プロセッサ最新テクノロジ2017 シリーズ15
NFCの標準化や普及でも,NXPは主導的な役割を果たしてきた.近年では多くのスマートフォンにNFCが搭載されているが,その9割がNXPの技術を採用している.
今年には,新世代の汎用NFCコントローラ製品としてPN7150を発売し,コンシューマ市場やインダストリ市場の幅広い用途で活用が始まっているという.今回は,このPN7150を中心として,NXPのNFCソリューションについて同社,齋藤 健一氏,三井 貴美男氏,増田 教明氏に解説していただいた.執筆:宮﨑 仁
1.NFCの種類とアプリケーション分野
欧州では,1980年代からテレホン・カード,銀行カード,電子マネーなどの分野で接触型のスマート・カードが普及を始めた.しかし,接点の磨耗などが問題となり,接点が不要な非接触スマート・カードの実用化が進められた.その中で,NXP(当時はPhilips Semiconductors社)が推進したMIFAREは広く普及し,デファクト・スタンダードとなっていた.2000~2001年には,13.56MHzを使用する非接触スマート・カードの国際規格ISO/IEC 14443 として,MIFARE仕様のType A,米国メーカが推進していたType Bの2つが標準化された.
ソニーが推進していたFeliCaは,この規格には採用されなかったが,フィリップスとソニーはMIFAREとFeliCa の技術を統合した新しい近距離無線としてNFCを共同開発し,2003年にISO/IEC 18092 NFCIP-1として標準化された.NFCは,既存の非接触スマート・カードとの互換性を保ちながら,大きく拡張された規格となっている.
非接触スマート・カードとNFCの違い(図1)を解説すると,非接触スマート・カードは,電池を内蔵しないパッシブなカードとアクティブなリーダ/ライタの間で,近接界(10cm 以内)の無線通信を行う.リーダ/ライタが出力する微弱な電波をアンテナで受けて,カードの電源として用いる.一方,NFCでは,アクティブなNFCデバイス同士での通信を行うことができる.また,NFC デバイスは既存の非接触スマート・カード・システムとも互換性をもつ.そのために,NFCデバイスは,カード・エミュレーション,ピア・ツー・ピア,リーダ/ ライタ3つのモードをもつ.カードエミュレーション・モードでは,NFCデバイスはカードのように振る舞い,既存のリーダ/ライタと通信できる.ピア・ツー・ピアのモードでは,たとえば,NFC搭載スマートホンとNFC 搭載テレビの間で通信を行うことができる.リーダ/ ライタ・モードでは,NFCデバイスはリーダ/ ライタとして動作し,既存のカードと通信できる.
2004年にはフィリップス,ソニー,ノキアの3 社によってNFCフォーラムが設立され,規格の整備と普及を図ってきた.2005年にはISO/IEC 21481 NFCIP-2が標準化され,NFCの仕様にType Bと産業用の13.56MHzパッシブRF-ID(ISO/IEC 15693)が加わった.NFCフォーラムでは,従来の非接触スマート・カードや非接触RF-IDに相当するものをNFCタグとして規格化しているが,そこではType A(MIFARE),FeliCa,ISO/IEC 15693の他に,2種類のメーカ独自規格を合わせて,Type1~5タグとして定義している.
NFCの代表的なアプリケーション分野としては,まず,携帯電話やスマートホンへの決済カード機能,個人認証カード機能の搭載に始まり,テレビ/ ビデオ機器やオーディオ機器,ゲーム機器,ヘルスケア&フィットネス向けのウェアラブル機器,家電機器,ホーム・オートメーション機器などの民生分野がある.また,オフィス,店舗,医療機関,工場などにおけるさまざまな業務用機器,産業用機器への応用や,RF-ID タグによる物品管理の応用などある.
これらの分野では,NFC のもつ強固なセキュリティ機能を活用した個人情報の認証や,機器間の安全なペアリングなどが行われている.また,光学的バーコードに代わる簡易タグからの情報取得,機器間通信のためのネゴシエーション,相手機器の初期設定などセキュリティ機能を必要としない用途では,暗号/ 復号演算を使用しない簡単なプロトコルで小型/省電力を実現することができる.
2.NXPのNFCソリューションとPN7150
NXPでは,NFC向けソリューションとして3種類の製品系列を展開している.1つ目は,NFCタグ向けとしてアンテナからの給電機能をもつコネクテッド・タグ・ソリューション.2つ目は,NFCデバイス向けとしてNFCフロントエンド・チップとコントローラ・チップを組み合わせたNFCフロントエンド・ソリューション.3つ目は,フロントエンドとコントローラを統合したNFCコントローラ・ソリューションとなっている.
このうち,統合型NFC コントローラ・ソリューションは,NFC 標準のNCIホスト・インターフェースが統合された民生向けの初めての製品として2015 年にPN7120を発表し,その第2 世代として2016 年にPN7150 が発売された.民生分野を中心として幅広いアプリケーションに最適な汎用のNFCコントローラとなっている.
PN7150(図2)は,NFCフロントエンド,コントローラ,ファームウェアを統合した高機能NFC コントローラの最新製品だ.非接触インターフェース・ユニット,32ビットARM® Cortex®-M0コア,プログラム・メモリ,データ・メモリ,NFCで標準化されたNCIホスト・インターフェースなどを統合したNFC コントローラ・チップに,NFC フォーラム仕様に対応したファーム
ウェアを搭載している.リーダ/ライタとしてはISO/IEC 14443(Type A,Type B),MIFARE,FeliCa,ISO/IEC 15693,NFCフォーラムのType1~5と,すべてのNFC 仕様に対応している.
さらに,PN7150ではLinux,Android,WinIoTドライバをサポートしており,これらのOSを搭載したホスト・コントローラと組み合わせて簡単にプラグ&プレイのシステムを構築できる.NFC を利用したWi-Fi,Bluetooth,ZigBee などの無線機器のペアリング,相手側機器の初期設定や設定カスタマイズ,ユーザ・インターフェースの拡張,メンテナンスなどを容易に実現できる.
主要な市場としては,ホーム・ゲートウェイ機器,テレビ,オーディオ,家庭用ヘルスケア機器,ゲーム機器などを想定している.これらの家庭内にあるさまざまな機器にNFCを搭載することによって,各機器をワンタッチで設定,連携させることが可能になる.
また,特にゲーム用途などでは,従来にない斬新なゲーム機能を実現できる可能性もあるという.NXPセミコンダクターズジャパンでは,2016 年6 月に開催された「東京おもちゃショー2016」に初めて製品を出展したが,おもちゃメーカから販売店,個人のマジシャンまで,幅広い層の関心を集めた.おもちゃに限らず,NFC の新しい活用方法や活用分野を積極的に模索していきたいそうだ.
3.さまざまなマイコン・ボードに対応
NXP では,PN7150の評価や開発を容易にするために,ライブラリや開発キットも取り揃えている.ユーザ側のホスト・プロセッサと開発キットを組み合わせて,NFC 搭載システムを開発することができる.
PN7150ボードは1種類だが,用途に応じて簡単にシステムを構築できるように,Raspberry Pi 用,Beagle Bone用,Arduino用の3種類のインターフェース・ボードが用意されている(図3).Arduino版を用いれば,NXP のKinetisマイコンのFreedom開発ボードや,i.MXアプリケーション・プロセッサ搭載の汎用ボードへの拡張が可能で,さらに用途が拡がる.
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