1Vを中心に振幅が1Vの正弦波を出力する差動増幅器はどれ?



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■問題

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1の回路(a)~(d)は,ゲインが20dB(10倍)になる差動増幅器です.回路の違いは信号源(V1,V2,VB)と直流電圧源(VC)の条件となり,条件は次のようになります.

回路(a)は「V1とV2が逆相,VB=0V,VC=0V」
回路(b)は「V1とV2が逆相,VB=1V,VC=0V」
回路(c)は「V1とV2が逆相,VB=0V,VC=1V」
回路(d)は「V1とV2が同相,VB=0V,VC=1V」
 ここで,V1とV2は,振幅が50mVで,周波数が1kHzの正弦波となります.また,逆相はV1とV2の振幅が反転(位相が180°異なる)しています.VBとVCは,直流電圧源です.


図1 回路は同じ差動増幅器で,信号源と直流電圧源の条件が異なる回路

 図2は,1Vを中心に,振幅が1Vの正弦波の出力電圧波形です.そこで,この波形(図2)になるのは,回路(a)~(d)の中でどの回路でしょうか?


図2 差動増幅器の出力電圧波形
1Vを中心に,振幅が1Vの正弦波の出力電圧波形.

■ヒント

 差動増幅器は,V1とR3の間にある入力端子とV2とR1の間にある入力端子の電圧差を,差動ゲイン「R2/R1(=R4/R3)」で増幅します.また,VCの直流電圧は,差動増幅器出力の直流電圧を変更できます.
 今回の差動増幅器で,任意の直流電圧を中心に増幅した信号を出力する用途としては,後段の回路の直流バイアス電圧に合わせるために使われます.例えば,差動増幅器からの出力電圧を後段のA-Dコンバータの入力条件に合わせるときなどに利用します.


■解答


回路(c)

 図3図1の差動増幅器です.差動増幅器の二つの入力端子(VIN+,VIN-)へ信号源が接続され,R4には直流電圧源(VC)があります. この場合,図3の差動増幅器の出力(VO)は,式1の条件のとき,式2となります.式2より,差動増幅器の出力は,VIN+とVIN-の電圧差を,直流電圧VCを中心に,ゲイン(R2/R1)で増幅した出力電圧となります.二つの入力端子の電圧差である「VIN+-VIN-」は式3ですので,VBは打ち消され出力には現れません.


図3 図1の差動増幅器

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 問題の回路(a)~(d)の条件で,VIN+とVIN-に電圧差が発生するのは,信号源のV1とV2が逆相の場合です.よって,出力にVIN+とVIN-の電圧差を「R2/R1」のゲインで出力するのは(a),(b),(c)です.(d)はV1とV2が同相で「V1-V2=0」であることから解答の候補から外れます.次に出力電圧VOが1Vを中心に,増幅した信号が振れるのは,VC=1Vの(c)です.よって正解は回路(c)となります.

■解説

●差動増幅器の入出力特性
 図3に示す差動増幅器は,式2のように,二つの入力端子(VIN+,VIN-)の電圧差「VIN+-VIN-」を増幅する回路です.入力の電圧差を増幅する回路なので,図3の信号源にある同相信号のVBは増幅されません.同相信号の多くは,差動信号の二つの信号に同時に載った同相のノイズ成分と見なされ,コモン・モード・ノイズと言われています.また差動増幅器は「VIN+-VIN-」の引き算をすることから,減算回路としても使われます.
 図4は,OPアンプを理想とし,重ね合わせの理を使って,図3の差動増幅器の入出力特性を計算するための回路です.式1の条件となるよう,「R1=R3」,「R2=R4」としています.重ね合わせの理は,複数の電圧源,電流源がある回路において,一つの電圧源(または電流源)を回路に残し,それ以外は無くした(電圧源はショート,電流源はオープン)出力電圧を合算したものであるという定理です.この重ね合わせの理を用いると,簡単に差動増幅器の入出力特性が求まります.具体的には図4のように,VIN+,VIN-,VCが単独で回路にあるときの各々の出力電圧VO1,VO2,VO3を求め「VO=VO1+VO2+VO3」とすることで計算できます.


図4 図3の差動増幅器の出力電圧を計算する回路
重ね合わせの理より「VO=VO1+VO2+VO3」となる.

 図4には,VO1,VO2,VO3の計算結果を回路の右側に記載しました.図4(a)の出力(VO1)は「入力電圧がVIN-の反転増幅器の出力電圧」,図4(b)の出力(VO2)は「VIN+をR1,R2で分圧した電圧が入力電圧となる非反転増幅器の出力電圧」,図4(c)の出力(VO3)は「VCをR2,R1で分圧した電圧が入力電圧となる非反転増幅器の出力電圧」として計算できます.
 以上の結果より「VO=VO1+VO2+VO3」を求めると式4となります.このように図3の差動増幅器の入出力特性は,式2であることが分かります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

●差動増幅器の入出力特性をLTspiceで確認する
 図5の(a)~(d)は,図1の(a)~(d)をLTspiceで確認するシミュレーション回路です.差動増幅器は同じ回路で,信号源と直流電圧源の条件が異なっています.一つの回路図で(a)~(d)の回路を同時にシミュレーションするため,電圧源や抵抗,入力電圧などのV1,R1,VIN+は,回路図の(a)~(d)のアルファベットで分けています.しかし,解説ではV1,R1,VIN+のように表記します.V1とV2は信号の直流分もシミュレーションで確認できるように,正弦波は1msの遅延時間を与えました.それでは,以下に図5の(a)~(d)の解説を行います.


図5 図1の(a)~(d)をシミュレーションする回路

 図5(a)の条件は「V1とV2の振幅が50mV, 周波数が1kHzの正弦波で逆相,VB=0V,VC=0V」の場合です.V1とV2は逆相ですので,「VIN+-VIN-」は振幅100mVの正弦波となります.また回路の抵抗は「R1=R3=2kΩ」,「R2=R4=20kΩ」です.以上の条件を式2へ代入すると「VO=10×(0.1V)sin(ωt)+0V」ここで,「ω=2π×1kHz」となります.出力は「GND(=0V)を中心に振幅1Vの正弦波」となります.図6は,図5(a)のシミュレーション結果です.式2を使って得た「GNDを中心に振幅1Vの正弦波」であることが分かります.


図6 図5(a)のシミュレーション結果

 図5(b)の条件は「V1とV2の振幅が50mV, 周波数が1kHzの正弦波で逆相,VB=1V,VC=0V」の場合です.前述の図5(a)と違うところは,コモン・モード・ノイズとなるVBが1Vとなっています. しかし,コモン・モード・ノイズ(VB)は差動増幅器の入力端子(IN+,IN-)から見れば共通であり,入力端子の電圧差「VIN+-VIN-」は,「(V1+VB)-(V2+VB)」ですので,VBは差し引きゼロとなり,図5(a)の条件と同じになります.したがって,図5(b)の出力は図5(a)と同様に,「GND(=0V)を中心に振幅1Vの正弦波」となります.図7は,図5(b)のシミュレーション結果です.出力波形が図6と同じであることが分かります.


図7 図5(b)のシミュレーション結果

 図5(c)の条件は「V1とV2の振幅が50mV, 周波数が1kHzの正弦波で逆相,VB=0V,VC=1V」の場合です.差動増幅器の二つの入力端子に繋がる信号源(V1,V2,VB)は,図5(a)と同じであり,「VIN+-VIN-」は振幅100mVの正弦波となります.図5(a)図5(b)と比較すると,共通して違うところはR4に接続した直流電圧源「VC=1V」です.直流電圧源VCは,式2より,「VIN+-VIN-」に関係なく,出力の直流電圧を制御できます.図5(c)は「VC=1V」ですので,出力は「1Vを中心に振幅1Vの正弦波」となります.この波形が問題の図2の波形です.図8は,図5(c)のシミュレーション結果で「1Vを中心に振幅1Vの正弦波」であることが分かります.


図8 図5(c)のシミュレーション結果

 図5(d)の条件は「V1とV2の振幅が50mV, 周波数が1kHzの正弦波で同相,VB=0V,VC=1V」の場合です.図5(c)と比べると,信号源(V1,V2)が同相で,他は同じです.V1とV2が同相なので,「VIN+-VIN-=0」であり出力には信号は現れません.「VC=1V」の条件より,出力は「1Vの直流電圧」となります.図9は,図5(d)のシミュレーション結果です.「1Vの直流電圧」であることが分かります.


図9 図5(d)のシミュレーション結果

●差動増幅器の出力に現れる誤差
 上記までは,差動増幅器の動作概要を説明しました.ここからは差動増幅器の出力に現れる誤差について解説します.差動増幅器の出力の誤差は,次の三つの要因が考えられます.

(1)信号源抵抗の影響
(2)OPアンプのCMRRによる影響
(3)抵抗比のミスマッチによる影響

 誤差要因の三つのうち,ここでは,(1)の信号源抵抗の影響について解説します.(2)のOPアンプのCMRRによる影響に関しては次回解説します.また,(3)の抵抗比のミスマッチによる影響は「LTspice電子回路マラソン001 ―― CMRRが低いのはどちらの回路?」を参考にしてください.

 図10は,信号源抵抗の影響による誤差要因で,信号源抵抗があるときの差動増幅器の回路図です.信号源抵抗はR1とR3に直列に接続されます.「RS=RS1=RS2」,「R1=R3」,「R2=R4」とすれば,信号源抵抗を含んだ差動増幅器のゲインは式5となります.


図10 信号源抵抗が有限値の場合

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 信号源抵抗(RS1,RS2)が差動増幅器のR1とR3より十分小さければ「R2/R1」のゲインとなります.しかし,増幅器として使用する場合は「R1<R2,R3<R4」である事,また,R2とR4は,入手できる抵抗の上限があり,「R2/R1」のゲインを大きく設定するとR1とR3は小さな抵抗になり,信号源抵抗が無視できない場合があります.また,抵抗比のミスマッチによる影響の誤差要因にも関係し,信号源抵抗(RS1,RS2)のミスマッチも入るため,「RS1+R1=RS2+R3」とすることが難しくなり,抵抗のミスマッチによる誤差による差動増幅器出力の誤差も増えてきますので注意してください.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_018.zip

●データ・ファイル内容
Differential_Amplifier.asc:図5の回路
signal.asy:交流信号源のシンボル

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

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