ブロコウ・セル 基準電圧源の温度補償



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■問題

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,OUT端子が出力となるブロコウ・セルと呼ばれる基準電圧源(バンドギャップ・リファレンス)です.回路の条件として,Q1とQ2のトランジスタの比はn:1としました.また,抵抗(R1,R2)の値を同じとすると,OPアンプ(U1)を使った帰還ループにより,Q1とQ2のコレクタ電流が等しくなるように制御しています.
 図1のブロコウ・セルは,抵抗比を調整することにより温度補償できます.温度補償ができる抵抗比は(a)~(d)のどれでしょうか.ここで計算を簡単にするため,Q1とQ2のベース電流は無視します.


図1 ブロコウ・セル 基準電圧源

(a)R4:R3 (b) R4:R6 (c) R3:R6 (d) R5:R6

■ヒント

 今回は,ブロコウ・セルと呼ばれる基準電圧源について解説します.ブロコウ・セルは,n:1の2つのトランジスタQ1とQ2に同じ電流を流し,そのベース・エミッタ電圧差(ΔVBE)がR3の両端に加わります.ΔVBEは正の温度係数を持ち,Q2のベース・エミッタ電圧(VBE2)の負の温度係数を打ち消して温度補償をします.この回路動作をヒントに,OUT端子の電圧式を導くことにより,どの抵抗比が温度補償に関係しているか分かります.

 ブロコウ・セルは,基準電圧源として働き,温度の変化に対し電圧の変化が小さい高精度な定電圧源となります.トランジスタや抵抗の比を使った設計となるため,集積回路に向いています.ブロコウ・セルの名は,考案者Paul Brokaw氏から由来しています.

■解答


(a) R4:R3

 詳細は解説で説明しますが,ブロコウ・セルのOUT端子の電圧は式1となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 式1の右辺より温度によって変化するのは,負の温度係数を持つQ2のベース・エミッタ電圧VBE2と熱電圧VTに関係する項です.熱電圧(VT)は「VT=kT/q(Tは絶対温度,kはボルツマン定数,qは電子電荷)」ですから,正の温度係数となります.この正の温度係数を2(R4/R3)ln(n)倍し,VBE2の温度係数の符号を正にした値に近づけることにより,互いに打ち消しあって温度補償ができます.よって,ブロコウ・セルの温度補償は,R4:R3の比を適切に選ぶことになります.出力電圧VOUTの絶対値は,(1+R5/R6)のゲインで調整します.抵抗の温度係数が等しければ,温度による抵抗比の変化はありません.

■解説

●ブロコウ・セルの出力電圧ついて
  図2は,図1のブロコウ・セル内の電圧を示しました.この図を使い,出力電圧VOUTを調べます.


図2 ブロコウ・セルの内部電圧の詳細

 ブロコウ・セルは「R1=R2」とすると,OPアンプ(U1)の帰還ループにより,Q1とQ2のコレクタ電流が等しくなります.よって,コレクタ電流は「IC=IC1=IC2」の関係があり,Q1の逆方向飽和電流がnIS,Q2がISとなります.Q1とQ2のトランジスタ比はn:1であるため,異なる電流密度で動作します.すると,式2のようにVBE1とVBE2の差であるΔVBEがR3の両端の電圧となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式2のΔVBEを使い,R4に流れる電流を表すと式3となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式2と式3を使い,Q1とQ2のベース電圧をVrefとし「VR4=IR4R4」より,式4となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 出力電圧VOUTは,式4のVrefの電圧を(1+R5/R6)のゲインで増幅した値となり,式5となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 以上より,式4と式5を使って出力電圧を表すと,式1となります.

●ブロコウ・セルの温度補償ついて
 次に式4を使い,ブロコウ・セルの温度補償について考えます.式4の右辺はQ2ベース・エミッタ間電圧VBE2の負の温度係数の項と熱電圧VTを2(R4/R3)ln(n)倍した正の温度係数の項となります.温度補償をするには,正と負の温度係数で打ち消せば,Vrefの電圧は温度に対して変化が小さくなります.
 ここで,具体的なR4:R3の比を計算で求めます.式4の温度変化は,温度Tで微分すれば求められ,その計算結果に,具体的な数値として,次の値を入れた計算が式6となります.

∂Vref/∂T=0 [V/℃]:Vrefの温度係数をゼロとする目標値
∂VBE2/∂T=-2.07[mV/℃]:VBE2の負の温度係数(あらかじめ調べた値)
n=2:Q1:Q2=2:1
k=1.38×10-23[J/K]:ボルツマン定数
q=1.6×10-19[C]:電子電荷


・・・・・・・(6)

 図1のシミュレーションをするため,他の抵抗値の具体例を計算すると次のようになります.

・Q1とQ2のコレクタ電流が12μA程度を目標に,式2と式3より,R3は1.5kΩとなります
・式6の比より,R3が1.5kΩのとき,R4は26kΩとなります
・OPアンプは入力がレール・ツー・レールを用い,同相入力電圧範囲から余裕をみて,R1とR2の電圧降下が0.56Vとする抵抗値より「R1=R2=47kΩ」となります
・VBE2が540mVとすると,式4よりVrefは1.16Vとなります.出力端子の電圧を約3Vを目標にすると,式5より「R5/R6=1.59」となりR6を47kΩとすれば,R5は75kΩとなります

●スタートアップ回路について
 先に求めたR4:R3の比と,その他の抵抗値を入れた回路が図3となります.「Q1:Q2=2:1」とするため,Q1はQ1aとQ1bの2つのトランジスタで表しました.OPアンプは入出力がレール・ツー・レールのLT1490を用いています.


図3 ブロコウ・セルをシミュレーションする回路
スタートアップ回路を追加している.

 ブロコウ・セルは,OPアンプの帰還ループにより,Q1とQ2のコレクタ電流が等しくなり,R1とR2に流れる電流が等しいところで安定します.しかし,図4に示すように,流れる電流の交点は2つあり,どちらに落ち着くかは不定となる回路です.左側の交点で落ち着くと電流は流れず,ブロコウ・セルは動きません.よって,右側の交点で落ち着かせるには,ブロコウ・セルを起動する回路が必要となり,図3には新たにスタートアップ回路を加えました.
 このスタートアップ回路は,Vrefの電圧が約1.2Vより十分低いとき,Q3からQ1とQ2のベースへ電流を流します.起動するとVrefの電圧は約1.2Vになり,Q3のベース・エミッタ間の電圧が小さくなって停止します.


図4 ブロコウ・セル起動時のQ1とQ2のコレクタ電流
2つの電流が交わる交点は2つあり,どちらかに落ち着く.

●ブロコウ・セルの特性をシミュレーションで確かめる
 図5は,図3の回路でV1を0Vから10VまでスイープしたときのVrefとVOUTの電圧およびQ3の電流をプロットしました.V1が約1Vより低いときは,Q3からブロコウ・セルへ電流が流れ,回路が起動すると停止する様子が分かります.また,VrefやVOUTの電圧は,V1の電圧が約3V以上で定電圧になることが分かります.


図5 図3の電源(V1)が0V~10Vまでスイープしたときのシミュレーション
約1V以下はスタートアップ回路が動作し,ブロコウ・セルを起動している.

 図6は,図3の回路で,温度を-20℃から100℃間でスイープしたときのVBE2,VR4,Vref,VOUTの電圧をプロットしました.Vrefの温度係数は,VBE2の負の温度係数とVR4の正の温度係数で打ち消しているので,温度による変化は小さく,VOUTはVrefを(1+R5/R6)のゲインで増幅していることがわかります.また,温度が変化してもVOUTの電圧変化が小さい電圧源として動作しているのも分かります.


図6 図3の温度特性
温度変化による出力電圧の変化は小さい.

 図3では説明のため,Q1とQ2の比を2:1としましたが,集積回路ではもう少し大きな比(例えば8:1,10:1など)としています.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice3_021.zip

●データ・ファイル内容
Brokaw_Cell.asc:図3の回路

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