負荷抵抗が小さくなっても出力が変わらない回路はどれ?
図1の(A)~(D)の増幅回路には,それぞれコンデンサC2を介して,RL1という1MEGΩの負荷抵抗とSWを介して,RL2という470Ωの負荷抵抗が接続されています.SWをオンにするとRL2がRL1と並列に接続され,負荷抵抗が小さくなります.SWがオフの時,それぞれの出力には1kHzで100mVPPの正弦波が出力されているものとします.(A)~(D)の回路の中で,SWをオンにして負荷抵抗を小さくしても,出力の大きさがほとんど変わらない回路はどれでしょうか.
SWをオンにした時,出力の大きさが変わらない回路は?
負荷抵抗が小さくなっても出力レベルが変わらないようにするためには,増幅回路の出力抵抗が負荷抵抗に比べて,十分小さいことが必要です.そのため,(A)~(D)の中で,出力抵抗の最も小さい回路が正解ということになります.
図1の(A)はエミッタ接地増幅回路で,(B)はベース接地増幅回路,(C)はコレクタ接地増幅回路(エミッタ・フォロワ)です.また,(D)はPNPトランジスタを使用したエミッタ接地増幅回路です.これらの増幅回路の中で,出力抵抗が一番小さいのは(C)のコレクタ接地増幅回路です.出力抵抗が小さければ,負荷抵抗が変わっても出力レベルの変動は小さいため,正解は(C)ということになります.
●コレクタ接地増幅回路は出力抵抗が小さい
図1(C)のコレクタ接地増幅回路は,エミッタ・フォロワ(emitter follower)と呼ばれるほうが多い回路です.そのため,ここからはエミッタ・フォロワと表記します.ベースに入力された信号に,エミッタの信号が追従することから,エミッタ・フォロワという名前で呼ばれています.エミッタ・フォロワは信号振幅を増幅することはできず,ゲインは0dB(1倍)です.出力抵抗が小さいことからバッファとしてよく利用されます.それに対して,図1(A)や(D)のように帰還のかかっていないエミッタ接地増幅回路や図1(B)のようなベース接地増幅回路の出力抵抗は,R3の抵抗値と同じ値になります.R3を小さくするとゲインも小さくなってしまうため,これらの回路では出力抵抗をあまり小さくすることはできません.
●エミッタ・フォロワの出力抵抗を算出する
出力抵抗は,出力電流が流れた時の出力端子の電圧変化から求めます.図2は,エミッタ・フォロワの出力抵抗の計算およびシミュレーションを行うために,図1(C)の回路をもとに作成した回路図です.
入力信号は0とし,出力端子に電流源が接続されている.
入力(Vin)は0とし,負荷抵抗のかわりに電流源が接続されています.計算を簡単にするため,コンデンサC1,C2のインピーダンスは十分低く,無視できるものとして出力抵抗を計算します.接続された電流源に流れる信号電流をimとし,トランジスタの内部抵抗をreとすると,出力端子の電圧(vOUT)は式1で示されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1から出力抵抗(ROUT)を求めると,式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
トランジスタのコレクタ電流をICとするとトランジスタの内部抵抗(re)は式3で示されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
トランジスタのコレクタ電流を求めるため,まずQ1のベース電圧を求めます.Q1のベース電圧(VB)は,ベース電流を無視すると,式4で計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
トランジスタQ1のベース・エミッタ間電圧を0.7Vとすると,コレクタ電流は式5で計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式2,3,5をまとめると,出力抵抗(ROUT)は式6で計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
このように,図2のエミッタ・フォロワの出力抵抗はかなり小さな値であることがわかります.
図3は,図2の回路のシミュレーション結果です.「V(out)/i(im)」として出力端子の電圧を測定用電流源の電流値で割り,出力インピーダンスを表示しています.なお,通常縦軸はデシベルで表示されますが,縦軸の目盛部分をマウスでクリックし,表示されたメニューの中で[Linear]を選択するとリニア表示となり,単位もΩに変わります.図3のシミュレーション結果では,1kHzの出力インピーダンスは11Ωとなっており,計算結果とほぼ一致しています.
1kHzの出力インピーダンスは11Ωで計算結果とほぼ同じ.
●負荷接続時の出力レベルを計算する
出力抵抗がROで無負荷時の出力がV1の増幅回路に,負荷抵抗(RL)を接続した時の出力(V2)は式7で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
式7を使用し,回路(A),(B),(D)のような出力抵抗1kΩの増幅回路に470Ωの負荷抵抗を接続した時の出力レベルを計算すると,式8のように無負荷時出力のおよそ1/3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
一方,出力抵抗11Ωの回路(C)のエミッタ・フォロワに,470Ωの負荷抵抗を接続した時の出力レベルは,式9のように無負荷時出力とほぼ同じ出力となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
●負荷抵抗が変化した時の出力をシミュレーションする
図4は,負荷抵抗が変化した時の出力をシミュレーションするための回路です.図1の(A)~(D)の回路を同時にシミュレーションできるように,1枚の回路図になっています.素子名の重複を避けるため各素子名の末尾にA~Dを追加してあります.この回路ではスイッチ素子としてLTspiceの電圧制御スイッチを使用しています.「.model SW SW(Ron=0.1 Roff=10MEG Vt=0.5)」という制御文でスイッチのモデルを定義しています.SWという名前で,オン抵抗0.1Ω,オフ抵抗10MEGΩ,スレッショルド電圧が0.5Vになります.
このスイッチをコントロールする電源がVCという電源です.PWL(Piece-wise linear )というフォーマットで出力電圧を定義しています.PWL(0 0 5m 0 5.01m 1)となっていますが,これは0秒時は0Vとなり5m秒後も0Vで,5.01m秒後に1Vになり,その後は1Vが継続する,という意味になります.このコントロール電圧の出力に(C)というラベルを付け,スイッチのコントロール入力端子にも(C)というラベルをつけてあります.そのため,各スイッチはVCでコントロールされ,5.005m秒後にオンします.そして負荷抵抗は5.005m秒後に1MEGΩから約470Ωに変化することになります.
回路(A),(B),(D)のアンプはゲインが20dB(10倍)なので,入力(Vin)は10mVPPで1kHzの正弦波となっています.回路(C)のエミッタ・フォロワはゲインが0dB(1倍)なので,入力は100mVPPとなっています.
電圧制御スイッチを電源VCの出力でコントロールしている.
図5が図4のシミュレーション結果です.回路(C)の出力レベルは,スイッチがオンして以降もほとんど変わっていないのに対し,回路(A),(B),(D)はスイッチオン以降,出力レベルが1/3になっています.このように,コレクタ接地増幅回路(エミッタ・フォロワ)は出力抵抗が小さく,負荷が変動した時の出力レベルの変化が少ないことがわかります.
回路(C)のエミッタ・フォロワの出力はほとんど変わらない.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_015.zip
●データ・ファイル内容
CC_amp_Z.asc:図2の回路
CC_amp_OLVL.asc:図4の回路
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