ひずみゲージを使用したひずみ量の計測
図1は,ひずみゲージを使用して,物体のひずみ量を電圧として計測するための回路です.印加電圧(V1)は2Vです.Out1とOut2の差電圧がひずみ量に比例しており,出力電圧は「VOUT=VOUT1-VOUT2」です.使用しているひずみゲージの抵抗値は120Ωで,1000μSTというひずみが発生したときの抵抗変化率は,0.2%となっています.この回路で,1000μSTというひずみが発生したときの,出力電圧(VOUT)の値として適切なのは(A)~(D)のどれでしょうか.
ひずみゲージの抵抗が0.2%変化したときの出力電圧は?
Out1の電圧は,V1をR1とR2で分圧した値です.また,ひずみゲージを抵抗に置き換えると,Out2の電圧も計算することができます.ひずみゲージの抵抗が0.2%変化したときのOut2の電圧変化を計算すれば,簡単に答えがわかります.
R1とR2の値が等しいので,Out1の電圧はV1の半分の1Vです.ひずみゲージの抵抗が120ΩのときはOut2の電圧も1Vになり,VOUTは0Vになります.ひずみゲージの抵抗値が0.2%変化したときのVOUTは,式1で計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
「VOUT=1mV」となり正解はAになります.
●単純分圧回路によるひずみ測定
ひずみゲージを使用したひずみ量測定は,ひずみゲージの抵抗変化を電圧に変換することで行います.図2のような回路でも抵抗値変化を電圧に変換することはできますが,この回路はほとんど使われません.ひずみゲージの抵抗変化量が非常に小さいため,定常状態とひずみが発生したときの電圧差が非常に小さいためです.またV1が変動したとき,その変動がそのまま出力されてしまうという問題もあります.
ひずみが発生したときと定常状態との電圧差が少ない.
●ブリッジ回路によるひずみ測定
ひずみゲージを使用したひずみ量測定には,図1のようなブリッジ回路が使用されます.このブリッジ回路の形はホイートストン・ブリッジとして有名なものです.ブリッジ回路を使用することで,ひずみが発生していないときの出力電圧は0Vとなり,出力にはひずみに対応した電圧だけが出力されます.図3は,図1のひずみゲージを抵抗に置き換えたものですが,この回路を使用して,出力電圧がどのようになるか計算します.
RGの値が変化したときの出力電圧を計算する.
Out1の電圧は,式2で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
Out2の電圧は,式3で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
出力電圧VOUTは,式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・(4)
ここで,「R1=R2=R3=R」,RGの初期値をRとします.すると式5のようにVOUTは0Vになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
次に,RGがΔRだけ変化したときの出力電圧を計算すると式6のようになります
・・・・・・・・・・・・(6)
ここで,ひずみゲージの抵抗変化(ΔR )は非常に小さいため「R+ΔR/2≒R」と近似すると式7のようにシンプルな式にすることができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
ひずみゲージの仕様書には,ひずみ量に対する抵抗変化率の係数(ゲージ率)が記載されています.この係数をKSとし,ひずみの量をεとすると,ひずみ量と出力電圧の関係は式8のようになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
図1で使用しているひずみゲージは1000μSTのひずみに対し,0.2%の抵抗変化率なので,KSは式9のように2となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
式8にこの値を代入すると,式10のようにVOUTは1mVとなり,式1で計算した値と同じになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
●ひずみ量と出力電圧の関係をシミュレーションする
図4は,ひずみ量と出力電圧の関係をシミュレーションするための回路です.ブリッジ回路を使用したものと,比較用に通常は使用しない単純分圧型の回路をシミュレーションします.ひずみゲージの抵抗値(RG)は,初期値を120Ω,ゲージ率を2とし,ひずみ量をeとすると「RG=120(1+2*e)」という式で計算できます.図4の回路では「.paramコマンド」でRGを定義しています.そして「.stepコマンド」でひずみ量(e)を-2000μから2000μまで100μステップで変化させています.
「.stepコマンド」でひずみ量(e)を-2000μから2000μまで変化させる.
図5はひずみ量と出力電圧の関係のシミュレーション結果です.上段の単純分圧回路では,出力電圧は1Vを中心に±2mV変化するだけなので,変化がわかりにくくなっています.一方,下段のブリッジ回路を使用したものは,変化電圧のみが出力され,その出力電圧はひずみ量と比例したものになっています.
ブリッジ回路を使用したものは,ひずみ量に比例した出力電圧となっている.
●入力電圧に重畳したノイズの影響をシミュレーションする
図6は,入力電圧(V1,V1X)にノイズが重畳したとき,そのノイズがどのように出力されるかをシミュレーションするためのものです.V1,V1Xは直流電圧は2Vで,50Hz,振幅0.1Vの正弦波を重畳しています.ひずみ量を表すeは0とし,ひずみが発生していないときの状態を検証します.
ひずみ量を表すeは0としてひずみが発生していないときの状態を検証.
図7は,入力電圧にノイズが重畳したときの出力のシミュレーション結果です.単純分圧回路では入力電圧に重畳したノイズが出力されてしまっていますが,ブリッジ回路を使用したものはノイズは出力されません.
ブリッジ回路を使用したものはノイズが出力されない.
以上,ひずみゲージを使用してひずみ量を電圧として測定する方法を解説しました.図5のシミュレーション結果からわかるように,ひずみに対応して発生する電圧は非常に小さなものです.そのため,実際はOut1とOut2に差動増幅回路を接続し,所望の電圧まで増幅して使用して使用します.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice4_004.zip
●データ・ファイル内容
Strain_gauge.asc:図4の回路
Strain_gauge_noise.asc:図6の回路
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