NPNトランジスタの静特性を測定する最適な回路はどれ?




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 今週から,「トランジスタからやり直し!LTspiceアナログ電子回路入門」をスタートします.トランジスタやOPアンプを活用したアナログ電子回路の解説を基礎から応用まで1年間行います.

■問題

小川 敦 Atsushi Ogawa

 トランジスタを使用する時の重要なパラメータとして,電流増幅率(hfe)やコレクタ・エミッタ飽和電圧[VCE(sat)],アーリー電圧などがあります.そしてこれらの特性を一つのグラフで確認できるのが,エミッタ接地静特性グラフです.図1はNPNトランジスタのエミッタ接地静特性グラフの一例です.


図1 NPNトランジスタのエミッタ接地静特性グラフの一例
トランジスタの静特性を確認できる.

 図1のエミッタ接地静特性グラフを実測もしくはシミュレーションで確認する時に,最適な回路は図2の(A)~(D)四つのうちのどれでしょう?ただし,電圧源,電流源共に任意の電圧,電流とすることが可能であり,電圧源はそこに流れる電流を測定することができるものとします.


図2 問題の回路図
トランジスタの静特性を確認するのに最適な回路はどれか?

■ヒント

 図1の横軸はコレクタ・エミッタ間電圧で,縦軸はコレクタ電流,パラメータはベース電流です.

■解答

(D)

 図1のエミッタ接地静特性グラフは,ベース電流をパラメータとして,コレクタ・エミッタ電圧を変化させた時のコレクタ電流をプロットしたものです.図2(A),(B)はコレクタに電流源が接続されており,コレクタ・エミッタ電圧を任意に変化させることができません.そのため正解は(C)か(D)ということになります.ベース電流をパラメータとして簡単に変化させることのできるのは,ベースに電流源の接続された(D)です.(C)でもV1の電圧を微調整してベース電流を所望の値にすることは可能ですが,簡単ではありません.したがって,トランジスタの静特性を確認するのに最適な回路は(D)ということになります.

■解説

●トランジスタの静特性をシミュレーションで確認する
 トランジスタの静特性は,トランジスタがどのように動作するのかを理解する上で非常に重要な特性です.トランジスタの静特性からどのようなことがわかるのか,実例を元に解説していきます.
 それでは,図2(D)の回路を使用してトランジスタの静特性をシミュレーションしてみます.図3がシミュレーション用の回路図です.フェアチャイルド社の小信号用NPNトランジスタ「2N2222」の特性をシミュレーションします.シミュレーションとしてはDC sweep解析を使用し,V1とI1を変化させます. 「.dc V1 0 30 10m I1 50u 500u 50u」このコマンドは,I1を50uAから500uAまで50uAステップで変化させ,それぞれのI1の値でさらにV1を0Vから30Vまで10mVステップで変化させる,という意味になります.


図3 トランジスタの静特性をシミュレーションするための回路図 DC sweep解析を使用し,V1とI1を変化させる.
 

 図4図3の回路のシミュレーション結果です.LTspiceではトランジスタのコレクタ電流を簡単にプロットできます.しかし,ここでは実測する時と同様にV1に流れる電流を符号を反転してプロットしています.V1に流れる電流は,トランジスタのコレクタ電流(IC)と同一の値になります.


図4 トランジスタの静特性のシミュレーション結果
V1に流れる電流を,符号を反転してプロットしている.

 図4のグラフから,電流増幅率(hfe)やコレクタ・エミッタ飽和電圧(VCE(sat)),アーリー電圧などを読み取ることができます.まず,電流増幅率は,ベース電流(IB)が50uAの時,約10mAのコレクタ電流が流れて,式1のようにhfeは約200ということがわかります.


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

●hfeとVCEおよびICとの関係
 グラフをよく見るとコレクタ・エミッタ間電圧(VCE)が増加するとコレクタ電流も増加していることがわかります.これはVCEが増加することによってhfeがわずかに大きくなっているためです.この現象をベース変調効果あるいはアーリー効果と呼びます.
 図5は,「hfe=IC(Q1)/IB(Q1)」をプロットしたものです.VCEが増加するとhfeが大きくなっていることがわかります.また,IB=500uの時のほうが,IB=50uの時よりもhfeが小さくなっています.これはコレクタ電流が増加するとhfeが小さくなることを表しています.


図5 hfe=IC(Q1)/IB(Q1) をプロットしたグラフ
VCEが増加するとhfeが大きくなっている.

●アーリー電圧とは何か
 図6は,図5のグラフの横軸を-120Vまで広げたものです.グラフ上のIC-VCE特性の直線を延長すると,すべての直線が1点で交わります.1点で交わったポイントの電圧の符号を変えたものをアーリー電圧と呼びます.IC-VCE特性の直線の傾きが大きければアーリー電圧は小さくなり,逆に傾きが小さければ,アーリー電圧は大きくなります.つまり,アーリー電圧はIC-VCE特性の直線の傾きを表す指標です.一般的にはアーリー電圧の大きなトランジスタのほうが,優れたトランジスタと言えます.アンプを構成したときは出力インピーダンスを大きくして,ゲインを大きくすることが可能で,電流源として使用した時には電源電圧依存性を少なくできるからです.


図6 トランジスタのIC-VCE特性とアーリー電圧
IC-VCE特性の直線を延長すると,すべての直線が1点で交わる.

●コレクタ・エミッタ飽和電圧[VCE(sat)]
 図7は,図5の横軸を0V~1Vに変更したものです.VCEが0.2V以下になると急激にICが減少していることがわかります.VCEが0.2V以下ではhfeが急激に小さくなるためです.また,図7のグラフから,トランジスタをスイッチとして使用したときの電圧ロス「コレクタ・エミッタ飽和電圧[VCE(sat)]」がどのくらい発生するかを読み取ることもできます.たとえば,IB=150uAの時のVCE-IC特性ラインでICが20mAになった時のVCEは約150mVです.IB=500uAとすると,この電圧は約90mVに減少することがわかります.トランジスタをスイッチとして使用する場合,電圧ロスは0Vであることが理想ですが,0Vにすることはできません.スイッチに流れる電流(コレクタ電流)の大きさに対して,ベース電流をどの程度流すと,電圧ロスが何Vになるかを把握しておくことは非常に重要です.


図7 トランジスタのIC-VCE特性(横軸を0~1Vに拡大したもの)
VCEが0.2V以下になると急激にICが減少する.

 このように,トランジスタの静特性のグラフから,いろいろなことが読み取れます. トランジスタの規格表にはhfeやVCE(sat)などの数値データが書かれていますが,特定の条件での値を記載したものです.その条件とは異なる条件の値を知りたい時は,これまで説明したようなやり方で, トランジスタの静特性のグラフから読み取ることが可能です.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice2_001.zip

●データ・ファイル内容
IC_VCE.asc:図3の回路
IC_VCE_VA.asc:図6をシミュレーションするための回路
IC_VCE_VA.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
※ファイルは同じフォルダに保存して,フォルダ名を半角英数にしてください

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

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