プロセッサ最新テクノロジ2017 シリーズ18

産業用組み込みボードを1枚から低価格で購入可能
IoT時代の業務用向けスマート端末を
簡単に実現できるVIAのVAB-630


 スマート・サイネージやPOSシステムに利用する業務端末が,商業施設や工場,交通機関などさまざまな場所で利用されています.このような,業務端末は,マルチメディア機能,ストレージ機能,通信機能などが必要とされ,タブレットPCや教育用ボードなど,安価なハードウェアを検討するケースが増えています.しかし,機能や信頼性,セキュリティ不足を問われる場合もあります.このような問題を解決する,産業用組み込みボードが発売されました.今回は, VIA Technologies社(以下VIA)の新製品VAB-630について,プロダクトマネージャーの世羅氏とセールスマネージャーの相川氏に解説していただきます.執筆:宮﨑 仁


左から VIA Technologies Japan(株)エンベデッド事業部 
プロダクトマネージャー Cody 世羅 氏
セールスマネージャー 相川 悦丈 氏


1.プロセッサ,ボード,ソフトウェアのすべてを自社開発できるVIA
 VIAは,1987年に米国で創業し,90年代後半に独自開発のPC向けチップセットで広く知られるようになった会社です.Windows PCユーザには懐かしい社名です.1999~2000年には省電力,低発熱のx86互換CPUで知られるCentaur Technology社,グラフィック・アクセラレータで知られるS3社のグラフィックス部門などを買収してx86互換プロセッサ・メーカとして成長しました.その後,急速にコモディティ化する民生用PCの市場ではなく,同社のグラフィックス技術やユーザ・インターフェース技術を活用できる産業用PCの市場に注目して事業を進めてきました.
 最近の主力事業は,産業用PC向けのプロセッサ・コアおよびプロセッサの開発で,x86コアに加えて,より小型で低消費電力を実現するARMコアのプロセッサも開発しています.また,そのプロセッサを搭載した,組み込みボードや産業用システム製品の製造販売を行い,さらに,その技術を生かし,ハードウェアからソフトウェアまでのODM設計サービスを展開しています.
 ARMコアのプロセッサは,チップ単体の供給は行っておりませんが,ボード・レベルでの簡単なカスタマイズからフルカスタムまで幅広くユーザの要望に対応しています.自社開発のプロセッサだけでなく,NXP社のi.MXを搭載したボードもあります.車載や特定のアプリケーションでは,NXP社のプロセッサが適しており,用途によって使い分けています.
 x86コアではWindowsやLinux,ARMコアではAndroidやLinuxなどのOSに対応し,自社開発のドライバやAPIを提供しています.さらに,Forks社で販売しているリアルタイムOSのOS-9 にも対応しています.
 分業化が進む組み込み業界で,プロセッサやボードなどのハードウェアからOSやドライバなどのソフトウェアまで,トータルに自社開発しているのはVIAの大きな特徴です.コア開発も長期のロードマップや製品サイクルに基づいており,リリース後7年の長期安定供給を保障しています.

2.グラフィックス端末に最適化したVAB-630
 もともとバリューPC向けのx86互換プロセッサやチップセットを得意としていたVIAでは,産業用PCの中でも,POSシステムやキオスク端末,旅客機のマルチメディア端末などグラフィックスやユーザ・インターフェースが中心の業務アプリケーション向けシステムを主に展開してきました.
 2017年1月に発表したVAB-630(写真1)は,3.5インチHDDサイズ(14.6cmx10.2cm)の小型ボードに自社製の1.0GHz動作,デュアル・コアARM Cortex-A9プロセッサを搭載した最新の産業用組み込みボードです.


写真1 VAB-630ボード外観
14.6cmx10.2cm

 1080pビデオをスムーズに再生するグラフィックス性能,組み込み向けの充実したI/Oとオプションの3G/4Gなどの通信機能をもち,タッチ・スクリーン端末やスマート・サイネージ端末,IoTエッジ・デバイス向けに最適です.Android5.0,Debian 8.6に加えて,リアルタイムOSのOS-9も利用可能で,ドライバやAPIなど組み込みに必要なソフトウェアもサポートしています.豊富なI/O機能,信頼性やセキュリティの点で,民生用のタブレットPCや安価なボードPCとは大きな違いがあります.
 VAB-630の概要を図1に示します.グラフィックス出力は,HDMIとLVDSをもち,ディスプレイ外付けでも内蔵でも容易に対応できます.オプションで10.1インチLCDタッチパネルも用意しています.メモリは,1GバイトDDR3 SDRAMと512KバイトSPIフラッシュを搭載し,OS/アプリケーション/データ用ストレージとして4GバイトのeMMCおよびmicroSDスロットを搭載しています.外部拡張バスとしてminiPCIeスロットも搭載しています.


図1 VAB-630ブロック図

 SIMスロットをオンボードに搭載し,また,オプションのminiPCIeモジュールで3G,Wi-Fi,Bluetoothの無線I/Oが使用できます.POSなどさまざまなオンライン業務用端末に対応できるだけでなく,急速に発展しているIoT端末を自由に実現できます.
 10/100Mイーサネット,USB2.0,I2C,RS-232,GPIOなど組み込み向けのI/Oを豊富に搭載し,ウォッチドッグタイマ(WDT),ウェイクアップ可能なRTC,電源瞬断防止用バッテリ接続用のピン・ヘッダなど信頼性対策も充実しています.これらの機能を簡単に利用できるソフトウェア・サポートも提供しています.ボードを購入すれば,即座に評価できるだけでなく,ユーザ側でのシステム開発もきわめて簡単にできます.

3.教育用ボードの手軽さで,組み込みボードを使って欲しい
 さらに,VIAではこのVAB-630を誰でもすぐに入手できるように,スイッチサイエンスエイケイ・ネットショップから一般向けに販売しています.これはVIA Technologies Japan社では初めての試みであり,教育用ボードと同じような手軽さで,産業レベルの実用性をもつ組み込みボードを使ってみて欲しいという試みです.
 価格も,VAB-630ボード(ACアダプタ付き)で14,580円と,産業用PCとしてはきわめて低価格に抑えています.他に,専用アルミケースやオプションの10.1インチLCDタッチパネルキットも販売しています.開発環境は,VIAのウェブサイトからAndroid版のEVK(ビルド済みOSイメージを含む評価用キット),BSP(OSおよび必要なソフトウェアのソース・コードをまとめたパッケージ)の2種類のツールをダウンロードできます.

4.ソフトウェア開発を加速するSmart ETK
 VIAではUSB,LAN,WDT,GPIO,RS-232など組み込みボードの全機能をアプリケーションから簡単に利用できるように,ハードウェアAPIをまとめてSmart ETK(エンベデッド・ツール・キット)として提供しています(図2).
 Android版のSmart ETKは,開発環境のBSP(Board Support Package)に含まれており,VIAのウェブサイトからダウンロードできます.Androidの標準フレームワークには手を加えていないので,アプリケーションの再利用や標準フレームワークのアップデートで問題を生じることはありません.低価格で購入しやすいVAB-630ボードと簡単に使えるSmart ETKで,一味違う産業用組み込みボードをぜひ味わってみてください.


図2 VIAのSmart ETK

※OS-9およびその他記載の会社名および商品は,各社・各団体の商標または登録商標です.

■記事に関するお問い合わせ

VIA Technologies Japan(株)http://www.viatech.com/ja/
〒150-0011
東京都渋谷区東3丁目15番7号 恵比寿MTビル6階
TEL:03-5466-1637 E-mail:embedded@viatech.co.jp


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