トランジスタのスイッチ回路で適切なベース抵抗は何Ω?
図1は,マイコンで白色LEDを点滅させるための回路です.マイコンの電源電圧が低いため,順方向電圧の高い白色LEDを直接接続して点滅させることができません.そこで,マイコンの信号で,トランジスタをON/OFFさせスイッチとして使用し,白色LEDを点滅させる回路としました.
マイコンの電源電圧は3.3Vで,白色LED用の電源は5Vとなっています.白色LEDには約20mAの電流を流すものとして,そのときの白色LEDの順方向電圧は3.2Vです.マイコンの出力ポートの電圧は3.3Vとし,トランジスタのベース・エミッタ間電圧(VBE)を0.7V,hFE(直流電流増幅率)を200(注1)としたとき,ベース抵抗(R1)の値として適切なのは,次の(A)~(D)のうちどれでしょう?
LEDの電流を20mAとしたとき,R1の抵抗値として適切な値は?
図1は,マイコンの電源電圧が3.3Vに対し,白色LEDの順方向電圧が3.2Vのため,直接駆動することはできません.このような場合トランジスタを経由して,トランジスタを低速にスイッチすることになります.図1において,マイコンの出力ポートの電圧が3.3Vで,トランジスタのベース・エミッタ間電圧(VBE)が0.7Vなので,ベース電流(IB)はIB=(3.3-0.7)/Rで求めることができます.
hFEは,トランジスタを4端子回路網とみなしたときのパラメータの一つで,hは「hybrid parameter(混成パラメータ)」,Fは「forward(順方向)」,Eは「emitter grounded(エミッタ接地)」を表しています.
各条件でのトランジスタのベース電流の値は,おおよそ,(A)が20μA,(B)が96μA,(C)が510μA,(D)が20mAの値になります.
(A)は,hFEを200とした場合,コレクタ電流の最大値は,「20uA*200=4mA」となり,条件を満たせません.
(B)は,hFEを200とすると,計算上のコレクタ電流の最大値は,「96uA*200=19.2mA」になります.実際には,VCEが小さい領域では,hFEが小さくなるため,20mA流すことはできません.
(C)は,コレクタ電流の1/40程度のベース電流が流れることになり,トランジスタはきちんとスイッチとして動作します.
(D)は,スイッチとして動作しますが,コレクタ電流と同じ値のベース電流を流すのは,電流の無駄使いであり,また,マイコンの出力電流能力を超えてしまう危険性もあります.
したがって,(A)~(D)の中で,適切なベース電流を流すことのできる抵抗値は(C)ということになります.
●トランジスタをスイッチとして使用する場合hFEは20~50
一般的にトランジスタをスイッチとして使用する場合,ベース電流の値はコレクタ電流の1/20~1/50程度とします.これはトランジスタのhFEを20~50程度で使用することを意味します.トランジスタをVCEの小さな飽和領域で使用するため,このときのhFEを飽和hFEまたは飽和βと呼ぶこともあります.
当然ながら,飽和βはトランジスタ自体のhFEよりも小さな値とします.トランジスタのhFEは同一製品でもばらつきがあり,また,低温で小さくなるため,これらを考慮して決める必要があります.飽和βは最少hFEの半分以下とすることを目安にするとよいでしょう.トランジスタのばらつきによる影響を小さくするには,ベース電流を大きく設定し,より小さな飽和βで使用します.しかし,ベース電流を大きく設定すると,駆動側(マイコン等)の負担が大きくなります.そこで,マイコン等の出力電流能力を調べて,それを超えないような値に設定する必要があります.
●各条件のベース電流の値を計算する
図1の回路で,それぞれの抵抗値でのトランジスタのベース電流を計算してみます.簡易的には,式1でベース電流(IB)を計算することができます.しかし,厳密に計算する場合は,電流値によってトランジスタのVBEの値やマイコンの出力ポートの電圧が変化することを考慮する必要があります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
Rの値は,(A)が130kΩ,(B)が27kΩ,(C)が5.1kΩ,(D)が130Ωなので,それぞれのIBを計算すると次のような値になります.
IB(A)=20μA,IB(B)=96μA,IB(C)=510μA,IB(D)=20mA
●各条件のコレクタ電流から解答を考察する
一定のベース電流を与えた時のトランジスタのコレクタ電流の最大値は「IC=IB*hFE」になります.
(A)の条件は,ベース電流が20μA,hFEが200なので,コレクタ電流の最大値は「IC=20u*200=4mA」となり,LEDの電流を20mAにするという条件を満たすことができません.
(B)の条件は「IC=96u*200=19.2mA」となります.一見条件を満たしているように思えますが,トランジスタはVCEが小さくなると飽和領域に入り,hFEが小さくなってしまうことを考慮する必要があります.図1の回路では,LED用の電源電圧(V1)が5Vで,LEDの順方向電圧(VLED)が3.2Vなので,LED電流(ILED)を20mA 以上とするためには,「VCE < V1-VLED-ILED*R2」という条件を満たす必要があります.数値を代入すると「VCE < 5-3.2-20m*82=0.16」となり,VCEは0.16V以下とする必要があります.VCEが0.16V以下ではhFEは200以下になってしまうことが予想され,20mAという条件を満たすことができません.
(C)の条件は,ベース電流が510μAで,コレクタ電流の1/40の値になっています.この条件は,VCEが小さくなり,hFEが40程度まで下がっても20mAのコレクタ電流を流すことができることになります.
(D)の条件は,ベース電流が20mAで,コレクタ電流と同じになっています.これは過剰なベース電流を流していることになり,また,マイコンの出力電流能力を超えてしまう危険性もあります.
したがって,四つの条件の中で最適なのは,条件(C)ということになります.
●ベース抵抗を変化させたときのICとVCEをLTspiceで確認する
図2は,図1の抵抗(R1)の抵抗値を変化させたときの,トランジスタのコレクタ電流(IC)とコレクタ・エミッタ間電圧(VCE)をシミュレーションするための回路です.トランジスタのコレクタ電流はLEDに流れる電流と同じです.LTspiceでは,マイコンのシミュレーションが出来ないので,電圧源に置き換え,トランジスタを常時ONさせた状態を確認します.
R1の抵抗値を波括弧でくくり,{R}としていますが,これは抵抗値としてRというパラメータを使用することを意味しています.「.step dec param R 100 130k 10」でR1の抵抗値を変化させ,「.op」コマンドで直流動作点解析を行います.「.step」コマンド行は,Rというパラメータを100から130kまで,一桁あたり10ポイントで対数的に変化させる,という意味になります.
「.step」コマンドでR1の抵抗値を変化させ,直流動作点解析を行う.
図3は,図2のシミュレーション結果です.この結果を見ると,R1の値を20kΩとしても,コレクタ電流(IC)は20mA流れているため,問題無いように見えますが,トランジスタ(2N2222)のhFEが製品のばらつきから小さくなったときに,コレクタ電流が小さくなってしまうリスクがあります.データシートによると,2N2222の最少hFEは75(標準hFEは200)となっています.また,マイコンの出力電流を1mAまでに抑えるとした場合,飽和β(hFE)は20~40程度の範囲で設定することになります.そのための抵抗値は,赤い矢印で示した2.4kΩ~5.1kΩ程度となります.
ベース抵抗値とコレクタ電流及(IC)及び,コレクタ・エミッタ間電圧(VCE).
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_003.zip
●データ・ファイル内容
R_vs_IC.asc:図2の回路
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
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