ボルテージ・フォロアで入力と出力が違う回路はどれ?




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■問題

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1の回路(a),(b),(c),(d)は,ボルテージ・フォロアで,入力信号をゲイン1倍で出力する回路です.回路の違いは,次に示す様に,使用しているOPアンプと入力信号の違いです.回路(a)~(d)のうち入力信号と出力信号が僅かに違う回路はどれでしょうか.

回路(a)は,単電源OPアンプで電源が5V.入力信号は,2.5Vを中心に±1Vの振幅で周波数が1kHz.
回路(b)は,両電源OPアンプで電源が5V.入力信号は,2.5Vを中心に±1Vの振幅で周波数が1kHz.
ただし両電源OPアンプは単電源で使用.
回路(c)は,単電源OPアンプで電源が5V.入力信号は,1.0Vを中心に±1Vの振幅で周波数が1kHz.
回路(d)は,両電源OPアンプで電源が±5V.入力信号は,1.0Vを中心に±1Vの振幅で周波数が1kHz.


図1 4種類のボルテージ・フォロア.OPアンプと入力信号に差がある.

■ヒント

 OPアンプには同相入力電圧範囲と最大出力電圧があります.

 ボルテージ・フォロアは,入力信号をゲイン1倍で出力する回路です.ゲインが1倍なので,二つの回路をつなぐときに,その間に入れて,互いの回路が干渉しないように使われる回路です.具体的には,二つの回路の前段の出力インピーダンスと後段の入力インピーダンスが同じとき,信号は半分に減衰しますが,ボルテージ・フォロアを間に入れることにより,半分に減衰することを防ぐことができます.これは,ボルテージ・フォロアがゲインが1倍で,高い出力インピーダンスで受け,低い出力インピーダンスで出力する機能を有することから実現できます.このような回路機能はインピーダンス変換とも呼びます.

■解答


回路(c)

 OPアンプには,同相入力電圧範囲と最大出力電圧があります.同相入力電圧範囲は,回路が正常に動く入力電圧範囲になります.また,最大出力電圧は,出力できる最大値と最小値になります.
 回路(c)は,単電源OPアンプで,電源が5V,入力信号は1Vを中心に±1Vなので,その最小値は0Vです.単電源OPアンプは0V(GNDの電圧)を入力できますが,出力はトランジスタの飽和電圧があるため,完全に0Vまで下がりません.よって,0Vを入力しても0Vとならず,ボルテージ・フォロアの入力と出力の波形は僅かに差が発生します.

■解説

●OPアンプは単電源と両電源の同相入力電圧範囲と最大出力電圧を考慮する
 今回の問題は,単電源OPアンプと両電源OPアンプの違い,また,入力信号と出力信号のダイナミック・レンジが,同相入力電圧範囲と最大出力電圧を満たしているかを考える問題です.同相入力電圧範囲は,入力段の回路が全て線形領域で動作する範囲のことです.その判断は決められたCMRR(同相信号除去比)より悪化しない同相入力電圧範囲として定義されます.また,最大出力電圧は,所定の負荷を接続した状態で出力がフルスイングできる出力値です.図2は両電源OPアンプと単電源OPアンプの同相入力電圧範囲と最大出力電圧を示しました.OPアンプを用いた回路(ここではボルテージ・フォロア)で扱う信号は,同相入力電圧範囲と最大出力電圧の内側になければ出力信号は歪んでしまいます.


図2 両電源OPアンプ,単電源OPアンプの同相入力電圧範囲と最大出力電圧を示した

●両電源と単電源OPアンプの入出力回路
 図3図4は,図2のOPアンプの内部回路の例を示しました.図3は両電源OPアンプで,図4は単電源OPアンプです.二つの入力端子はバーチャル・ショートにより,同じ電圧が印加された状態を示しています.出力は結線していませんが,図2のように反転端子と接続している状態とします.ここではOPアンプの内部回路により,両電源OPアンプと単電源OPアンプの違いで,同相入力電圧範囲と最大出力電圧に差があることを説明します.
 なお,トランジスタのベース・エミッタ電圧をVBE,コレクタ・エミッタの電圧をVCEとします.同相入力電圧範囲は,内部回路全てのトランジスタが,線形動作する電圧を「VBE=0.7V」,「VCE=0.3V」として考えます.また,最大出力電圧は,出力が飽和するときは大きな電流が流れていることから,トランジスタが動作する電圧を「VBE=0.8V」,「VCE=0.1V」として考えていきます.

◆両電源OPアンプの入出力回路
 図3の両電源OPアンプの場合,同相入力電圧範囲は,赤破線の「※1」と「※2」の間になり,線形動作しない領域(レールと赤破線の間)が,正負の電源に二つあります.正電源側にある「※1」の電圧は二つの入力端子の電圧が上昇した場合,正電源から内部回路が線形動作するのに必要な電圧を引いた値となり,VBE1側からみれば「VCC-VCE3-VBE1=VCC-1.0V」です.また負電源から内部回路が線形動作するのに必要な電圧「※2」は「VEE+VBE5+VBE4+VCE2-VBE1=VEE+1V」となります.これはVBE2側も同じになります. 
 最大出力電圧は,両電源OPアンプ場合,正電源側にある「※3」の電圧は,出力電圧が上昇した場合,正電源から内部回路が線形動作するのに必要な電圧を引いた値となり,「VCC-VCE6-VBE7=VCC-0.9V」です.また負電源から内部回路が線形動作するのに必要な電圧「※4」は「VEE+VCE9+VBE8=VEE+0.9V」となります.このため,図1の回路(b)と(d)は,入力は「※1」から「※2」の範囲内です.また,出力は「※3」から「※4」の範囲内なので,ボルテージ・フォロワ回路は,正常に機能し同じ波形になります.


図3 両電源OPアンプの入力回路と出力回路

◆単電源OPアンプの入出力回路
 図4の単電源OPアンプ場合,同相入力電圧範囲は,GNDと赤破線「※5」の間になります.線形動作しない電圧は正電源側だけで,GND側は,二つの入力端子が0Vへ接続しても内部回路が線形動作します.正電源側に「※5」の電圧は,二つの入力端子の電圧が上昇した場合「VCC-VCE3-VBE1-VBE6=VCC-1.7V」となります.この電圧はVBE2,VBE7側も同じです.
 最大出力電圧は,単電源OPアンプ場合,正電源側にある「※6」の電圧は「VCC-VCE9-VBE10=VCC-0.9V」です.また負電源から内部回路が線形動作するのに必要な電圧「※7」は「VCE11=0.1V」となります.単電源OPアンプは,出力トランジスタのコレクタ・エミッタ間電圧があるため,0Vまで下がりません.このため,入力信号と出力信号に僅かな差が出てきます.


図4 単電源OPアンプの入力回路と出力回路

●LTspiceでボルテージ・フォロアの出力波形を確認する
 ここでは,図1の回路をシミュレーションし,出力の波形の差を確認します.図5は,図1の回路(a)と(b)のシミュレーション結果を示します. 図5より回路(a)と(b)のボルテージ・フォロア出力は,入力と同じ2.5Vを中心に±1Vとなります.回路(a)の出力[V(out1)]と回路(b)の出力[V(out2)]は重なっています.この出力結果より,回路(a)と(b)はボルテージ・フォロアとして機能しています.また回路(b)の結果より,両電源OPアンプは単電源でも使えます.例えば,±15Vの電源で信号の中点が0Vの両電源OPアンプは,+30Vの電源で信号の中点が+15Vの単電源OPアンプと同じです.単電源OPアンプとの違いは前述のように同相入力電圧範囲と最大出力電圧です.


図5 回路(a)と(b)のシミュレーション結果

 図6は,図1の回路(c)と(d)のシミュレーション結果を示します.図6上段は出力波形です.図6下段図6上段のY軸の0V付近を拡大したものです.回路(c)と(d)の入力は1.0Vを中心に±1Vの信号ですので,0Vを含む波形です.回路(c)のボルテージ・フォロアは単電源OPアンプで0Vを検出できますが,出力[V(out3)]はトランジスタの飽和電圧があるため0Vまで下がりません.このため回路(c)は,入力信号と出力信号に僅かな差が出てきてゲインが1倍になりません.


図6 回路(c)と(d)のシミュレーション結果

■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_002.zip

●データ・ファイル内容
VoltageFollower_Tran.asc:図1の回路
※ファイルは同じフォルダに保存して,フォルダ名を半角英数にしてください

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs

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