OPアンプ+トランジスタで出力電圧の大きな大電流出力アンプはどれ?
図1の回路(A)~(D)は,OPアンプとトランジスタを組み合わせて,大きな電流が出力できるように考えた大電流出力アンプです.回路の違いは,(A)と(B)はNPNトランジスタがコレクタ接地で,出力からの帰還信号は,(A)がOPアンプの-入力(反転端子),(B)がOPアンプの+入力(非反転端子)に接続されています.また,(C)と(D)はPNPトランジスタがエミッタ接地で,出力からの帰還信号は,(C)がOPアンプの-入力,(D)がOPアンプの+入力に接続されています.
接続されている負荷(RL)はヒータで抵抗値は5Ωです.そのため,Out端子が5Vになると,1Aの電流が流れることになります.使用しているOPアンプ(U1:LT1366)は,レール・トゥ・レール入力/出力で,出力が0Vから電源電圧までフルスイングすることができます.大電流出力アンプのゲインは20dB(10倍)で,入力電圧(Vin)は0Vから0.5Vまでゆっくりと変化します.
このような回路構成で,電源電圧を5Vとした場合,入力に比例した出力電圧が得られ,負荷に最も大きな電圧を出力できる回路は(A)~(D)のどれでしょうか?
回路の違いは,(A)と(B)はNPNトランジスタがコレクタ接地で,出力からの帰還信号は,(A)がOPアンプの-入力,(B)がOPアンプの+入力に接続されている.(C)と(D)はPNPトランジスタがエミッタ接地で,出力からの帰還信号は,(C)がOPアンプの-入力,(D)がOPアンプの+入力に接続されている.
図1の回路(A)~(D)において,最大出力電圧は,トランジスタがどのような接地モードで動作しているかによって変わります.エミッタ接地とコレクタ接地のどちらが最大出力が大きいか,また,出力からの帰還信号がOPアンプの+入力,-入力のどちらに接続されていれば,増幅回路として正常に動作するかを考えれば,正解が分かります.
図1の回路(A)と(B)は,コレクタ接地のNPNトランジスタがエミッタ・フォロアとして動作します.OPアンプの出力電圧が電源電圧と同じになっても,出力電圧はそれよりもベース・エミッタ電圧だけ低くなります.
また,回路(C)と(D)は,エミッタ接地のPNPトランジスタが増幅回路として動作します.最大出力時には,コレクタ電圧は,ほぼ電源電圧と同じになります.そのため,最大出力が大きいのは(C)か(D)ということになります.
ただし,PNPトランジスタがエミッタ接地アンプとして動作するため,トランジスタで位相が反転します.そのため,OPアンプとトランジスタを組み合わせて,アンプとして正常に動作させるためには,出力からの帰還信号をOPアンプの+入力端子に加える必要があります.そのような接続となっているのは回路(D)なので,正解は(D)ということになります.
●OPアンプ+コレクタ接地トランジスタ
図1の回路(A)は,OPアンプの出力に,コレクタ接地のNPNトランジスタによるエミッタ・フォロアが接続されています.トランジスタのエミッタ電流は「ベース電流×(hfe+1)」になります.OPアンプの出力電流はトランジスタQ1のベース電流となるため,回路(A)は,OPアンプ単体の出力電流の(hfe+1)倍の電流が出力できるようになります.
OPアンプ(LT1366)の最大電流は30mAですから,トランジスタのhfeを100とすると,約3Aの電流が出力できることになります.また,OUT端子の電圧はR1とR2で分圧され,OPアンプの-入力端子に接続されています.そのため,回路(A)は全体として非反転増幅回路として動作します.そのゲイン(G)は,式1で表されます.
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トランジスタQ1は,エミッタ・フォロアとして動作しているので,Out端子の電圧はOPアンプの出力電圧からQ1のベース・エミッタ電圧(約0.7~0.8V)だけ下がった電圧になります.そのためOPアンプ出力が電源電圧まで上がったとしても,Out端子の電圧は電源電圧と同じ電圧になることはできません.
●OPアンプ+コレクタ接地トランジスタ回路をLTspiceで確認する
図2は,回路(A)をシミュレーションするための回路図です.DC SEEP解析で,Vinを0Vから0.5Vまで10mVステップで変化させます.
DC SEEP解析で,Vinを0Vから0.5Vまで10mVステップで変化させる.
図3はその結果です.出力電圧の最大値は4.2V程度となっています.
最大電圧は4.2V程度となっている.
図4は,回路(B)をシミュレーションするための回路図と結果です.Out端子からの帰還信号がOPアンプの+入力端子に接続されているため,正帰還となってしまい,正常に動作していません.
Out端子からの帰還信号が,正帰還となってしまい正常に動作していない.
●OPアンプ+エミッタ接地トランジスタ
図1の回路(D)は,OPアンプの出力にエミッタ接地のPNPトランジスタによる増幅回路が接続されています.トランジスタのコレクタ電流は「ベース電流×hfe」になります.OPアンプの出力電流はトランジスタQ1のベース電流となるため,回路(D)は,OPアンプ単体の出力電流のhfe倍の電流が出力できるようになります.回路(A)と同様に,OPアンプの最大電流を30mAとし,トランジスタのhfeを100とすると,約3Aの電流が出力できることになります.
回路(A)との違いは,トランジスタがエミッタ接地増幅回路として動作するため,ベースに加わる入力に対して,コレクタ出力の位相が反転することです.OPアンプの出力電圧が上がると,トランジスタのコレクタ電流が減少し,Out端子の電圧が下がります.OPアンプの出力とOut端子の出力の位相が反転しているため,Out端子からの帰還信号は-入力端子では無く,+入力端子に接続する必要があります.回路(D)も非反転増幅回路として動作し,そのゲインは式1で計算できます.
●OPアンプ+エミッタ接地トランジスタ回路をLTspiceで確認する
図5は,図1の回路(D)をシミュレーションするための回路図です.
DC SEEP解析で,Vinを0Vから0.5Vまで10mVステップで変化させる
図6はその結果です.最大出力は4.9V程度となっており,回路(A)よりも大きな出力電圧となっていることが分かります.
最大電圧は4.9V程度となっている.
図7は,回路(C)をシミュレーションするための回路図とその結果です.Out端子からの帰還信号がOPアンプの-入力端子に接続されているため,正帰還となってしまい,正常に動作していません.
Out端子からの帰還信号が,正帰還となってしまい正常に動作していない.
●OPアンプ+エミッタ接地トランジスタの回路は発振しやすい
図3[回路(A)]と図6[回路(D)]を比べるて分かるように,大電流出力アンプの構成としては「OPアンプ+エミッタ・フォロア」よりも,「OPアンプ+エミッタ接地増幅回路」のほうが,大きな出力電圧が得られます.しかし,一般的によく使用されるのは「OPアンプ+エミッタ・フォロア」という構成です.「OPアンプ+エミッタ接地増幅回路」という構成は,非常に発振しやすい,という問題があるためです.
図8は,回路(D)「OPアンプ+エミッタ接地増幅回路」で入力電圧を10msecの間に0Vから0.5Vまで変化させるトランジェント解析を行うための回路です.ステップ解析で負荷抵抗(RL)を5kΩと5Ωに変化させています.
負荷抵抗を5kΩと5Ωに変化させてトランジェント解析を行う.
図9は図8の結果です.RLが5Ωのときは正常に動作していますが,RLが5kΩのときは発振してしまっています.FFT解析で調べると発振周波数は200kHz程度であることが分かります.
RLが5kΩのとき,200kHz程度の周波数で発振してしまう.
図10は,回路(A)「OPアンプ+エミッタ・フォロア」をトランジェント解析を行うための回路です.
負荷抵抗を5kΩと5Ωに変化させてトランジェント解析を行う.
図11は,図10の解析結果です.RLが5kΩと5Ωどちらも正常に動作しています.
RLが5kΩと5Ωどちらも正常に動作している.
今回,OPアンプ+エミッタ接地トランジスタという構成の大電流出力アンプを紹介しましが,実際に使用する場合は,負荷条件,電源電圧,温度などさまざまな条件で十分な発振確認を行う必要があります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_041.zip
●データ・ファイル内容
OPamp_NPN_Tr1_DC.asc:図2の回路
OPamp_NPN_Tr2_DC.asc:図4の回路
OPamp_PNP_Tr1_DC.asc:図5の回路
OPamp_PNP_Tr2_DC.asc:図7の回路
OPamp_PNP_Tr1_Tran.asc:図8の回路
OPamp_NPN_Tr1_Tran.asc:図10の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
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