プロセッサ最新テクノロジ2018 シリーズ21
IoTデバイスにはセンサを駆使して情報を収集する能力と,収集した情報を効率的かつ安全にクラウドに届ける能力が要求されます.さらに,スペースの乏しい場所や電源が得られない場所でも使える小型,ロー・パワーの要求もあります.
サイプレスでは,このように相反する要求に高いレベルで応えられる新しいIoT向けMCUとして,PSoC 6を発売しました.従来のPSoCの特長を受け継ぎつつ,これからのIoT向けMCUの標準を狙った製品と言えます.今回は,このPSoC 6を同社マイコン事業部の中津浜氏と末武氏にに解説していただきます.
執筆:宮﨑 仁
1.PSoCシリーズの特長と発展
サイプレスでは,プログラマブルなハードウェアとMCUを統合したユニークなPSoCを開発してきました(表1).最初のファミリのPSoC 1は,独自のM8Cコアを搭載した8ビット製品でした.プログラマブルなアナログ・ブロックとディジタル・ブロックを活用することによってソフトウェアに負担をかけずにセンサ信号処理やインターフェースを実現しました.
その後,8ビット・シリーズとして8051コア搭載のPSoC 3が追加されました.さらに,32ビットArmアーキテクチャを採用し,Cortex-M3コア搭載の「PSoC 5」や「PSoC 5LP」また,Cortex-M0コアやCortex-M0+コア搭載のPSoC 4が登場しユーザの目的に応じて品種を選択できるようになっています.
2.IoT時代のマイコンに対する4つの要求
サイプレスでは,最近のIoT向けマイコンに対する大きな要求としてデータ処理量,多様な通信インターフェース,セキュリティ,バッテリ寿命の4つがあると考えます.
データ処理量として,IoTデバイスは,性能面やコスト面で通信機能がボトルネックになることが増えています.また,センサから収集したデータをそのままインターネットに流すのではなく,適切にデータを選び加工し,通信頻度やデータ量を抑えるエッシ・コンピューティングが重要となってきました.
多様な通信インターフェースに関しては,モバイル,ウェアラブルなどの小型省電力の機器では,BLE(Bluetooth Low Energy)のような近距離無線が必要となり,マイコンにBLEのインターフェースが内蔵されていることが必須となっています.
セキュリティについては,2016年頃から,ネットワーク・カメラなどのIoTデバイスにおけるマルウェアの大規模な感染やそれらからのインターネットに対するDDoS攻撃などが大きな問題となっています.さらに,IoTデバイスは,決済や重要な個人情報をやり取りし,社会や生活に不可欠なさまざまな機器の制御を行うことも多く,セキュリティの保護は最重要の課題となっています.IoT向けマイコンでは,セキュアなゾーンを設けてハードウェアを分離するとともに,安全なソフトウェア実行環境(TEE:Trusted Execution Environment)が有効な対策として求められています.
バッテリ寿命としては,IoTデバイスは,商用電源が得られない場所に設置されることも多く,バッテリで長期間稼動できることは重要なポイントです.そのため,動作電力やスリープ電力を削減することはもちろん,さまざまな,状況に対応できる使いやすい省電力機能が必要です.
この4つの要求はトレード・オフの関係にあります.しかし,これらが高いレベルで利用できなければ,IoT時代のマイコンとは呼べません.
3.PSoC 6の特長
PSoC 6の大きな特長としては,「Cortex-M4F」と「Cortex-M0+」のデュアル・コアを採用し,動作周波数やメモリ容量を大きく向上させ,ハイエンドな位置付となりました(図1).さらに,セキュリティ強化のためのCRYPTOとTEE,近距離無線のBLEを搭載しています.一方,ADC,DAC,Opampなどから構成されるプログラマブル・アナログやUDBで構成されるプログラマブル・ディジタル,CapSenseなどが,従来のPSoCの特長を受け継いでいます.
PSoC 6は,1チップでアナログ・センサから取り込んだデータをBLE経由でクラウドに送信することが効率良く実現できます.また,無線通信やCapSenseなど特定の仕事をCortex-M0+に任せ,Cortex-M4の負担を減らし,スリープ時にCortex-M0+コアだけを生かして省電力化することもできます.スリープ,ディープ・スリープ,ハイバネートさまざまなレベルの省電力モードをもち,きめ細かく使い分けられます.BLE以外の無線が必要な場合には,外付けのWi-FiチップやWi-Fiモジュールを容易に接続できるなど,拡張性も十分です(図2).
アナログ・ブロックは,SAR ADC,DAC,Opamp,コンパレータなどを組み合わせてセンサ入力などのアナログ・インターフェースを容易に構成できます.ディジタル・ブロックは,組み合わせ論理やマクロセル,データパスなどを組み合わせて,ディスプレイ・コントローラなどさまざまなディジタル機能を柔軟に構成できます.
また,ディジタル・ブロックを用いて内蔵ペリフェラルと入出力ピンを柔軟に接続でき,ピン割り当ての自由度がきわめて高くなっています.さらに,PSoC 6のGPIOには,入出力信号にちょっとした論理演算回路を付加できるスマートI/Oが搭載されています.複数信号の組み合わせや入力ノイズのフィルタリング,細かい割込み条件設定などが簡単にできます.これらの機能は,外付けハードウェアを必要とせず,ソフトウェアの負担もなく実現できます.このように多様なインターフェースに柔軟に対応できるので,PSoC 6は,モータを使用する家電機器やヘルスケアなどのウェアラブル機器など,幅広いアプリケーションに適しています.
4.PSoC 6の開発環境と評価キット
PSoC 6の開発には,ハードウェア設計と,ソフトウェア設計をシームレスに実行できる統合開発環境のPSoC Creatorを使用します.PSoC Creatorは,サイプレスのWebサイトから無償でダウンロードできます.
PSoC 6の開発キットとしては,PSoC 6 BLE Pioneer Kitが入手できます.このキットは,BLE,電子ペーパ,CapSense,USB Type-Cパワー・デリバリなどに対応しており,PSoC 6を活用したユニークなデバイス開発に役立ちます(図3).
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