電源電圧が低くても正常に動く回路はどっち?




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■問題

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1(a)は非反転アンプ,(b)は反転アンプです.どちらも回路のゲインは6dBです.電源は乾電池2本で使用することを想定し,最低動作電圧は±0.9Vとする必要があります.入力信号は1kHz,0.28Vrmsです.使用するOPアンプの内部等価回路が図2のようなものだった場合,電源電圧が低くても正常に動作するのは(a),(b)どちらの回路でしょうか?


図1 問題の非反転アンプと反転アンプ
最低動作電圧は±0.9Vとし,入力信号は1kHz,0.28Vrms


図2 (a)と(b)で使用するOPアンプ内部の等価回路
Q4のトランジスタの動作が重要となります

■解答

(b)反転アンプ
 今回の例のようにゲインが低く,比較的大きな入力信号が入ってくる場合,反転アンプ形式のほうが,より低い電源電圧で動作します.図2のQ4のトランジスタの動作が重要となります.

■解説

●回路のゲインの計算方法
 念のため図1の回路のゲインの計算方法をおさらいしておきます. (a)は非反転アンプなので,そのゲインは
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
となります.
(b)は反転アンプなので,
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
です.抵抗値を代入するとどちらもG=2 となり,ゲインは6dBです.

●実際に,LTspiceを使用して確認する
 まず,図1(a)の回路を確認してみます.図3がシミュレーション用の回路図です.入力は0.28Vrmsなので√2倍して,ピーク電圧が0.4Vで,1kHzのサイン波とします.V1とV2が電源です.電圧値はV_Batという変数で設定しています.通常,電圧1.5Vで解析を行う場合,「.param V_Bat=1.5 」として変数を定義し,{V_Bat}のように波かっこ({ })を使用します.今回は「.step 」コマンドを使用してV_Batを0.9Vから1.5Vまで,0.1Vステップで変化させます.


図3 非反転アンプのシミュレーション用の回路
V1とV2が電源で,電圧値を0.9Vから1.5Vまで,0.1Vステップで変化させる

 図4が非反転アンプの出力結果です.0.9V~1.5V まで正常に動作すれば,すべての結果が重なって表示されます.しかし,ここでは,3本ほど出力波形が歪んでいます.つまり,電源電圧±1.1V以下では正常に動作していないことが分かります.


図4 非反転アンプの出力シミュレーション結果
正常に動作すれば,すべての結果が重なって表示される

 「.step 」コマンドで解析した結果の特定の条件だけをグラフ表示したい場合は,図5のように,「Plot Settings」の中の「Select Steps」を選択し,表示されたウィンドウで図6のように表示したい条件を選択します.


図5 Plot Settingsメニュー
「Plot Settings」の中の「Select Steps」を選択



図6 step選択画面
表示したい条件を選択

●電圧差が無くなると電流を供給できない
 図7はQ4のコレクタ電圧とVEEの電圧差をプロットしたものですが,「V_Bat=0.9V」の条件だけを表示させています.波形の下側でほとんど電圧が無くなっていることが分かります.Q4は差動回路に定電流を供給するトランジスタです.Q4 のコレクタ電圧とVEEの電圧差が無くなると,電流を供給できなくなり,アンプが動作しなくなります.少なくとも100mV程度の電圧差が必要です.


図7 Q4 のコレクタ電圧とVEEの電圧差
電圧差が無くなると,電流を供給できなくなり,アンプが動作しない

●反転アンプ形式は減電圧特性で有利になる
 次に(b)の回路を同様に確認してみます.図8がシミュレーション用の回路です.


図8 反転アンプのシミュレーション用の回路



図9 反転アンプの出力シミュレーション結果
正常に動作しているので,すべての結果が重なって表示される

 図9のようにすべての波形が重なっており,±0.9Vでもきちんと動作していることが分かります.図10は,図7同様Q4のコレクタ電圧とVEEの電圧差をプロットしたものです.ここには信号成分は無く,Q4が動作するのに十分な電圧が確保されています.反転アンプ形式にすると,OPアンプの+入力と-入力共にGND電位とほぼ等しくなり,非反転アンプのような信号成分が無いので,減電圧特性で有利になります.


図10 Q4 のコレクタ電圧とVEEの電圧差
Q4が動作するのに十分な電圧が確保されている

●0Vから電源電圧までの入力信号を扱うOPアンプ
 今回のような条件で,どうしても非反転アンプにする必要がある場合は,「レール・ツー・レール入出力」が保証されたOPアンプを使用する必要があります.Linear Technology社 の製品では,「LT6000」などがあります.入力段をNPNト ランジスタ差動とPNPトランジスタ差動をうまく組み合わせる工夫をして,0Vから電源電圧までの入力信号を扱うことができるようにしています.図11は,LT6000のデータシートに掲載されている簡易内部等価回路図です.入力電圧が低くなり,Q4とQ5のNPNトランジスタ差動が機能しなくなった場合も,Q3とQ6のPNPトランジスタ差動が働くことで,OPアンプとしての動作が可能となっています.


図11 LT6000のデータシートに掲載されている簡易内部等価回路図
入力電圧が低くなり,Q4とQ5のNPNトランジスタ差動が機能しなくなった場合,Q3とQ6のPNPトランジスタ差動が働く

 最後にLT6000を使用した非反転アンプでのシミュレーション結果を示します.LT6000用のモデルはLTspiceに最初から用意され,[Component][Opamps]の中に入っています.図12は,LT6000を使用したシミュレーション用の回路です.図13は,図12のシミュレーションの結果です.LT6000は「レール・ツー・レール入出力」が保証されているので,±0.9Vでも正常に動作していることが分かります.


図12 LT6000を使用した非反転アンプのシミュレーション用の回路
0Vから電源電圧までの入力信号を扱うことができる



図13 LT6000を使用した非反転アンプ出力の結果
「レール・ツー・レール入出力」が保証されているので,±0.9Vでも正常に動作している

■データ・ファイル

解説に使用した,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice006.zip
●データ・ファイル内容
A_J.asc:図3の回路
B_J.asc:図8の回路
LT6000_J.asc:図12の回路
※三つのファイルは同じフォルダに保存して,フォルダ名を半角英数にしてください

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら

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