プロセッサ最新テクノロジ2017 シリーズ20

わずか1cm角のソーラ・セルで,IoT無線センサ・ノードを電池レス駆動
エナジー・ハーベスティングPMIC 



 周囲の状況をセンサで取り込み,ゲートウェイなどのデバイスに無線でデータを送信する,センサ・ノードが大量に使われています.また,電源が簡単に得られない場所でセンサ・ノードを設置する要望も増えています.そこで,期待されているのが,光,温度差,振動など,周囲の環境に存在するエネルギーを電気に変換・蓄積して活用するエナジー・ハーベスティング(環境発電)です.
 Cypress Semiconductor社(以下サイプレス)では,本格的なIoT時代に向けたキー・デバイスとして,超低消費電力無線とエナジー・ハーベスティングに注力しています.特に,汎用性が高いパワー・マネージメントIC(PMIC)をいち早く製品化して業界をリードしています.今回は,サイプレスの最新エナジー・ハーベスティングPMICであるS6AE101A/102A/103Aをサイプレスの関根景太氏と府川栄治氏に解説していただきます.
                                           執筆:宮﨑 仁


右より,サイプレスの関根氏,府川氏,佐藤氏,ワン氏


1.エナジー・ハーベスティングの重要性
 電子機器にとって電源供給が一番重要です.無人の環境に多数のセンサ・ノードを設置するようなIoTアプリケーションでは,電源配線の工事や人手による電池交換,充電操作などの手間やコストが大きな問題となります.
 その中で,注目されてきた技術が,機器の周辺に存在する光や温度差,振動などの環境エネルギーを電気に変換し,蓄積して活用するエナジー・ハーベスティングです.たとえば,太陽光や屋内光の光をソーラ・セルで電気に変換して電池レスを実現したソーラ電卓やソーラ腕時計は,古くから用いられてきたエナジー・ハーベスティングの事例と言えます.また,腕時計ではユーザの体温と外気の温度差からエネルギーを得る熱発電,ユーザの歩行時の腕の振りで発電を行う自動巻き発電など,さまざまな方式が工夫されてきました.
 センサからのデータ取り込みや無線通信を常時行うことが必要なIoTセンサ・ノードでは,電卓や腕時計に比べると機器の消費電力がはるかに大きいため,より多くの環境エネルギーを効率良く蓄積し,活用する必要があります.サイプレスでは,このエナジー・ハーベスティングの将来性に着目し,早くから専用のパワー・マネージメントIC(PMIC)の開発を進めてきました.
 MB39C811は,デュアル整流ブリッジと降圧型DC-DCコンバータを内蔵し,動作入力電圧範囲が2.6~23Vと広く,振動(圧電素子),光(直列ソーラ・セル)など交流や起電力が高いエネルギー源に適したPMICです(図1).


図1 S6AE101A/102A/103Aのブロック図

 MB39C831は,MPPT(最大電力トラッキング回路)と昇圧型DC-DCコンバータを内蔵し,動作入力電圧範囲が0.3~4.75Vと低く,低電圧での動作が可能で,光(単一ソーラ・セル),温度差(熱電素子)などのエネルギー源に適しています.

2.エナジー・ハーベスティングPMIC S6AE101A/102A/103A
 最新のエナジー・ハーベスティングPMICとしてサイプレスから発売しているのが,S6AE101A/102A/103Aです.エネルギー源を光(直列太陽電池)に限定して,性能を最適化することにより,静止電流250nA,起動電力1.2μWという超低消費電力を実現したことが大きな特長です.さらに,MB39C811/831の経験から,スタンドアロンのエナジー・ハーベスティングPMICとしてより使いやすく機能を充実しています.
 このS6AE101A/102A/103Aは,小型・携帯機器に広く使われている直列ソーラ・セルから得た電気を,パワー・ゲーティング回路によって必要なときだけ負荷回路に供給し,また,余剰分を少しずつコンデンサに蓄電します.最低1cm角のソーラ・セルがあれば室内光(100ルクス)の環境で無線センサ・ノードを電池レスで動作させることが可能です.屋外でも,街灯下などに設置できれば夜間でも十分に実用できます.
 さらに,ソーラ・セルと共にボタン電池などを補助的に使用することもできます.ソーラ・セルから十分な電気が得られない場合,自動的に補助バッテリへ切り替えが行われます.負荷となる無線センサ・ノードの動作頻度のばらつきが大きい場合に,一時的に供給電流が不足するのを防ぐこともできます.これらの基本機能はシリーズに共通です.さらにS6AE102A/103Aでは大容量(Cvstore1)コンデンサと小容量(Cvstore2)コンデンサの2種類の蓄電用コンデンサを使い分けられるハイブリッド構成の採用が特徴となっています(図2).


図2 S6AE101AとS6AE102A/103Aの違い

 大容量コンデンサは,フル充電されていれば長時間電力を供給できますが,微弱電流でフル充電するには長い時間がかかります.S6AE102A/103Aでは,大容量コンデンサが十分に充電されていない状態でも,小容量コンデンサからの電力供給で急な電力需要に対応できます.
 S6AE103Aだけの追加機能として,内蔵のタイマとコンパレータがあります.定時に負荷の電源をONにする機能,一定時間後に負荷の電源をOFFにする機能,センサ出力を監視して一定のスレッショルド電圧で負荷の電源をON/OFFするような機能をマイコンなしで実現できます.タイマの消費電流が30nAで,コンパレータの消費電流が20nAと極小なので,システム側のマイコンで制御するよりS6AE103Aで制御を行う方が低消費電力を実現できます.
 このように,動作環境や要求仕様に応じてきめ細かく機能を選択できることや,一般のIoTデバイスよりも高いレベルの省電力を実現できることがS6AE101A/102A/103Aの大きな特徴です.

3.開発環境とボード
 サイプレスでは,エナジー・ハーベスティングの良さを広く伝えるために,簡単に使える評価キットを低価格で提供しています.  Solar-Powered IoT Device Kitは,S6AE101Aが評価でき,通信にBLE(Bluetooth Low Energy)を備えた,太陽光発電によるIoTデバイスの開発キットです.
 CYALKIT-E02は,S6AE103AとCYBLE-022001-00(BLEモジュール)で構成され,そのまま製品化することもできるリファレンス・デザイン・キットです.超小型のソーラ・セル一体型のデバイスとパソコンに接続してデバイスと無線通信できるUSBドングルを組み合わせています.
 CYALKIT-E04(写真3:S6AE102A & 103A評価キット)は,新たにラインナップされた評価キットです.S6AE102Aボード,S6AE103Aボード,センサ・ボード,直列ソーラ・セル,コイン電池などを同梱されています.CYALKIT-E04を用いれば,エナジー・ハーベスティングを利用したIoTセンサ・ノードを簡単に構築して評価できます.今回は,この最新評価キットをプレゼントいたします.
 サイプレスのPMICは,これまでIoTデバイスの開発に従事していて,電源の問題の解決に困難を感じていたエンジニアには,ぜひ体験してほしいデバイスです.


写真3 S6AE102A & 103A評価キット(CYALKIT-E04)


■読者プレゼント
CYALKIT-E04を5名様にプレゼントします.下記サイトよりご応募ください.
https://cc.cqpub.co.jp/system/enquete_entry/598/

     
■製品のお問い合わせは下記の販売代理店へどうぞ

●富士通エレクトロニクス(株)TEL:045-415-5828
●(株)アルティマTEL:045-476-2195
●東京エレクトロン デバイス(株)TEL:045-443-4035
●伯東(株)TEL:03-3355-7607
●丸文(株)TEL:03-3639-9888

■記事に関するお問い合わせ

サイプレス セミコンダクタ http://japan.cypress.com/
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