プロセッサ最新テクノロジ2018 シリーズ23

誘導性センシングと静電容量センシングでUI性能を大幅に拡充
サイプレスのPSoC 4700     



サイプレスの末武 清次氏
 静電容量センサは,ディスプレイなどの透明なガラスの上に実装でき,感度や位置精度も高い利点があり,スマートフォンなどのタッチパネルをはじめさまざまな機器のUI(ユーザ・インターフェース)に広く採用されています.しかし,静電容量センサが万能という訳ではなく,金属パネルへの実装や悪環境下での利用という点では誘導性センサが使いやすい場合もあります.
 サイプレスは,静電容量センサを簡単に実現できる独自の「CapSenseテクノロジ」で静電容量センサの普及に貢献してきましたが,この度,誘導 性センサを簡単に実現できる新しい「IndSenseテクノロジ」を搭載したPSoC 4700を発売しました.
 PSoC 4700は,静電容量センサと誘導性センサの両方のUIに対する幅広い要求に応えることができ,従来のPSoC 4ファミリをさらに拡充する製品です.今回は,このPSoC 4700を同社マイコン事業部の末武氏に解説していただきます.
                              執筆:宮﨑 仁

1.IoT時代のサイプレスのMCU
 サイプレスのPSoCファミリは,プログラマブル・アナログとプログラマブル・ディジタルによる柔軟なハードウェアを統合した使いやすいMCUとして定評があります.現在,IoTアプリケーション向けMCUには,センシング,UIなどのフロントエンド処理や通信,セキュリティなどのバックエンド処理の両方の機能や性能が求められます.そこで,PSoCのMCUを用いれば,それらの要求に対応できます.
 PSoC 4は,アナログ・リッチで超低消費電力を特徴とするので,IoTのフロントエンドに最適なファミリです.また,PSoC 6は,ディジタル・リッチで,高性能と低消費電力を両立するのでIoTのバックエンドに最適なファミリと位置付けられます(表1).

表1 PSoC 4シリーズとPSoC 6シリーズ

 PSoC 4700は,PSoC 4シリーズの1ファミリとして,今年の4月に発売されたもので,センシングとUIに特徴を持つ製品です.タッチパネル,タッチスイッチなどUIの主流となっている静電容量センシング(CapSense)に加えて,静電容量センシングが苦手とする環境で力を発揮できる誘導性センシング(IndSense)を統合することによって,あらゆる環境のセンシングに簡単に対応できるように工夫されています.その特徴から,サイプレスではPSoC 4700を「Sense Anything」と呼んでいます(表2).

表2 PSoC4シリーズの概要

 PSoC 4700は,CapSense,IndSense,A-Dコンバータなどの豊富なアナログ機能を搭載しており,さまざまなセンサやUIをもつデバイスを1チップで実現できます.CapSenseでタッチキーを実現し,IndSenseでドア・ロック検出やロータリ・ダイヤルを実現できます.さらに,A-Dコンバータからは温度センサなど各種のセンサの情報を取り込むことができ,PWMを使ってLED の光量や表示色を制御できます(図1).


図1 PSoC 4700の概要と特長

 このような特徴をもつPSoC 4700 は,民生用から産業用まで,さまざまな機器に活用できます.具体的には,洗濯機や冷蔵庫,電子レンジなど各種のスマート家電に使用できます.また,窓の開閉や室内の温度,照明などを監視するスマート・ホームにも使えます.さらに,プリンタなど可動部の多いOA 機器,水中でも使用可能になってきたスマートフォン,業務用の調理機器や洗浄機器,野外に設置される無人機器,さらに,ノイズ環境が厳しい工場やFA 機器など広い分野で使用できます.

2.誘導性センシングの特徴と活用方法
 誘導性センシングとは,コイルに金属を近付けることで生じる誘導電流の変化をさまざまなセンサとして利用するものです(図2).可動部の経年劣化がなく単純で堅牢なセンサを作れます.また,水や塵など環境の影響を受けにくいので,産業用の近接センサを中心として長く使われています.しかし,コイルと検出回路を一体化したセンサ・モジュール製品が多く使われており,MCUと組み合わせて,センサの情報をMCUに取り込む用途には,コストの面で使いづらい部分があります.


図2 誘導性センサの原理

 静電容量センサは,ディスプレイ上に実装でき,指先の操作で位置や動きを簡単に入力できるタッチ式のUI として近年普及しました.ただし,指先の動きの誤検知,金属パネル上に実装しにくい,センサからMCUまでの配線を長くできないなどの問題もあります.
 それに対して,誘導性センサは,指先に反応しないが,薄い金属パネル面にタッチして軽くたわませることで信頼性の高いタッチ入力が実現できます.静電容量センサが苦手とするような悪環境にも強く,雨天や水中でも動作できます.さらに,ロータリ・エンコーダやスライダの検出,ドア開閉など近接センサとしての活用もできます.静電容量センサと誘導性センサを適材適所で使い分けることによって,センシングやUI の可能性は大きく広がります.
 誘導性センサを実現するには,コイルと検出回路を組み合わせる必要があり,従来は回路を個別に設計するかInductance-Digitalコンバータを用いていましたが,民生用機器やIoTデバイスに使いやすい製品はありませんでした.PSoC 4700は,16入力のIndSenseを搭載しており,16個までのセンサやタッチスイッチを直接接続して信号を取り込むことができます(図3).


図3 誘導性センサの実現方法

 さらに,IndSenseは,CapSenseと同様にサイプレスの開発環境であるPSoC Creatorで簡単に使用できます.センサ設計で最も面倒なパラメータ設定も,CapSense と同じAutoTuningテクノロジによって簡単に最適な設定を実現できます.このPSoC 4700によって,誰でも簡単に誘導性センシングを活用できるようになります.
 静電容量センシングも以前は,産業用が主な用途であり,民生用機器のタッチ入力などに手軽に使えるものではありませんでした.CapSenseのように誰でも簡単に静電容量センサを実現できる技術が登場したことで,はじめて普及が可能になったと言えます.

3.PSoC 4700の評価ボード
 サイプレスは,PSoC 4700S 誘導性センシング評価キット(CY8CKIT-148)を発売しています(写真1).この評価キットは金属パネルと3個のタッチボタ ン,近接センサの平面コイル・パターン,外部コイルを接続可能なコネクタなどを搭載しており,すぐに誘導性タッチセンシングを試すことができます.


写真1 サイプレスの誘導性センシング評価キット


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