LTspiceで石油探査 ―― Oil Exploration with LTspice
LTspice電子回路マラソンは,今回で最終回となります.そこで,最終回は,LTspice 開発者のマイケル・エンゲルハート氏からの問題となります.1年間ご愛読いただきありがとうございました.
石油探査を行うには,岩層や地層の比抵抗(抵抗率)を測定する必要があります.300m以上の深度では,硬い岩が液体の水に浸かっており,しかも,その水は導電性の塩水です.しかし,塩分は石油に溶け込まないため,石油の主成分である炭化水素を含んでいる岩石は塩水をはじき,岩石の比抵抗は高くなります.油田において,抵抗の測定は,炭化水素を含有している岩石を識別することが主な方法として,約80年に渡り使用さ れてきました.
ただし,この方法には問題点があります.油田の掘削を行うときは,密度の高い導電性の泥や液体を穴に注ぎ込み,掘削柱で岩石の密度に近くなるように圧迫します.それは,自然の地層流体(原油や天然ガス)が,暴噴(blowout)で油田の外に噴出しないようにするためです.暴噴は,石油掘削機の乗組員と環境が耐えられないくらい危険です.このため,天然の岩石の抵抗は,外部から導電性物質(泥や液体)を加えた掘削柱の先を測定しなければいけません.
ボーリングの穴の導電率を無視して,地層の比抵抗を測定する主要な方法は,コイルを使用し,地層の渦電流を励起して検出することです.このような方法は,ボーリングの穴よりもずっと先の,地層内に数フィート先の渦電流を感知するように設計し,運用することが可能です.石油業界の規模を考えると,石油を発見するための装置の開発には激しい競争が存在することは言うまでもありません.ここでは,あなたの時間を浪費するような石油探査装置の野暮なクイズは質問しません.
図1に石油探査に実際に使用されたピックアップ・コイルのプリアンプを示します.L1はアンテナのピックアップ・コイルで,地層の渦電流を感知します.
インダクタンスの値は「201n*N**2」で求められます.すなわち,201nHと,巻き数(N)の二乗を掛け合わせた結果です.これは,油田にうまく収まる10cm×1cmのアンテナの公称インダクタンスで,楕円積分の数値的統合により求められる値です.
ここで問題です:信号が20kHzの時,信号雑音比(SN比)が最も良くなるためには,アンテナ・コイルを何回巻けばいいでしょうか.
次の要因が関係します.
(1)コイルの巻き数が増えるほど信号が強くなるため,巻き数は多い方が望ましい.
(2)インダクタンスはコイルの巻き数の二乗に比例して増大します.これによって,周波数に対しするゲインは減少し,また,LT1028の電流ノイズが入力インピーダンスによって発生するためノイズが増大します.二つの理由から,巻き数は少ない方が望ましい.
それでは,LTspiceを使用してこの問題を解決してみましょう.ここでLTspiceを使用する主な利点は,OPアンプのノイズが正しくモデル化されるため,シミュレーションにより解答を見つけられることです.ノイズ・シミュレーションを行い,信号雑音比と巻き数との関係をプロットし,信号雑音比が最大になる巻き数を見つけるだけで答えが得られます.LTspiceでは固定周波数でのノイズ・シミュレーションを行いながら,巻き数(N)など他のパラメータを変更できるため,この作業が簡単に行えます.
信号は巻き数に比例するため,出力信号は入力信号ユニットに対して単純に「N*Gain」で得られます.信号雑音比は,入力信号ユニットに対して「N*Gain/V(onoise:出力ノイズ)」で得られます.多くの人たちは,ノイズをリファレンス入力として扱うことを好むため,「N/V(inoise:入力ノイズ)」をプロットしても同じ結果になります.
図2の上段は,ノイズ出力を示しています.中段は,入力信号ユニットに対しての出力信号を示しています.下段は,入力信号ユニットに対しての信号雑音比を示しています.
図3は,信号雑音比(図2下段)を拡大し,最適な巻き数を特定しやすくしたものです.回答として,油田の石油を最適に検出するためのピックアップ・コイルの巻き数は178ターンです.この場合に,ピックアップ・コイルの巻き数ごとに1ボルト誘導される渦電流の信号雑音比は1.2216e11です.巻き数が178ターンなので,設計では,渦電流が1ターンごとに4.6pVを誘導するとき,この信号雑音比は100になります.
■原文:Oil Exploration with LTspice
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice047.zip
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Preamp.asc:図1の回路
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