浮遊容量を打ち消し,より高域な広帯域増幅器はどっち?




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■問題

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1の回路(a)は非反転増幅器,回路(b)は反転増幅器で構成した広帯域増幅器です.OPアンプや抵抗,コンデンサは全て同じです.OPアンプは電圧帰還型の高速OPアンプで,直流オープン・ループ・ゲインが120dBです.1st pole(第1番目の極)は100Hzで,GB(利得帯域幅)積は100MHzの理想OPアンプとなっています.また,C1は,OPアンプの反転端子や基板につく浮遊容量や入力容量で,合算値は30pFとしました.帰還容量のC2は,R1C1=R2C2となるように15pfにしています.この場合,浮遊容量を打ち消し,高域の遮断周波数が高い広帯域増幅器は回路(a)と(b)のどっちらでしょうか?


図1 問題の広帯域増幅器の回路(a)と(b)
回路(a)は非反転増幅器,回路(b)は反転増幅器でコンデンサと抵抗,OPアンプは全て同じ.
浮遊容量(stray capacitance)とは,設計上は存在しない静電容量.今回のようにOPアンプの反転端子やプリント基板上の配線幅が狭い箇所などに発生する.

■解答

 回路(a)
 非反転増幅器のIN端子からOUT端子までの信号ゲインは,ノイズ・ゲインと同じです.R1C1=R2C2とすれば入力容量は打ち消されます.これより高域の周波数特性はOPアンプの周波数特性が現れることから,回路の信号ゲインの遮断周波数は,100MHz÷3=33MHzです.
 一方,反転増幅器の信号ゲインはノイズ・ゲインでなく,その遮断周波数はR2とC2できまり 1/(2π×20kΩ×15pF)=530kHzになります.したがって回路(a)の方が高域の遮断周波数が高くなります.


■解説

●浮遊容量がピーキングを発生させる
 負帰還をかけるOPアンプの反転端子は,サミング・ポイントと呼ばれます.ここはとても敏感な箇所で基板の浮遊容量やOPアンプの入力容量により,信号ゲインの周波数特性にピーキングを発生させます.
 図2の回路は,非反転増幅器と反転増幅器のサミング・ポイントに浮遊容量がついた場合の信号ゲインの周波数特性を調べる回路です.帰還容量(C2_a, C2_b)が無い状態の0pFから,徐々に値を増やした場合をシミュレーションしています.抵抗やコンデンサ,OPアンプは図1と同じ条件で,OPアンプは直流のオープン・ループ・ゲインと1st poleのみを与えた理想OPアンプを用いて,考えやすいようにしています.


図2 非反転増幅器と反転増幅器のサミング・ポイントに浮遊容量がついた場合の信号ゲインの周波数特性を調べる回路

 図3がその結果であり,上段が非反転増幅器出力の信号ゲインの周波数特性,下段は反転増幅器の周波数特性です.このようにサミング・ポイントに浮遊容量がついた場合,帰還容量が無い(0pF時)場合は,高域で信号ゲインのピーキングを生じます.また帰還容量を増すことによって信号ゲインのピーキングは抑えられ,回路(a)と(b)の15pFのときは,明らかに非反転増幅器の方が,高域での遮断数が高いことがわかります.


図3 図2のシミュレーション結果
帰還容量が0pFの場合,高域で信号ゲインのピーキングが生じる.15pFの場合,明らかに非反転増幅器の方が,高域での遮断数が高いことが分かる.

●負帰還ループの特性を調べる
 サミング・ポイントの浮遊容量により信号ゲインのピーキングを持つのは,負帰還が不安定になるためです.この状態を図4の回路を用いて確認します.図4は負帰還ループの特性を調べるために出力端子とR2の間を切断しました.理想OPアンプですのでオフセット電圧やオフセット電流,また入力バイアス電流等の直流誤差がなく,配線を切断するだけでそのループ・ゲインと位相が調べられます.OPアンプのマクロモデルや実回路でシミュレーションするときは,Middle Brook法などを用いてください.過去に配信したメルマガ「ボルテージ・フォロワで発振が止まる回路はどっち?」にMiddle Brook法の使い方を載せています.


図4 サミング・ポイントに浮遊容量がついた場合の帰還率(β)とループ・ゲインを調べる回路
負帰還ループの特性を調べるために出力端子とR2の間を切断.

 負帰還ループを切断し,R2の一端を入力に変えて出力端子までの帰還率(β)とループ・ゲイン及び位相を調べます.図4では「IN」から「Beta」までが帰還率[β(s)]の周波数特性であり,また「IN」から「LOOP」までが負帰還を一巡するループ・ゲインと位相です.
 図5はそのシミュレーション結果で,C2=0pFの条件は,帰還率[β(s)]へ浮遊容量のC1によって新たなpoleを発生させ,ループ・ゲインは二つのpoleを持つ2次遅れ系となることが分かります.この結果,位相シフトが大きく,位相余裕は9°しかありません.これは負帰還が不安定であることを示しています.
 一方,R1C1=R2C2とするC2=15pFを与え,R2C2で作るゼロ点の補償で新たなpoleを打ち消せば,位相余裕は90°まで戻ります.この状態の負帰還は安定であり,信号ゲインのピーキングは無くなります.


図5 図4の帰還率(β)とループ・ゲインのシミュレーション結果
位相余裕が9°の場合は,負帰還が不安定である.

●非反転増幅器と反転増幅器の周波数特性を算出する
 回路(a)と(b)の,非反転増幅器と反転増幅器の周波数特性を算出します.まず,回路(a)と(b)のようにR1,C1,R2,C2がある場合,帰還率[β(s)]は式1で表せます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

ただし,



 R1=10kΩ, C1=30pF,R2=20kΩ,C2=15pFとすればτ12となり,帰還率[β(s)]はτ1のpoleをτ2のゼロ点で補償しています.また,OPアンプの直流ゲインをAO=120dB,帰還率の直流ゲインをβO=1/3, 1st poleを1/2πτ1stPole =100Hzとすると,非反転増幅器の信号ゲインの周波数特性は式2になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 τ12の条件では,OPアンプの1st pole周波数1/2πτ1stPoleがAOβO/2πτ1stPoleへ移動することになり,333333×100Hz=33MHzに信号ゲインの1st poleを持つ周波数特性になります.これはGB積からも求まり,GB積が100MHzで,信号ゲインが3であれば,100MHz÷3=33MHzです.
   反転増幅器の信号ゲインは式3になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式3を計算すると,反転増幅器の信号ゲインは1/2πC2R2=530kHzが1st poleとなり,2nd pole周波数が33MHzになります.式2と式3より,非反転増幅器と反転増幅器の周波数特性に差があることが理解できます.

●回路(a)と(b)の周波数特性をLTspiceで調べる
 図6は,図1の回路(a)と(b)の信号ゲインの周波数特性を調べる回路です.浮遊容量に相当するC1=30pFがサミング・ポイントにあり,補償をする目的でR1C1=R2C2としました.


図6 図1の回路(a)と(b)の信号ゲインの周波数特性を調べる回路

 図7がそのシミュレーション結果です.式2,式3で計算したように,非反転増幅器の周波数特性は,33MHzに1st poleを持つ特性です.また反転増幅器はR2C2で決まる530kHzに1stpoleがあり,2nd poleが33MHzであることがシミュレーション値からも理解できると思います.


図7 図6のシミュレーション結果
非反転増幅器の周波数特性は,33MHzに1st poleを持ち,反転増幅器は530kHzに1stpoleがある.

 ここでは割愛しますが,反転増幅器のピーキングを持たない平坦な信号ゲインを得る遮断周波数は,位相余裕値を調整することにより広域側へ動かすことができます.具体的にはC2の値を小さくし,負帰還が安定である位相余裕値を確保しながらピーキングを抑える調整です.C2をパラメータにし,シミュレーションで値を変化させるとその効果が分かると思いますので試して下さい.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice025.zip

●データ・ファイル内容
Ideal_OP2.asy:理想OPアンプのシンボル
Ideal_OP2.asc:理想OPアンプの回路
CloseLoop_Cf.asc:図2の回路
Question_Cir.asc:図6の回路
※ファイルは同じフォルダに保存して,フォルダ名を半角英数にしてください

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs

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