1つのOPアンプで構成する差動増幅回路
図1は,1つのOPアンプで構成した差動増幅回路です.この差動増幅回路の入力端子IN1とIN2にV1,V2,V3という3つの信号源が接続されています.V1とV2は,それぞ位相が反転した1kHz,2VPPの正弦波です.また,V3は,10kHz,2VPPの正弦波です.このような信号を加えたとき,Out端子に出力される10kHzの成分が最も小さくなるR1の値は,(A)~(D)のどれでしょうか.
Out端子に出力される10kHzの成分が最も小さいR1の値は?
入力端子IN1には,V1とV3が加算された信号が印加されます.また,IN2にはV2とV3が加算された信号が印加されます.IN1とIN2に対してV3は同相信号となります.Out端子の10kHz成分が最も小さいのは,図1が差動増幅回路として動作し,同相入力に対するゲインが最も小さくなったときです.図1が差動増幅回路として動作するのは,R1とR2の比がいくつのときかを考えれば答えが分かります.
図1の回路が差動増幅回路として動作し,同相入力(10kHz)に対するゲインが最も小さくなるのは,R1とR2の比がR3とR4の比と等しくなったときです.「R3:R4=1:1」なので「R1:R2=1:1」のときになります.これは「R1=R2」のときということになり,R1が15kΩのときに同相入力に対するゲインが最も小さくなります.したがって,10kHz成分が最も小さいR1の値は15kΩということになります.
●差動増幅回路のゲインを計算する
信号を伝送するとき,それぞれ位相が反転した差動信号を使用すると,そこに同相ノイズが混入しても,受信側でそのノイズを取り除くことができます.そのようなときに使用するのが,差動増幅回路です.
図2は,差動増幅回路のゲインを計算するための回路です.
R1とR2に流れる電流は等しい.
まず,R1に流れる電流をiR1とします.OPアンプの入力端子には電流が流れないため,R2に流れる電流もR1と同じiR1になります.R1の電圧降下からiR1を求めたものが式1です.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
R2の電圧降下からiR1を求めると式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式1と式2からvoutを求めると式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
また,vbはV2をR3とR4で分圧したものなので,式4で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
OPアンプのゲインが十分に大きいものとすると,va=vbとみなすことができます.そこで式3のvaに式4を代入したものが式5です.
・・・・・(5)
ここで「R4/R3=R2/R1」とすると,式5は式6のように簡略化できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式6を見るとわかるように,voutはIN2とIN1の差電圧をR2/R1倍したものになります.図1の場合は「IN1=V1+V3でIN2=V2+V3」となっています.そのため,その差信号は式7のようにV2-V1となり,V3の信号は出力にはまったく現れません.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
このように抵抗比を適切に設定した差動増幅回路では,同相信号は出力されず差動信号のみを増幅することができます.
●差動増幅回路の出力波形をシミュレーションする
図3は,図1の差動増幅回路の出力波形をシミュレーションするための回路です.
R1の値を5kΩ,10kΩ,15kΩ,20kΩと変えてトランジェント解析を行う.
V1とV2は1kHz,2VPPの正弦波信号ですが,V1の振幅を-1としてV2とは位相が反転するようにしています.V3は10kHz,2VPPの正弦波です.R1の値をRという変数にして.stepコマンドで5kΩ,10kΩ,15kΩ,20kΩと変えてトランジェント解析を行います.
図4がそのシミュレーション波形です.上段が入力波形で下段が出力波形です.IN1とIN2は1kHzの信号と10kHzの信号が加算された波形になっています.
R1が15kΩのときはOut端子出力に10kHzの成分は無い.
一方Out端子の波形を見ると,R1が15kΩのときは出力に10kHzの成分は無く,1kHz,4VPPの正弦波となっていますが,その他の抵抗値の場合は,10kHzの波形が重畳されています.
●差動増幅回路の同相ゲインをシミュレーションする
図3で差動増幅回路の出力波形をシミュレーションしましたが,次にR1の値を変えたときの同相ゲインをシミュレーションします.図5が差動増幅回路の同相ゲインをシミュレーションするための回路です.
R1の値を10kΩから20kΩまで100Ωステップで変化させAC解析を行う.
R1の値を「.stepコマンド」で10kΩから20kΩまで100Ωステップで変化させAC解析を行います.そして「.measコマンド」でそれぞれの解析結果から1kHzのときのゲインを取り出し,Gという変数に格納します.解析終了後,Ctrl+Lキーでエラーログを開き,マウス右クリックして表示されたメニューでグラフを表示します.
図6が同相ゲインのシュミレーション結果です.非常に鋭いノッチ特性となっており,R1が15kΩのときにゲインが-180dB以下になっています.
R1が15kΩのときにゲインが-180dB以下になっている.
以上,1つのOPアンプを使用した差動増幅回路について解説しました.図6を見ると分かるように,この回路が差動増幅回路としてきちんと動作するためには,4本の抵抗に高精度なものを使用する必要があります.また,この回路の入力インピーダンスはR1,R3,R4で決まります.高い入力インピーダンスが必要な用途には,OPアンプを2個もしくは3個使用した回路を使用する必要があります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_022.zip
●データ・ファイル内容
difAmp_step.asc:図3の回路
difAmp_AC_comm.asc:図5の回路
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