プロセッサ最新テクノロジ2018 シリーズ22『Cypress』
EZ-PD CCG5
サイプレスの山田祥之氏 |
小型でリバーシブルなUSB-C（USB Type-C）コネクタを採用したノートブックPCやスマートフォン，パワー・アダプタ製品などが普及し，身近な存在となりました．USB-Cは，コネクタ形状の規格だけではなく，最大100Wの給電が可能なUSB PD（パワー・デリバリ）や最大10Gbpsの転送が可能なUSB 3.1Gen 2に加えて，Thunderbolt，DisplayPort，HDMIなどの高速シリアル信号をUSBケーブルに収容できるオルタネート・モードへの対応があります．
これまでサイプレスは，USBコントローラの開発でも高い実績がありますが，USB-Cコントローラでも実績を上げています．今回は，USB-C用の最新コントローラ製品であるCCG3PAとCCG5を同社MCU&コネクティビティ事業部の山田祥之氏に解説していただきます． 執筆：宮﨑 仁 |
1．マーケット・シェア37％のUSBコントローラ
1997年にUSBマウス・コントローラ・チップを出荷して以来，サイプレスは20年以上にわたってUSB向けチップを市場に供給してきました．この間，USB2.0，USB3.0などUSB 規格のバージョン・アップに対応し，次々に製品を拡充して，累計18 億個以上の出荷実績があります．また，サイプレスは，単に製品数が多いだけではなく，標準化団体であるUSB-IFに初期から参加しています．
最近ではUSB-C向けチップの開発に傾注しており，2014年にはプログラマブルUSB-C ポート・コントローラのEZ-PD CCG1を世界に先駆けて発売し，さらに，高機能化と高集積化を追及してCCG2，CCG3，CCG4，CCG5とファミリの拡充を進めてきました（表1）．USB-C製品では業界で最多の認証を取得しており，大手メーカのノートブックPCやiPhone，iPadなどに採用され，現在マーケット・シェア37％で出荷数No.1※となっています．
これらの基本品種は選択可能な機能を多くもち，広い用途に対応できることを目指しています．一方，特定の用途をターゲットとして機能を限定し，簡単かつ低コストで使える製品も発売しています．例えば，パワー・アダプタ製品向けとして，PD 機能に特化したものがCCG3PAです．これは，CCG3の基本性能を受け継ぎ，パワー・アダプタ（PA）向けに特化したコントローラです．
これまでサイプレスは，民生機器，産業機器，医療機器などに向けてUSB-Cコントローラ製品を供給してきました．最近では車載用途のUSB活用にも注目しています．例えば，車載AV機器などにはUSBハブの搭載が進み，また，車内でモバイル機器に電源供給や急速充電を行なうUSB PD対応コネクタを搭載する需要が増えています．
これらの需要に対応するため，サイプレスは，USB3.1 Gen1対応の4 ポートHUBコントローラのEZ-USBHX3とUSB-Cポート・コントローラのEZ-PD CCG2について，従来仕様の製品に加え，車載仕様の製品を開発し，すでに量産を開始しています．さらに，PA向けコントローラのCCG3PAと高性能ポート・コントローラのCCG5 についても，同様に車載仕様の製品の量産準備を進めています．
2．PAを簡単に実現できるCCG3PA
CCG3PAは，ミッドレンジのポート・コントローラであるCCG3から派生して，PA向けに特化したコントローラ製品です．ACアダプタ，チャージャ，モバイル・バッテリなど，USBの電源供給能力を活用したPAを簡単に実現できます．
CCG3PAは，回路機能が高度に統合されており，ハイサイドのカレント・スイッチ（PFET）と電流検出抵抗（RSENSE）を外付けするだけで，USB PD対応のPAを実現できます（図1）．基板面積の縮小，部品点数の削減，開発工程の短縮によって，パワー・アダプタ製品の小型化やコストダウンに貢献します．
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過電圧保護（OVP），過電流保護（OCP），短絡保護，ESD保護など各種の保護回路をすべて内蔵しており，信頼性の高いPAを実現できることも大きな特長です．高電圧用途向けに20Vレギュレータも内蔵しています．なお，CCG3PAにはPWMなどのパワー・マネジメント回路は内蔵していません．それは，パワー・アナログ回路は用途や仕様による違いが大きいので，必要に応じて別途用意します．サイプレスは，複数の電源ICメーカと協業しており，ユーザの要望に応じて電源設計をサポートしています．
CCG3PAの内部はPSoCの技術をベースに開発されたもので，ARM Cortex-M0（48MHz）と64Kバイト・フラッシュを搭載しており，PSoCの特長であるプログラマブルなディジタル・ブロックとアナログ・ブロックを活用して多彩な保護回路が実現されます．この構成はCCG1からCCG5まで共通しており，柔軟にシステムを構成できるPSoCの利点をフルに活用してUSB-Cコントローラの製品化を進めています．
3．ハイエンドのUSB-Cポートに適応するCCG5
CCG5は，サイプレスのUSB-C製品の中で最新かつ最高の機能を統合した2 ポートのポート・コントローラ製品です．Thunderbolt 3オルタネート・モードによる高速シリアル伝送に対応していることが最大の特長で，次世代ノートブックPCの主流になると考えられます．DisplayPort，HDMIのオルタネート・モードにも対応しており，USB 3.1 Gen 2も含めて伝送能力はきわめて高いです．一方，電源供給能力についてもUSB PD3.0 に対応しており，CCG3PAと同様に柔軟な仕様と充実した保護機能を簡単に活用できます．
ノートブックPC製品への搭載に向けて，CCG5はインテルのTitan Ridgeリファレンス・ボード（ホスト側：Titan Ridge ACボード，デバイス側：Titan Ridge Tapex Creek ボード）に採用され，認証を取得しています．
CCG5も内部はPSoCがベースであり，ARM Cortex-M0（48MHz）と128Kバイト・フラッシュ，さまざまな保護回路などを内蔵しています（図2）．
4．CCG3PAの開発キット
サイプレスでは，CCG3PAを使用したPAを迅速に開発，評価するための開発キットとして，CY4532 CCG 3PA Evaluation Kitを259ドルで発売しています．
また，ユーザーがUSB-Cの電力配信のトラフィックを分析して，デバッグできるCY4500 EZ-PDプロトコル・アナライザ（写真1）も用意されています．
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