ゲインを上げても,帯域幅が変わらない回路はどっち?




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■問題

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1の回路(a)と(b)は,非反転増幅器でOPアンプ以外の回路定数は同じです.回路(a)のOPアンプは,電圧帰還型の「LT1208」を使用し,回路(b)は,電流帰還型の「LT1227」を使用しています.ここで,帰還抵抗のR2を1kΩと固定し,R1を1kΩから250Ωに変更して,ゲインを2倍から5倍に上げた場合,帯域幅が変わらない回路はどちらでしょうか?


図1 問題の回路(a)と(b)
回路(a)は電圧帰還型OPアンプを使用した非反転増幅器.
回路(b)は電流帰還型OPアンプを使用した非反転増幅器.

■解答

回路(b)
 電圧帰還型OPアンプを用いた増幅器は,ゲインを大きくすると帯域幅は狭くなります.一方,電流帰還型OPアンプを用いた増幅器はゲインを大きくしても帯域は変わりません.したがって,回路(b)は,帰還抵抗(R2)が固定されていれば,ゲインを上げても帯域幅の変化はありません.


■解説

●OPアンプの電圧帰還型と電流帰還型の違い
 OPアンプは電圧帰還型と電流帰還型の二つがあります(図2).図2(a)の電圧帰還型は,汎用OPアンプに使われている方式で,反転端子(-)と非反転端子(+)間のわずかな誤差信号電圧(vid)を増幅しています.
 図2(b)の電流帰還型は,反転端子に流れる誤差信号電流(iIN)をOPアンプ内部のカレント・ミラー回路で伝送し,トランス・インピーダンス・ゲイン[T(s)]で電圧に変換します.この方式で,小さな電流変化で大きな電圧変化が作られています.また,電流帰還型OPアンプは,帰還抵抗(R2)を変えなければクローズ・ループ・ゲインの帯域幅が変わらないことから,高速OPアンプとして用いられます.


図2 電圧帰還型OPアンプと電流帰還型OPアンプの解説図
電圧帰還型は,反転端子と非反転端子間のわずかな誤差信号電圧を増幅している.
電流帰還型は,反転端子に流れる誤差信号電流を内部回路で電圧に変換し,大きな電圧変化が作られている.

 電圧帰還型OPアンプを使った回路設計では,ゲインを大きくすると帯域幅が狭くなり,逆に,高周波までの広い帯域を得ようとすると必要なゲインが得られないというトレードオフがありました.しかし,電流帰還型OPアンプは,帰還抵抗(R2)を固定し,R1でゲインの調整を行えば帯域幅が変わらない利点があり,トレードオフがなくなり設計の自由度が増します.

●電圧帰還型OPアンプの伝達関数を調べる
 次に電圧帰還型OPアンプと電流帰還型OPアンプを使用したときの伝達関数より,回路(a)と(b)の帯域幅の変化を調べてみます.
 電圧帰還型OPアンプを使用したときの非反転増幅器の伝達関数は式1で表せます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 いまA(s)を1次遅れ系とし式2とします.AOはOPアンプの直流ゲイン,τはオープン・ループ・ゲインの1st poleであり,fp1=1/2πτがその周波数です.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式1へ式2を代入し,式3の近似を使い, 式を整理すると式4が得られます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 このようにOPアンプの1st pole周波数が1/2πτからAOβ/2πτへ移動します.ここでゲインは1/βですから,ゲインが変わると周波数特性も変化し,帯域が変わるのが電圧帰還型OPアンプを使用した回路の特徴です.

●電流帰還型OPアンプの伝達関数を調べる
 電流帰還型OPアンプは,トランス・インピーダンス・ゲイン[T(s)]を使用すると,その伝達関数は式5です.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
ただし,


 式5でT(s)の項に関係するのはR2しかありません.このため,回路(b)のようにR2の値を固定し,R1の値を小さくしてゲインを大きくしても帯域幅は変わりません.
 電流帰還型OPアンプを使用する際に注意しなければいけないことがあります.電圧帰還型OPアンプは,帰還抵抗(R2)を広い範囲から選ぶことができます.しかし,電流帰還型OPアンプは,負帰還の安定性から帰還抵抗(R2)を狭い範囲からしか選べません.その推奨値は,各製品のデータシートに記載されています.

●回路(a)と(b)をLTspiceでシミュレーションする
 図3は回路(a)と(b)をシミュレーションする回路です.図3の左が電圧帰還型のOPアンプ「LT1208」を使用した回路(a)です.図3の右が電流帰還型のOPアンプ「LT1227」を使用した回路(b)です.R2aとR2bは1kΩで固定し,R1aとR1bに変数{R1}を与え,その値は「.step」コマンドで1kΩと250Ωの二つの値となります.
 また図3の回路図中には「.MEAS」コマンドを用いて10kHzのゲインから-3dB下がる周波数を探し出すようにしました.具体的に,回路(a)を例にとると,「.MEAS AC tmp1 FIND MAG(v(out1)) at 10k」のコマンドは,「周波数10kHzのゲインを変数tmp1へ入れなさい」という意味になります.また,「.MEAS AC VFA_3dB WHEN MAG(v(out1))=tmp1/sqrt(2)」は,「tmp1から-3dB(1/√2)になる周波数を探し,変数VFA_3dBへ入れなさい」という内容になります.
 「.MEAS」コマンドの結果はログ・ファイルに記録されます.ログ・ファイルを見るときはメニューバの「View > SPICE Error Log」または, ショートカット・キーの「Ctrl+L」でログ・ファルのウィンドが現れます.


図3 回路(a)と(b)をシミュレーションする回路
R1を1kΩと250Ωの2種をシミュレーションする.

 図4は,図3のシミュレーション結果です.図4の上段が,回路(a)の電圧帰還型OPアンプを使用した場合で,下段が,回路(b)の電流帰還型OPアンプを使用した場合です.上段のように電圧帰還型OPアンプはR1を調整してゲインを大きくするとその周波数特性に変化が生じ,帯域幅が変化するのがわかります.下段の電流帰還型OPアンプを使用した場合,その周波数特性はほぼ同じで帯域幅の変化がないことが分かります.


図4 図3のシミュレーション結果
上段の電圧帰還型OPアンプはR1を250Ωにして,ゲインを大きくすると帯域幅が狭くなる.
下段の電流帰還型OPアンプは,周波数特性はほぼ同じで帯域幅の変化がない.

 低周波の電圧ゲインから-3dB下がる周波数を「.MEAS」コマンドで調べた値は次になります.セミコロン(;)以降はコメントとなります.



●非反転増幅器と反転増幅器における信号ゲインとノイズ・ゲインの区別
 最後に,今回の解説は非反転増幅器の解説でしたが,便宜上「ゲイン」と説明しました.しかし,非反転増幅器の場合「ノイズ・ゲイン=信号ゲイン=1+R2/R1」ですので,二つを区別せず,ノイズ・ゲインと呼びます.また,反転増幅器の場合は,信号ゲインは「R2/R1」で,ノイズ・ゲインは「1+R2/R1」なので,信号ゲインとノイズ・ゲイン(雑音の計算やオフセット電圧の計算に使う)は区別します.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice029.zip

●データ・ファイル内容
Question_Circuits.asc:図3の回路
※ファイルは同じフォルダに保存して,フォルダ名を半角英数にしてください

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
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