ミラー効果でカットオフ周波数が低くなるのはどっち?





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■問題

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1の回路(a)と(b)は,どちらもゲイン26dBの広帯域アンプです.回路(a)は,トランジスタQ1aのコレクタが出力となっています.回路(b)はQ2bのコレクタが出力になっています.この回路に出力インピーダンス1kΩの信号源から信号を加えた時,カットオフ周波数が低い(帯域が狭い)のはどちらの回路でしょう?


図1 広帯域差動アンプ
回路(a)はQ1aのコレクタから出力しOutAで計測する
回路(b)はQ2bのコレクタから出力しOutBで計測する
この回路は,計測しやすくするために,回路(a)と(b)を一つの回路にする

■解答

回路(a)
 回路(a)と(b)は,ともに差動アンプで,回路(a)はQ1aのコレクタから出力している,反転アンプとなります.そのため,Q1a内のコレクタ・ベース間のコンデンサの容量がミラー効果により「ゲイン+1」(20+1)倍の大きさとして働きます.その結果,R3aとQ1aで構成されるハイ・カット・フィルタのカットオフ周波数は,回路(b)よりも低くなり,回路(a)のほうが,カットオフ周波数の低いアンプとなります.
 ミラー効果は,回路(a)と(b)のような広帯域アンプでは,カットオフ周波数を下げ,邪魔になる効果です.しかし,大きなコンデンサを内蔵することのできない集積回路では,ミラー効果を積極的に使用することもあります.


■解説

●LTspiceで周波数特性を確認
 まず,回路(a)と(b)の周波数特性を図2で確認します.カットオフ周波数は,図3からも読み取れますが,「.MEAS」コマンドを使うことで,エラー・ログに数値として表示させることができます.コマンドは「.MEAS AC tmpA max mag(V(OutA))」と記述して,OutA端子の信号の最大値をtmpAという変数に格納します.
 次に「.MEAS AC CfrqA when mag(V(OutA))=tmpA/sqrt(2) FALL=1」を追加します.このコマンドは,「ゲインが減衰していき,tmpAの√2分の1(-3dB)となった周波数をCfrqAという変数に格納しろ」という意味になります.この CfrqAが高域カットオフ周波数になります.
 OutBに関しても同様のコマンドを追加しておきます.図3図2の回路の計測結果です.エラー・ログには次のようにCfrqA,CfrqBが表示され,カットオフ周波数はそれぞれ,0.997MHzと4.66MHzであることがわかります.


図2 回路(a)と(b)の周波数特性を確認するLTspiceの回路

エラー・ログ出力

cfrqa: mag(v(outa))=tmpa/sqrt(2) AT 997850
cfrqb: mag(v(outb))=tmpb/sqrt(2) AT 4.6597e+006

図3 回路(a)と(b)の周波数特性の計測結果

●ミラー効果を解析する
 回路(a)のカットオフ周波数を低くした原因のミラー効果について考えます.ミラー効果(Miller effect)は,1920年にJohn Milton Miller氏によって発表された現象で,反転アンプの入出力に接続されたコンデンサの容量が,「ゲイン+1」倍に見える効果です.トランジスタは図4左のような構造になっています.構造上,コレクタ・ベース間にはPN接合による寄生容量が図4右のようにできます.この寄生容量が回路(a)ではミラー効果により,「ゲイン+1」(20+1)倍の大きさとして働き,カットオフ周波数を下げていました.図5がそのミラー効果を説明するための回路です.


図4 トランジスタの構造とコレクタ・ベース間の寄生容量


図5 ミラー効果を解析するための回路
C1がミラー容量

 E1は理想アンプとして働き,反転アンプなので,ゲインは「-A」となっています.コンデンサC(ミラー容量)1は入力端子とアンプ出力にそれぞれ接続されています.まず,コンデンサのインピーダンスを式(1)とします.


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

コンデンサに流れる電流をiinとすると

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

式(2) と(3)より,

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

ここで,VINから見たインピーダンスZinは式(5)で計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

(1) ,(4),(5)より,
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

(1)と(6)を比較すると,図3の回路は,コンデンサが(1+A)倍になったかのように働くことがわかります.


●理想アンプでシミュレーション
 理想アンプを使用した図6の回路で,カットオフ周波数がミラー効果により,どのように変わるのかを確認してみます.


図6 ミラー効果確認用回路

 図6(a)のミラー効果無しの方は,R1aとC1aで構成されるカットオフ周波数fca(19.89MHz)のハイ・カット・フィルタの後に,-20倍のアンプが接続されています.


 一方,図6(b)のミラー効果有りの方は,コンデンサのC1bが入力と出力の間に接続されているので,C1bは21倍の容量として働きます.つまり,(b)のミラー効果有りのカットオフ周波数は0.947MHzとなるはずです.

 図7がそのシミュレーション結果のグラフです.また,「.MEAS」によるカットオフ周波数の計測結果は次のようになります.

cfrqa: mag(v(outa))=tmpa/sqrt(2) AT 1.98944e+007
cfrqb: mag(v(outb))=tmpb/sqrt(2) AT 947459

図7 理想アンプによるミラー効果計測結果

●ミラー効果の活用法
 図1の回路ではミラー容量以外にも,カットオフ周波数を決める要素がいろいろあるため,カットオフ周波数の差はそれほど大きくありません.理想アンプによるシミュレーションでは,正確にゲイン倍のカットオフ周波数の変化が発生しています.
 図1の回路(a)と(b)ような広帯域アンプでは邪魔になるミラー効果ですが,大きなコンデンサを内蔵することのできない集積回路では,図8のように,アンプの位相補償回路などで,ミラー効果を積極的に使用することもあります.


図8 OPアンプの位相補償にミラー効果を活用した事例

■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice016.zip

●データ・ファイル内容
DiffAmp_J.asc:図2の回路(a)と(b)
MillerSim_J.asc:図6の回路(a)と(b)
※ファイルは同じフォルダに保存して,フォルダ名を半角英数にしてください

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs

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