ボルテージ・フォロアとして正常に機能しない回路はどれ?
図1の回路(a)は,直流結合のボルテージ・フォロアです.回路(b),(c),(d)は,交流結合のボルテージ・フォロアです.四つの回路は,OPアンプや電源電圧,入力信号は同じで,抵抗とコンデンサの配置が違います.この中の一つは,ボルテージ・フォロアとして正常に機能しません.その回路はどれでしょう.
回路(a)は直流結合型,回路(b),(c),(d)は交流結合型.コンデンサと抵抗の配置に差がある.
ボルテージ・フォロアは,OPアンプの非反転端子に印加された電圧をゲイン1倍で出力する回路です.非反転端子の直流電圧値に着目してください.
交流結合型は,二つの回路を接続した場合,直流信号をカットし交流信号のみを通す接続です.今回の図1の回路(b),(c),(d)は,信号源と回路の間にコンデンサがあり,直流はカットして交流信号のみを通すので交流結合型と言います.
回路(b)は,入力信号源とOPアンプの非反転端子との間に,直列にコンデンサ(C1)を配置した回路です.コンデンサがあるため,入力信号源の直流電圧はOPアンプの非反転端子に印加されず,非反転端子の直流電圧は定まりません.よって,出力端子の波形は入力信号と異なり,回路(b)は正常に機能しません.
●基本は直流結合型,応用は交流結合型
図1の回路(a)に示すボルテージ・フォロアは,OPアンプの反転端子と出力端子を接続した負帰還回路を構成し,非反転端子を入力端子として使う直流結合型です.これがボルテージ・フォロアの基本回路となります.
OPアンプの反転端子の電圧は負帰還によるバーチャル・ショートにより非反転端子と同じ電圧となるため,ボルテージ・フォロアの出力は非反転端子の電圧をゲイン1倍で出力します.回路(a)は,直流(直流とは周波数0Hzの交流と考えられる)からOPアンプのゲインが1倍になる周波数(ユニティ・ゲイン)までゲイン1倍で動作します.
次に応用回路として交流結合型があります.回路(c)と(d)のように入力信号源とOPアンプの非反転端子との間に直列にコンデンサを入れて直流をカットし,OPアンプの非反転端子の直流電圧は違う電圧源から供給して,交流信号のボルテージ・フォロア(バッファ)回路として使うことができます.
回路(b)は非反転端子へ直流電圧を印加する回路がないため,ボルテージ・フォロアとして正常に動作しません.
交流結合型の欠点は,回路(c)を例にとると,非反転端子に電圧を印加するため抵抗が必要になり,直流結合型に比べて入力インピーダンスが低くなります.
●過渡解析で時間応答を調べる
図2は,図1の回路(a),(b),(c),(d)の時間応答をシミュレーションする回路です.OPアンプの電源は5V,入力信号は正弦波で2.5Vを中心に±1Vの振幅を与えています.交流結合型の回路(b),(c),(d)のコンデンサ(C1,C2,C3)には,十分充電された後の時間応答を得たいため,100msから110ms間の過渡解析としました.
図3がそのシミュレーション結果です.図2の(a),(b),(c),(d)の出力をプロットしています.(a)の出力[V(out1)],(c)の出力[V(out3)],(d)の出力[V(out4)]は入力信号と同じ2.5Vを中心に±1Vの振幅の正弦波で重なっています.しかし,(b)の出力[V(out2)]は入力信号と違う波形です.
このように,回路(b)はボルテージ・フォロアとして機能しない回路です.(b)の非反転端子の直流電圧は定まらず,放置すると時間の経過とともに非反転端子の入力バイアス電流でコンデンサ(C1)を充電または放電します.充電するか放電するかは,非反転端子からみた入力バイアス電流の方向の違い(非反転端子が吐き出す電流か,または,吸い込む電流)によります. (b)の場合は,コンデンサを充電するため時間が経過すると電源より少し下がった電圧となり,(b)の出力は入力信号と同じでなく,ボルテージ・フォロアとして機能していません.
●AC解析でゲイン周波数特性と入力インピーダンス周波数特性を調べる
図4(a)は直流結合型として図1の回路(a),また,図4(b)は交流結合型として図1の回路(c)のゲイン周波数特性と入力インピーダンスを調べる回路です.
(a)は直流結合型,(b)は交流結合型.
図5は,図4(a),(b)のゲイン周波数特性のシミュレーション結果です.
図4(a)の直流結合型のゲイン[図5V(out1)]は,1Hzから約200kHzまで0dB(1倍)です.約200kHz以降の高周波では,OPアンプのオープン・ループ・ゲイン周波数特性の影響が出ています.
図4(b)の交流結合型のゲイン[図5V(out3)]は,コンデンサ(C2)により直流がカットされて,低周波から+20dB/decの傾きでゲインが増加し,その後は0dBとなります.このときの,-3.01dBになる周波数は式1で求められ,また,式1中の「R」は式2で与えられます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
図6は,図4(a),(b)の入力インピーダンスの周波数特性をシミュレーションした結果です.入力インピーダンスは「入力信号源のAC電圧÷入力信号源に流れるAC電流」で計算しました.
図4(a)の入力インピーダンス[V(in1)/I(V1)]の周波数特性は,低周波の1Hz付近で10GΩと非常に高いインピーダンスになっています.図4(b)の入力インピーダンス[V(in3)/I(V3)]の周波数特性は,式1の周波数より高周波側で,式2で求めた抵抗になります.ここでは「R1=R2=100kΩ」ですので,「R=50kΩ」となり,図4(a)に比べて低い入力インピーダンスになるのが欠点です.
バッファ回路は前段の出力インピーダンスに影響されないよう高い入力インピーダンスで信号を受け,同様に後段の入力インピーダンスに影響されないよう低い出力インピーダンスで信号を出力することが求められます.なので,交流結合型のボルテージ・フォロアは直流結合型に比べ特性が劣ります.
●AC解析で出力インピーダンス周波数特性を調べる
図7(a)が図1の回路(a),また,図7(b)が図1の回路(c)の出力インピーダンスを調べる回路です.出力インピーダンスの調べ方は,ボルテージ・フォロアの出力端子へI1とI3の交流信号電流源(直流は0)を接続して, そのときの電圧を測定することにより,「交流信号電圧÷交流信号電流」で計算します.
(a)は直流結合型,(b)は交流結合型.
図8は,そのシミュレーション結果です.図7(a)の直流結合型も,図7(b)の交流結合型も出力端子から見れば,OPアンプの出力端子と反転端子に接続されていることは同じであり,図8のように低周波の1Hzでは122μΩの非常に小さな値となります.また,その周波数特性はゲインと同様に高周波に行くほどOPアンプのオープン・ループ・ゲイン周波数特性の影響が出ています. このようにゲインが1となる周波数領域では,低い出力インピーダンスで後段に伝えることができます.
このように,図1の回路(a),(c),(d)に示したボルテージ・フォロアは,次の特徴を持ちます.
・入力と出力は同じ極性である
・直流結合型は高い入力インピーダンスで信号を受ける
・交流結合型は直流カットできるが直流結合型に比べ入力インピーダンスは低くなる
・低い出力インピーダンスで信号を出す
ここでは触れませんでしたが,ボルテージ・フォロアの他の注意点としては次になります.
・OPアンンプの反転端子はバーチャル・ショートとなり,同相入力電圧が印加されることから,CMRによる誤差があり,設計時にはこれらについても十分検討することが必要です.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_004.zip
●データ・ファイル内容
VoltageFollower_Tran.asc:図2の回路
VoltageFollower_Gain.asc:図4の回路
VoltageFollower_Zout.asc:図7の回路
※ファイルは同じフォルダに保存して,フォルダ名を半角英数にしてください
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