反転増幅器のゲインが40dBになる抵抗は何Ω?
図1は,「Ra,Rb,Rc」の3本の抵抗が負帰還の抵抗となる反転増幅器です.R1が10kΩ,RaとRbが30kΩ,負荷抵抗(RL)が2kΩ,負帰還容量(C1)が47pF,OPアンプはLT1001を使用しました.信号源の出力抵抗(Ro)は100Ωです.ここで図1の回路でRcを調整し,反転増幅器の直流ゲインが40dB(100倍)に最も近い値となる抵抗値は(A)~(D)のどれでしょうか.
OPアンプの反転端子を「a」,出力端子を「b」,GNDを「c」とすれば,「Ra,Rb,Rc」のY型の接続は,a-b間に接続される1個の抵抗(Rab)に変換できます.同様に,b-c間は(Rbc),c-a間は(Rca)に変換できます.この変換はY-Δ変換(スターデルタ変換)と呼ばれ,「Ra,Rb,Rc」が小さな値でもRabは大きな抵抗となります.
図2は,図1の抵抗「Ra,Rb,Rc」を,Y-Δ変換により,抵抗の接続を「Rab,Rbc,Rca」に変換した等価回路です.
図2の反転増幅器のゲインは,式1となり,R1がRoに比べ非常に大きいとき(図2では10kΩ>>100Ω)式2で近似値が算出できます.R1が10kΩのとき,式2のゲインを40dB(100倍)とするには,Rabを1MΩと見積もれます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
RabはY-Δ変換で計算でき,図1の「Ra,Rb,Rc」をアドミタンスで考え「Ya=1/Ra」,「Yb=1/Rb」,「Yc=1/Rc」とすると,図2のRabのアドミタンスは「Yab=1/Rab=(Ya*Yb)/(Ya+Yb+Yc)」の関係から求まります.
ここで,RaとRbを30kΩとし,Rcが(A)510Ω,(B)910Ω,(C)1.8kΩ,(D)3.3kΩの場合,RabをY-Δ変化から求めゲインを計算すると次のようになります.
(B)Rc=910Ω Rab=1.05MΩ ゲイン=40.4dB
(C)Rc=1.8kΩ Rab=560kΩ ゲイン=35.0dB
(D)Rc=3.3kΩ Rab=332.7kΩ ゲイン=30.4dB
以上より,Rabが1MΩに最も近い値となるのは,Rcが910Ωで得られる「Rab=1.05MΩ」で,そのときのゲインは40.4dBとなります.したがって正解は(B)910Ωとなります.
●計算スクリプト:Y-Δ変換
●反転増幅器のR1は信号源の出力抵抗(Ro)より大きな値を選ぶ
図3に示す反転増幅器は,OPアンプを使った基本的な増幅器の一つです.R1の左側には出力抵抗(Ro)を持つ信号源に接続しています.信号源は,反転増幅器の前段となる回路やセンサなどに相当し,その出力抵抗は大小の差はありますが有限値でありゼロではありません.反転増幅器のゲインを設定するとき,信号源の出力抵抗は,R1へ加算されるため,R1とR2の抵抗比で決まるゲインから誤差を生じる原因となります.このように反転増幅器のゲインをR1とR2の比で設定するとき,R1は信号源の出力抵抗(Ro)より大きな値を選びます.
●Y-Δ変換で大きな負帰還抵抗を作ることができる
図3の回路で,信号源の出力抵抗より十分大きいR1を選ぶと,R2は設定したゲインを乗じた値となり,抵抗値が大きくなります.図1の値を図3で用いると,Roを100Ω,R1を10kΩとすると,Roにより誤差は少なくなります.しかし,ゲインが40dBの設定なので,R2は1MΩの大きな抵抗となり,入手や精度の点から扱いづらい抵抗値となります.
このような場合,R2を図4(a)のY型の抵抗ネットワークへ置き換え,端子aをOPアンプの反転端子,端子bをOPアンプの出力端子,端子cをGNDへ接続します.Y型の抵抗ネットワークでは,Y-Δ変換を用いると,小さな抵抗値の「Ra,Rb,Rc」で,図4(b)のような大きな等価抵抗Rabを作ることができます.これを負帰還抵抗として使用します.Y-Δ変換によりRbc,Rcaの抵抗も回路へ加えられますが,Rbcは負荷抵抗(RL)と並列に接続されるため,OPアンプの出力電流が大きければ影響は小さくてすみます.また,RcaはOPアンプの反転端子とGND間に接続されますが,反転端子のバーチャル・グラウンドが成り立てば,Rcaの両端はグラウンドとなるため,こちらも影響は小さくなります.
ここで解答の(B)の抵抗値定数,RaとRbが30kΩで,Rcが910ΩのRab,Rbc,Rcaを求めると次の式3,4,5となります.
・・・・・・・・・・・・・・(3)
・・・・・・・・・・・・・・(4)
・・・・・・・・・・・・・・(5)
式3,4,5より,Y-Δ変換後の等価抵抗は,Rab=1.05MΩ,Rbc=Rca=31.8kΩとなります.このように「Ra,Rb,Rc」は小さな抵抗で大きなRabの等価抵抗を得ることができます.
●LTspiceで出力を確認する
図5は,問題の(A)~(D)の抵抗値(Rc)についてゲインを調べる回路です.Rcの値はZcという変数にして「.stepコマンド」で510Ω,910Ω,1.8kΩ,3.3kΩを与え,4回のシミュレーションを実行します.
図6は,図5のシミュレーション結果を示します.直流ゲインは周波数が非常に低いときのゲインと同じであると考えられます.ここでは,0.1Hzの値をカーソルで読むことにします.
(A)~(D)ののRcにおいて0.1Hzでのゲインをカーソルで調べると,510Ωのとき45.1dB,910Ωのとき40.3dB,1.8kΩのとき34.9dB,3.3kΩのとき30.4dBであり,解答で計算した値とほぼ同じす.これよりY-Δ変換の等価抵抗Rabで設定したゲインがでていることがわかります.また,周波数が高くなるとゲインが減衰するときのカットオフ周波数(fc)は,Y-Δ変換したRabと負帰還容量C1できまり「fc=1/2πRabC1」となります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_010.zip
●データ・ファイル内容
IInverting_Amplifier_Star_Delata_AC.asc:図5の回路
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