カスコード回路の周波数特性として正しいのはどれ?
図1(左)は,一般的なエミッタ接地増幅回路です.図1(右)は,カスコード回路となります.どちらも電流帰還バイアス回路を使用しており,VB1という電圧源でベース・バイアス電圧を供給しています.トランジスタQ1のコレクタ電流はどちらも約260μAとなっています.入力信号(Vin)は,抵抗R1を介してトランジスタのベースに加えられています.
図2(A)~(D)は,図1(左)(右)のゲイン周波数特性を示したグラフです.図2(A)~(D)の中で,エミッタ接地増幅回路とカスコード回路のゲイン周波数特性を表すグラフとして正しいのはどれでしょうか.
トランジスタQ1のコレクタ電流はどちらも260μAとなっている.
ゲイン周波数特性として正しグラフは?
図2において,エミッタ接地増幅回路の特性はすべて同じです.(A)~(D)の違いはカスコード回路のゲインとカットオフ周波数です.カスコード回路にすることで,ゲインとカットオフ周波数がどのように変化するかを考えると正解が分ります.
図1のエミッタ接地増幅回路とカスコード回路は,トランジスタQ1の電流が同じで負荷抵抗(R2)の値も同じなので,低域のゲインは同じになります.図2の(C)と(D)はカスコード回路のほうが低域のゲインが大きくなっているため,正解は(A)か(B)になります.また,図1のように信号が抵抗を介して入力される回路では,単純なエミッタ接地回路よりもカスコード回路のほうが,ゲインのカットオフ周波数が高くなります.カスコード回路のほうがカットオフ周波数が高いグラフは(B)なので,正解は(B)ということになります.
●トランジスタの寄生素子と周波数特性
通常,トランジスタ内部には,回路図に現れない抵抗やコンデンサが存在しており,これらを寄生素子と呼びます.図3(右)は,トランジスタに存在する,おもな寄生素子を表したものです.コンデンサの容量値は,加えられる電圧に依存して変化するので,一定値ではありません.しかし,LTspiceでは寄生素子も含めて厳密な回路シミュレーションを行います.これらの寄生素子の中で,エミッタ接地増幅回路の周波数特性に特に大きな影響を持つのが,コレクタとベースの間に存在する容量のCcbです.
トランジスタ内部には回路図に現れない抵抗やコンデンサが存在する.
●エミッタ接地増幅回路の周波数特性
エミッタ接地増幅回路で信号が抵抗を介して入力される場合,前述のように図3のコレクタ・ベース間容量(Ccb)が周波数特性に大きく影響します.これは,ミラー効果(Miller effect)で,Ccbが(1+ゲイン)倍の容量と等価な働きをするためです.
ミラー効果とは,図4のようにゲインがA倍の反転アンプ(出力の位相が入力と逆位相になっているアンプ)の入出力間にコンデンサを接続した場合,もとの容量値の(1+A)倍の容量として働く現象です.ミラー効果の詳細については「LTspice電子回路マラソン016 ミラー効果でカットオフ周波数が低くなるのはどっち?」を参照してください.
図4の回路は,ハイカット・フィルタとして働きますが,そのカットオフ周波数は式1で表されます.式1よりゲインが大きいほど,カットオフ周波数が低くなることが分ります.
コンデンサの容量値は(1+A)倍として働く.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
図5は,図1のエミッタ接地増幅回路に寄生容量のCcb1を書き加えたものです.この回路のOUT端子までのゲイン(A)は,式2のようにQ1のgmと負荷抵抗(R2)で計算することができ,その値は,約100倍(40dB)になります.
Ccb1はトランジスタ内部のコレクタ・ベース間容量を表す.
・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
R1とCcb1はハイカット・フィルタを構成しており,ミラー効果により図5のB点でのカットオフ周波数(fc1)は式3で表されます.
・・・・・(3)
このように,Ccb1は実際の量の101倍の容量として働き,ハイカット・フィルタのカットオフ周波数が低くなってしまいます.また,図5のR2とCcb1でもハイカット・フィルタが構成されていますが,このときのCcb1はゲイン倍された値ではなく,実際の容量値でカットオフ周波数(fc2)が決まります.その周波数は式4で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
fc2はfc1に比べて10倍程度高いため,回路全体の周波数特性としてはfc1が支配的になります.
●カスコード回路の周波数特性
図6は,図1(右)のカスコード回路にトランジスタの寄生容量Ccb1とCcb2を書き加えたものです.この回路でQ2は,ベース接地増幅回路として働きます.エミッタから入力されたQ1のコレクタ電流はQ2を通過し,ほぼそのまま負荷抵抗R2に流れます.そのため,この回路のOUT端子までのゲインは式2で計算することができ,エミッタ接地と同じ100倍(40dB)になります.
Ccb1とCcb2はトランジスタQ1とQ2内部のコレクタ・ベース間容量を表す.
一方,図6のC点までのゲイン(AC)は,式5で計算することができます.ここで,re2はQ2の等価抵抗,IC1はQ1のコレクタ電流,IE2はQ2のエミッタ電流です.IC1とIE2は等しく「IC1=IE2」です.そのため,ゲインは1倍(0dB)になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
したがって,図6のR1とCcb1によるハイカット・フィルタの,ミラー効果を考慮したB点でのカットオフ周波数(fc3)は,式6のように式3に比べて50倍高い周波数になります.
・・・・・(6)
また,R2とQ2のコレクタ・ベース間容量(Ccb2)により構成されるハイカット・フィルタのカットオフ周波数(fc4)は,式7で計算できます.Ccb1とCcb2はほぼ等しいため,fc4はfc2と等しくなります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
図6の回路では,fc4の方がfc3よりも低くなります.そのため,回路全体の周波数特性は,fc4が支配的になります.まとめると,エミッタ接地増幅回路のカットオフ周波数はfc1で,カスコード回路のカットオフ周波数はfc4となります.今回の定数の場合,fc4はfc1の10倍程度高くなっています.このように,カスコード回路はエミッタ接地増幅回路と同じゲインで,より高い周波数まで増幅することができます.
●カスコード回路の周波数特性をシミュレーションする
図7は,図1(左)(右)をシミュレーションする回路です.素子名の重複を避けるため,素子名には,図7(左)に「_1」,図7(右)に「_2」を追加してあります.
素子名には,図7(左)に「_1」,図7(右)に「_2」を追加してある.
図8は,図7のシミュレーション結果です.1kHzのゲインはどちらも40dBですが,カットオフ周波数はカスコード回路のほうが高く,より高い周波数まで増幅できることが分ります.
低域のゲインは同じで,カットオフ周波数はカスコード回路のほうが高い.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_017.zip
●データ・ファイル内容
CE-amp_CECC-amp.asc:図7の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs