レギュレータに保護回路を加える



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■問題

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,シリーズ・レギュレータにカレント・リミット回路(保護回路)を加えた回路です.保護回路の機能は,負荷(RL)が短絡しても,トランジスタ(Q1)から流れる電流を制限します.シリーズ・レギュレータはトランジスタ(Q1,Q2),ツェナー・ダイオード(D1),抵抗(R1,R2,R3,R4)で構成し,カレント・リミット回路をトランジスタ(Q3),抵抗(R5,R6,RSENSE)で構成しています.
 図1の回路で,負荷抵抗(RL)を200Ωから1Ωへ小さくしたとき,トランジスタ(Q1)から流れる電流は制限されます.その電流値は次の(a)~(d)のうちどれでしょうか.なお,カレント・リミット回路が動作したときのトランジスタ(Q3)のベース・エミッタ電圧(VBE3)は0.69V,トランジスタ(Q2)のベース電圧(VB2)は7.03Vとします.また,計算を簡単にするため,トランジスタの電流増幅率は無限大で,ベース電流は無視します.


図1 シリーズ・レギュレータにカレント・リミットを加えた回路
RSENSEの抵抗で,負荷へ流れる電流の最大値を調整できる.

(a)69mA,(b)76mA,(c)130mA,(d)150mA

■ヒント

 今回は,トランジスタと抵抗を使った,シリーズ・レギュレータのカレント・リミットについて解説します.図1の回路の出力電圧(VOUT)は,トランジスタ(Q2)のベース電圧(VB2)を,R3とR4の抵抗比で調整した値となります.負荷電流(IL)が増え,抵抗(RSENSE)に流れる電流が多くなると,トランジスタ(Q3)が導通となり,カレント・リミット回路が動作します.トランジスタ(Q3)が導通となるベース・エミッタ電圧(VBE3)より,Q1から流れる最大の負荷電流(IL)が求まります.電源回路には,負荷が短絡したときに備え,カレント・リミット回路を加えることがあります.負荷電流の検出は,低い抵抗値(図1ではRSENSE)の電圧降下を用います.ここでは,2種類のカレント・リミット回路について解説します.


■解答


(d)150mA

 トランジスタ(Q3),抵抗(R5,R6,RSENSE)で構成したカレント・リミット回路が動作するときは,RSENSEの電圧降下が大きくなり,トランジスタ(Q3)が導通となります.図1の負荷電流は式1となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 ここで,Kは式2です.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 図1の出力電圧は,トランジスタ(Q2)のベース電圧(VB2)を,R3とR4の抵抗比で調整した値なので,式3となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 カレント・リミット回路が動作するVBE3の電圧は0.69V,RSENSEの抵抗値は10Ω,式2のKと式3のVOUTを式1へ代入し,負荷電流(IL)の最大値を求めると式4となります. よって,図1の回路では,(d)の150mAで電流制限が掛かるカレント・リミット回路となります.

・・・・・・・・・・・・・(4)

■解説

●2つの素子で構成した簡単なカレント・リミット回路
 図2は,図1のシリーズ・レギュレータに,トランジスタ(Q3)と抵抗(RSENSE)の2つの素子で構成した簡単なカレント・リミット回路を追加しています.


図2 2つの素子で構成した簡単なカレント・リミット回路
Q3とRSENSEの2つの素子で電流制限をかけている.

 このカレント・リミット回路は,負荷に流れる電流(IL)をRSENSEの電圧降下で検出します.RSENSEの電圧降下が,トランジスタ(Q3)が導通するベース・エミッタ電圧(VBE3)に等しくなると,カレント・リミット回路が動作し,トランジスタ(Q1)のベース電圧を調整して,エミッタから流れる電流を制御します.図2のカレント・リミット回路は,RSENSEの電圧降下が一定になるように動作しますので,負荷が短絡しても,最大の電流を流し続けます.そのときの電流値はVBE3を0.69V,RSENSEを4.7Ωとすれば,式5となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

●簡単なカレント・リミット回路をLTspiceで確認する
 図2の電源電圧(V1)を20V,負荷抵抗値はRLOADの変数で与え,「.stepコマンド」で200Ωから1Ωまで1Ωステップで抵抗値を小さくして負荷電流を大きくし,カレント・リミットの回路動作をシミュレーションします.
 図3は,図2のシミュレーション結果です.グラフの横軸は負荷電流(IL),縦軸は電圧と電力です.負荷電流(IL)が大きくなると.RSENSEの電圧降下が大きくなり,トランジスタ(Q3)のベース・エミッタ電圧(VBE3)が大きくなります.VBE3が0.69Vとなると,カレント・リミット回路が動作し,負荷電流の最大値を維持しながら出力電圧は低下します.この回路の欠点はトランジスタ(Q1)の電力が大きなことです.


図3 図2のシミュレーション結果
負荷電流の最大値を維持しながら,出力電圧は低下する.

●フォールドバック・カレント・リミット回路
 図4は,図1をシミュレーションする回路です.図1のカレント・リミット回路は,フォールドバック・カレント・リミット(Foldback Current Limiting)と呼ばれます.フォールドバック・カレント・リミット回路も,負荷に流れる電流(IL)をRSENSEの電圧降下で検出します.トランジスタ(Q3)のベース電圧は,抵抗(R5,R6)の分圧回路から与え,分圧回路はトランジスタ(Q1)のエミッタ電圧を検出しています.トランジスタ(Q3)のベース・エミッタ電圧(VBE3)が大きくなると,トランジスタ(Q3)のコレクタから電流が流れ,トランジスタ(Q1)のベース電圧を制御し,流れる電流を制御します.フォールドバック・カレント・リミット回路は,負荷電流(IL)と出力電圧(VOUT)の両方を小さくし,トランジスタ(Q1)の電力を抑えます.


図4 シリーズ・レギュレータにカレント・リミット回路を加えた回路
この回路は,フォールドバック・カレント・リミット回路と呼ばれます.

 図4のフォールドバック・カレント・リミット回路について解析をします.トランジスタ(Q1)のエミッタ電圧(VE1)は式6となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 式6より,トランジスタ(Q3)のベース電圧(VB3)は,式7となります.ここでKは分圧回路(R5,R6)より式2です.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 トランジスタ(Q3)のベース・エミッタ電圧(VBE3)は,式7のベース電圧と出力電圧(VOUT)の差であり,式6も使って整理すると,式8となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 以上より,式8を負荷電流(IL)で整理すると解説の式1となります.式1より,カレント・リミット回路に流れる電流の最大値は式9となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 また,出力電圧(VOUT)が0Vになる負荷電流(IL)は式10となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)

●フォールドバック・カレント・リミット回路のシミュレーション
 図4の電源電圧(V1)を20V,負荷抵抗値はRLOADの変数で与え,「.stepコマンド」で200Ωから1Ωまで1Ωステップで小さくし,負荷電流を大きくしたシミュレーション結果が図5となります.


図5 図4の温度シミュレーション結果

 負荷電流の最大値は約150mAであることが分かります.また,フォールドバック・カレント・リミット回路が動作すると,負荷電流(IL)と出力電圧(VOUT)の両方が小さくため,消費電力も小さくなります.フォールドバック・カレント・リミット回路が動作する前は,トランジスタ(Q3)のベース・エミッタ電圧は逆バイアスとなります.トランジスタのベース・エミッタの逆バイアスによるブレークダウン電圧は低く,約5Vほどしかありませんので注意してください.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_039.zip

●データ・ファイル内容
Cuurent_Limit.asc:図2の回路
Foldback_Cuurent_Limit.asc:図4の回路

■LTspice関連リンク先


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