,これは図1の信号1と同じ波形です.最上段はモータのかわりの抵抗(RM)の両端電圧です.1秒~6秒の間はM1とM4が同時にONします.そのため,RMの両端電圧は+5Vとなっており,モータが接続されていれば右回転することを示しています.6.1秒~6.9秒の間は,M1とM3が同時にONするブレーキ・モードになっています.次に,7秒~12秒の間はM2とM3が同時にONしています.そのため,RMの両端電圧は-5Vとなっており,モータが接続されていれば左回転することを示しています.
抵抗の両端電圧が+5Vと-5Vに切り替わり,所望の動作となっている.
●Nch MOSFETのみの回路の動作を確認する
図1の回路2は,Nch MOSFETだけで構成されており,今回の使い方ではモータに定格電圧を加えることはできません.最後にNch MOSFETだけで構成した場合は,どのような動作になるかをシミュレーションしてみます.図7は,図1の回路2をシミュレーションするための回路図です.図5と同様にPWL電圧源で,図1の信号2と同じ波形を作っています.
この回路ではモータに定格電圧を加えるることはできない.
図8は,図7のシミュレーション結果です.V(2)とV(4)の信号が図6と異なっています.このような信号でコントロールすることで,モータに定格電圧を加えることはできませんが,図5の回路と機能的には同じになります.ただし,図5の回路ではM2とM4がスイッチとして動作するのに対し,図7の回路ではソース・ホロアとして動作しています.そのため,モータの端子を電源と同じ電圧にすることができず,抵抗(RM)の両端電圧は+3Vと-3Vになっています.
Nch MOSFETだけでこのような回路を構成し,定格電圧でコントロールする場合,M2とM4などの上側MOSFETのゲートに電源電圧よりも高い電圧を加えられるようにする工夫が必要になります.
機能的には図6と同じだが,モータには3Vしか電圧が加わらない.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_045.zip
●データ・ファイル内容
NchMOSFET.asc:図2の回路
PchMOSFET.asc:図3の回路
H-SW_1.asc:図5の回路
H-SW_2.asc:図7の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs