単電源またはレール・ツー・レールOPアンプが必要な回路はどっち?




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■問題

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1の回路(a)と(b)は,A-Dコンバータの入力電圧範囲に合わせるためにOPアンプを使った直流結合レベル・シフト回路です.回路(a)のOPアンプに求められる出力電圧は,2.5Vを中心に-/+1Vで,電源電圧が5V,入力信号が±1V,信号ゲインが-1倍です.回路(b)の求められる出力電圧は,1.65Vを中心に-/+1Vで,電源電圧が3.3V,入力信号が±0.2V,信号ゲインが-5倍となっています.
 この場合,低い同相入力電圧で動作する単電源OPアンプまたはレール・ツー・レールOPアンプが必要なのは回路(a)と(b)のどちらでしょうか?


図1 A-Dコンバータの入力電圧範囲に合わせるための直流結合レベル・シフト回路(a)と(b)
回路(a)のA-Dコンバータの入力電圧範囲は1.5V~3.5V
回路(b)のA-Dコンバータの入力電圧範囲は0.65V~2.65V

■解答

回路(b)
 回路(a)と(b)の出力電圧は,VOUT=-(R2/R1)VIN+(1+R2/R1)Vrefで求められます.OPアンプの出力電圧はVINを信号ゲインで,また,Vrefをノイズ・ゲインで増幅した値です.OPアンプの出力電圧を回路(a)と(b)のA-Dコンバータの条件に合わせるには,直流電圧は,回路(a)のVref1が1.25V,また,回路(b)のVref2が0.275Vとなります.この値より回路(a)は,汎用OPアンプの同相入力電圧でも動作します.回路(b)は同相入力電圧が低いため単電源OPアンプまたはレール・ツー・レールOPアンプが必要となります.


■解説

●OPアンプの入出力電圧範囲による種類
 はじめに,OPアンプの種類を解説します.OPアンプは,入出力電圧範囲の違いで,大きく「両電源OPアンプ」,「単電源OPアンプ」,「レール・ツー・レールOPアンプ」の3種類に分類できます.
 両電源OPアンプ(図2)は二つの電源を使用します.汎用OPアンプの多くが,両電源OPアンプとなっています.同相入力電圧範囲が正負の電源(正と負のレール)から1~2V分だけ内側にあります.同相入力電圧範囲とはOPアンプの電気的特性規格の名称で,OPアンプが正常に動作する入力の電圧範囲の意味です.両電源OPアンプは,単電源でも使えますが,単電源OPアンプのような同相入力電圧範囲にはなりません.


図2 両電源OPアンプの入出力電圧範囲と電源回路イメージ
同相入力電圧範囲が正負の電源(正と負のレール)から1~2V分だけ内側にある.

 単電源OPアンプ(図3)は一つの電源を使用します.内部回路の工夫で単電源で動作させた場合は,GNDの信号が扱えて同相入力電圧範囲の下限値がGNDとなります.例えば,センサなど0Vからのアナログ信号をA-Dコンバータなどに取り込む場合に利用されます.


図3 単電源OPアンプの入出力電圧範囲と電源回路イメージ
GNDの信号(0V)が扱えて同相入力電圧範囲の下限値がGNDとなる.

 レール・ツー・レールOPアンプ(図4)は,内部回路の工夫で入力と出力が正負の電源まで(レール・ツー・レール)の信号がフルスイングで扱えます.例えば,高精度なハイサイド・ローサイド電源電流検出回路などに利用されています.厳密には出力トランジスタの「オン抵抗 ×出力電流」分だけ電圧降下があります.


図4 レール・ツー・レールOPアンプの入出力電圧範囲と電源回路イメージ
入力と出力が正負の電源までの信号が全て(フルスイング)扱える.

●直流結合レベル・シフト回路は電圧を揃える
 回路(a)と(b)は,直流結合レベル・シフト回路を使用して,GNDを基準に正負に振れる信号をA-Dコンバータの入力電圧範囲に合わせることが目的です.R1やR2,Vrefを調整して入力電圧範囲を調整します.直流結合レベル・シフト回路には,回路(a)のように信号源や前置回路と後段の回路の直流バイアス電圧を揃える用途,また,回路(b)のように信号を増幅しながら直流バイアス電圧を揃える用途があります.

●出力電圧をLTspiceで確認する
 LTspiceで回路の動作を過渡解析のシミュレーションで確認します.図5は,回路(a)と(b)をシミュレーションする回路です.条件は同でVref1が1.25Vで,Vref2が0.275Vです.オペアンプは直流ゲインが120dB,1st pole(第1番目の極)が10Hzの理想オペアンプを用いています.ここでは,出力電圧の値をシミュレーションするだけですので,理想オペアンプを使用します.


図5 回路(a)と(b)をシミュレーションする回路
Vref1が1.25Vで,Vref2が0.275Vを印加している.

●OPアンプは同相入力電圧を確認して選択する
 図6が,図5のシミュレーション結果で上段が回路(a),下段が回路(b)の直流結合レベル・シフト回路の出力電圧です.回路(a)は信号ゲインが-1倍で,1.25V のVref1をノイズ・ゲインで増幅しています.出力は2.5Vを中心に-/+1Vとなっています.
 同様に回路(b)は信号ゲインが-5倍で,0.275V のVref2をノイズ・ゲインで増幅しています.出力は1.65Vを中心に-/+1Vとなることが分かります.回路(b)は0.275VのVref2を印加することから,そのOPアンプの同相入力電圧が0.275Vで安定に動作することが求められます.


図6 図5のシミュレーション結果
回路(a)の出力(上段)は2.5Vを中心に-/+1Vとなっている.
回路(b)の出力(下段)は1.65Vを中心に-/+1Vとなっている.

 問題で定義した,汎用(両電源)OPアンプの同相入力電圧範囲は電源とGNDの両レールの内側にあり,その値はVCCから-1Vで,GNDから+1Vです.0.275V のVref2は汎用OPアンプの入力電圧範囲外となるため,GNDに近い同相入力電圧を扱える単電源OPアンプまたはレール・ツー・レールOPアンプから選択する必要があります.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice027.zip

●データ・ファイル内容
Ideal_OP.asc:理想OPアンプの回路
Ideal_OP.asy:理想OPアンプのシンボル
Question_Cir.asc:図5の回路
※ファイルは同じフォルダに保存して,フォルダ名を半角英数にしてください

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
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