2個のOPアンプを使った計装増幅器で動作可能な最小の入力電圧は何V?
図1は,入出力がレール・ツー・レールのCMOS OPアンプ(LTC6078)を2個使ったゲイン固定型の計装増幅器(Instrumentation Amplifier)です.入力端子はIN+とIN-で,出力がOUTになります.OPアンプの電源は+5V単一電源で,Vref端子が電源電圧の半分の2.5Vになっています.図1の回路で,抵抗を「R1=R4=40kΩ」,「R2=R3=10kΩ」とすると,ゲインは「1+R1/R2=5倍」の増幅器として動作します.
ゲインは「1+R1/R2=5倍」の増幅器として動作する.
入力端子IN-には,V4の差動信号(振幅が±0.1Vで周波数1kHzの正弦波)とV3の同相信号(0.2V~0.8Vを0.2Vステップで電圧を上げる)が印加されます.IN-に印加される電圧波形は,図2の四つの波形となります.また,IN+はV3の同相信号が印加されます.
V3を0.2Vから0.8Vまで0.2Vステップで電圧を上げる.
この条件で,V3を0.2Vから0.8Vまで0.2Vステップで電圧を上げた場合,OUTに信号が現れ,動作可能なV3の最小電圧は(a)~(d)の何Vの場合でしょうか?
図1のゲイン固定型計装増幅器が動作する範囲は,二つのOPアンプが飽和せずに動作する範囲です.問題の入力条件を印加したとき,A点の電圧が飽和するかどうかに着目すると分かります.
図1で使用した2個のOPアンプは,入出力がレール・ツー・レールであり,OPアンプ単体でみれば,電源が+5V単一電源の場合,GNDから+5V付近までの信号を扱えます.しかし,図1の計装増幅器では,IN-がGNDとなる前に,U1のOPアンプとR1,R2で構成する非反転増幅器の出力(A点)がGND付近まで下がって0Vで飽和し,U2のOPアンプを使った負帰還増幅器へ信号が伝わりません.なので,計装増幅器の入力電圧範囲は,A点が飽和しない下限値と上限値の範囲となります.
図1のA点が飽和せず,回路が動作可能なIN-の入力電圧範囲は,ゲインをGとすると,式1が下限値,式2が上限値となります.ここでVOLはOPアンプ(LTC6078)の最小出力電圧,VOHは最大出力電圧で,入出力がレール・ツー・レールのLTC6078の場合,最小出力電圧は0V,最大出力電圧は5Vとみなせます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式1,式2を使い,A点が飽和せず,回路が動作可能なVIN-の入力電圧範囲を求めます.ゲイン(G)が5倍,最小出力電圧(VOL)が0V,最大出力電圧(VOH)が5V,Vrefの電圧が2.5Vの場合,最小電圧[VIN-(MIN)]が0.5Vで,最大電圧[VIN-(MAX)]が4.5Vとなります.
問題は「VIN-=V3+V4」で,動作可能な最小電圧のV3の値を求めることです.動作可能な最小電圧[VIN-(MIN)]は式1から算出した0.5Vで,V4の信号は±0.1Vの振幅をもった正弦波なので,最小出力電圧の場合,下側の振幅(-0.1V)で考えるため「0.5V=V3-0.1V」になります.よって解答は,(c)の0.6Vとなります.
●二つのOPアンプを使った計装増幅器の入力電圧範囲はA点の飽和で制限される
図3は,説明のために,図1の入力信号源を除いた計装増幅器です.抵抗は「R1=R4」,「R2=R3」となります.
図3の信号の流れをVIN-からみると,R1の印加電圧をVrefとしたU1のOPアンプの非反転増幅器で増幅した信号がA点となります.次に,A点の電圧とVIN+を入力電圧としたU2のOPアンプを使った負帰還増幅器で増福して出力する2段階の回路構成になっています.この計装増幅器は二つの入力端子間の差動信号を増福するので,出力電圧VOはVrefを中心に振れます.
図3が動作するには,U1とU2のOPアンプが飽和しないことが条件となります.そこで,まず回路上のA点の電圧を算出し,次にA点の最大出力電圧と,最小出力電圧からVIN-の入力電圧範囲を計算します.
回路上のA点の電圧(VA)は,重ね合わせの理を使うと式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
次に,式4で計装増幅器のゲイン(G)を求めます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式3をVIN-で解き,A点の電圧(VA),計装増幅器のゲイン(G),Vrefの電圧(Vref)をパラメータにすると,式5となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5のVAは,U1のOPアンプの最小出力電圧(VOL)0V,最大出力電圧(VOH)5Vとすると,A点の電圧が飽和しないVIN-の入力電圧範囲は,式1,式2となります.
●算出した値をLTspiceで確かめる
図4は,式で算出した値を確かめるため,同相入力電圧範囲とA点の電圧で出力電圧の関係を調べる回路です.
図5は,図4のシミュレーション結果です.図5において,同相信号を入力したとき,出力(OUTの電圧)が2.5Vで一定となっているところは,同相信号は増幅しない計装増幅器として機能している範囲です.出力が2.5V一定から外れ,計装増幅器の機能が失われる同相入力電圧は0.5V以下と4.5V以上であり,解答で求めた「VIN-(MIN)=0.5V」,「VIN-(MAM)=4.5V」と一致しています.また,同相入力電圧が0.5V以下と4.5V以上でA点の電圧をみると,0V(GND)と5Vで飽和している様子が分かります.
A点の飽和により,同相入力電圧範囲がきまる.
●0.8V,0.6V,0.4V,0.2Vの値で波形をする
図6は,図1の回路で「V3=0.8V」をシミュレーションする回路です.各シミュレーション結果には,IN-の電圧,A点の電圧,OUTの電圧をプロットしました.
図7は,図6のシミュレーション結果です.図7の「V3=0.8V」の場合,A点は飽和せず,動作する入力電圧範囲内ですので,OUT端子は5倍のゲインで信号が振れています.
図8は,図6のV3を「V3=0.6V」としたシミュレーション結果です.この場合,信号振幅0.1Vを引くと,「VIN-(MIN)=0.5V」の下限値の状態があり,破線の丸で囲ったA点の波形が0V(GND)になっていることがわかります.このときが入力電圧範囲の境目であり,OUTの波形がひずみ始めています.
図9は,図6のV3を「V3=0.4V」としたシミュレーション結果です.この場合は,A点が0V(GND)で飽和しますので信号波形が無くなり,OUTに信号は伝達されません.
図10は,図6のV3を「V3=0.2V」としたシミュレーション結果です.この場合も,A点が0V(GND)で飽和しますので信号波形が無くなり,OUTに信号は伝達されません.
以上のように,二つのOPアンプを使った計装増幅器の入力電圧範囲は,A点の飽和に関係します.また,OPアンプの最大出力電圧と最小出力電圧,Vref電圧が同じならば,ゲインを高くすれば入力電圧範囲は広がります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_024.zip
●データ・ファイル内容
2OPAmp_Instrumentation Amplifier_VICM_DC.asc:図4の回路
2OPAmp_Instrumentation Amplifier_VICM_Tran.asc:図6の回路
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