2個のOPアンプを使った計装増幅器のゲインはいくら?
図1は,2個のOPアンプ(U1,U2)を使用した,ゲイン固定型の計装増幅器です.OPアンプ(U1,U2)は 入出力が レール・ツー・レールのCMOS OPアンプ(LTC6078)で,+5Vの単一電源です.計装増幅器の二つの入力端子(IN+,IN-)は,U1とU2の非反転端子に接続され,出力(OUT)が,U2の出力端子になります.差動入力信号のV4とV5は逆相の信号で,V3により,中点電圧である2.5Vを印加しています.また,出力に直流電圧を与えるVrefは,電源電圧(V1)の5Vの半分である2.5Vを印加しています.負帰還回路を構成する抵抗は「R1=R4=99kΩ」,「R2=R3=1kΩ」となっています.
以上の回路構成で,図1の2個のOPアンプを使った計装増幅器の直流ゲインは,次の(a)~(d)のうちどれでしょうか?
IN-に印加された電圧は,U1のOPアンプで構成した非反転増幅器で増幅されます.その出力電圧とIN+に印加された電圧が,U2で構成するアンプで増幅され,出力されます.U2で構成したアンプのゲインは,重ね合わせの理を使って求めると簡単です.
図1のゲイン固定型の計装増幅器は,OPアンプの非反転端子を入力端子として使うことから,高い入力インピーダンスの差動増幅器として動作します.高い入力インピーダンスであることから,前段の信号源抵抗の影響を受けにくいのが特長です.図1はゲイン固定型の計装増幅器ですが,ゲイン調整抵抗を追加してゲインを変えることもできます.
また,計装増幅器はVref端子があり,外部から直流電圧を印加することにより,出力はVref端子の電圧を基準に信号が振ることができます.例えば,単一電源(+5V)であれば,信号の中点電圧を電源の半分である2.5Vにできます.
図1の回路において,U1のOPアンプは,入力信号がIN-の非反転増幅器として動作します.なので,出力は式1のVO_U1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
次にU2を使った負帰還増幅器は,式1のVO_U1とIN+の電圧が入力されますので,重ね合わせの理を用いてゲインを計算すると,式2となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2を「VIN--VIN+」の差動入力電圧を増幅する式へ変形すると,式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
ここで,図1の負帰還回路を構成する抵抗(R1,R2,R3,R4)の関係は,式4になり,式3の右辺第二項はゼロとなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
なので,差動入力信号「VIN--VIN+」は,式5で示す抵抗比「1+R1/R2」でゲインで増幅することがわかります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
よって,図1の2個のOPアンプを使った計装増幅器の直流ゲインは,式6になり,解答が (c)の100倍となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
●差動増幅器と計装増幅器との違いは入力インピーダンス
まず,計装増幅器がどのような場合に使用されるか紹介します.図2は,圧力センサの出力信号を増幅する計装増幅器の使用例です.ロードセルの基本回路ホイートストン・ブリッジなどに使用されます.計装増幅器は,図2のA-B間の差電圧を高い差動ゲインで増幅し,AとBから同時に印加される同相電圧に対しては,非常に低い同相ゲインで動作します.
圧力センサの出力信号を増幅(ロードセルの基本回路ホイートストン・ブリッジ)
図3は,差電圧を増幅する機能の回路で,図3(a)が差動増幅器,図3(b)が計装増幅器です.差動増幅器と計装増幅器との違いは,差動増幅器は入力インピーダンスが低いことです.
差動増幅器は高いゲイン設定にすると「R1<R2」,「R3<R4」の条件となります.R2とR4は入手できる抵抗の上限があるので,R1とR3は小さな抵抗になり,よって入力インピーダンスが低くなります.
またVIN-側の入力インピーダンスはR1ですが,VIN+側から見れば「R3+R4」であり,入力インピーダンスが一致していないため,平衡ではありません.平衡でないと信号線に重畳されるコモン・モード・ノイズに対して影響を受けます.さらに,図3の中に信号源は記載していませんが,信号源には出力抵抗があり,差動増幅器へ接続すると,信号源抵抗が直列に入るため,抵抗比で決まるゲインに誤差が生じ, また,抵抗のミスマッチよるCMR悪化の原因となります.
このように,計装増幅器は,差動増幅器が持つこのような弱点を改善した増幅器です.軽装増幅器の二つの入力端子は,図1のようにOPアンプの非反転端子に接続され,高い入力インピーダンスとなります.計装増幅器は,コモン・モード・ノイズは殆ど増幅せず,入力端子に印加される差動信号を増幅するように設計されたアンプとなります.
計装増幅器には,今回の二つのOPアンプを使った回路と三つのOPアンプを使った回路が代表的なものです.三つのOPアンプを使った計装増幅器については,「LTspice電子回路マラソン015 ―― 微弱信号を正確に増幅できる計装増幅器はどっち? 」をご参照ください.
差動増幅器は,計装増幅器に比べると入力インピーダンスが低い
●LTspiceで二つのOPアンプを使った計装増幅器のゲインを確かめる
図4は,図1の回路を過渡解析する回路です.V4とV5の信号源は振幅5mVの正弦波で,1msの遅延時間を持たせ,過渡解析後に信号の中点電圧がみえるようにしました.計装増幅器の入力となるIN+とIN-には,2.5Vを中心に±5mVを逆相で印加します.計装増幅器のVref端子は,電源電圧5Vの半分である2.5Vです.
過渡解析で入力信号と出力信号の時間変化を調べる
図5は,図4のシミュレーション結果です.上段が「VIN+-VIN-」の差動入力電圧で,下段が計装増幅器の出力電圧波形です.出力信号は,2.5Vを中心に±1Vの振幅で,計装増幅器のゲインを計算すると「2V/20mV=100倍」です.シミュレーションでも,解答の式6で計算したゲインと同じであることが確かめられました.
f=1kHzのゲインは100
●計装増幅器のゲインを調整する方法
図6は,図1の回路にゲインを調整する抵抗(RG)を追加しましたRGは,OPアンプ(A1)の反転端子とOPアンプ(A2)の反転端子間に接続します.RGの両端の電圧は,A1とA2のOPアンプのバーチャルショートにより,入力端子(VIN+,VIN-)と同じ電圧となります.よってRGには,VIN+とVIN-の電圧変化に応じて電流が流れ,その電流変化がA2側のR1に加わることから,図1の計装増幅器よりゲインが増します.
図1の計装増幅器にゲイン調整抵抗(RG)を追加した
図6の回路において「Vref=0V」とした入出力伝達特性は,式7となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
ゲインは式8となります.式8から分かるように「1+R1/R2」のゲインに「2R1/RG」のゲインが加えられます.ゲインは初期値の「1+R1/R2」から増やす調整です.なので,設計上必要な最小ゲインを「1+R1/R2」に設定します.そして,「2R1/RG」でRGを調整しゲインを増加させます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
●ゲイン調整抵抗を変化させて,その効果を確かめる
図7は,図6の回路をシミュレーションする回路で,RGの調整でゲイン周波数特性の変化を確かめます.図7は,図1のゲイン固定型の計装増幅器と比較すると,2個のOPアンプや電源電圧, Vref電圧は同じです.違いは,R1とR4の抵抗値です.ここでは,最小ゲインを34dBとし,RGを小さくすることによってゲインを増加させます.図7では「R1=R4=39kΩ」,「R2=R3=1kΩ」として,RGは「.stepコマンド」を使い,1kΩ,2kΩ,5.6kΩと変化させました.
「.stepコマンド」でRGを変化させている
ここで,式8を使いRGの3種類の抵抗値で,直流ゲインを計算すると次のようになりました.
RG=2kΩ G=1+39kΩ/1kΩ+2*39kΩ/2kΩ = 38.0dB
RG=5.6kΩ G=1+39kΩ/1kΩ+2*39kΩ/5.6kΩ = 34.6dB
図8は,図7のシミュレーション結果です.RGの3種類の抵抗値によりゲイン周波数特性が三つプロットしています.直流は低周波1Hzとほぼ同じとし,1Hzの直流ゲインを調べると計算と同じであることが確かめられました.
RGを調整したときの直流ゲインは計算と同じである.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_022.zip
●データ・ファイル内容
2OPAmp_Instrumentation_Amplifier.asc:図4の回路
2OPAmp_Instrumentation_Amplifier_RG_AC.asc:図7の回路
signal.asy:交流信号源のシンボル
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