発振しやすい回路はどっち?




『トランジスタ技術』のWebサイトはこちら


■問題


 図1の回路(a)に示すのはゲインが10倍の非反転増幅器,回路(b)はボルテージ・フォロワです.位相余裕が45°に近い(発振しやすい)のはどちらの回路でしょう.
 使っているOPアンプは,電圧帰還型でそのオープン・ループ・ゲイン周波数特性は図2です.直流でのゲインは100dB,1st pole は10Hz,2nd poleは1MHzです.2nd poleより高い周波数でのゲインは-40dB/decで無限大周波数まで減衰するものとします.

平賀 公久 Kimihisa Hiraga


図1 問題のOPアンプ回路
(a)はゲインが10倍の非反転増幅器,(b)はボルテージ・フォロワ

図2 OPアンプの周波数特性
直流でのゲインは100dB,1st pole は10Hz,2nd poleは1MHz


■回答

回路(b)
 理想OPアンプのループ・ゲイン周波数特性は,2nd Poleの位置に45°の位相余裕があります.回路(a),回路(b)ともに,2nd Poleの位置は1MHzです.しかし,回路(a)は10倍の非反転増幅器であるので,位相特性はそのままで,ループ・ゲイン特性が20dB分下にシフトします.従いまして,位相余裕=45°(ループ・ゲイン=0dB)は,回路(b)が近いといえます.

■解説

●回路の安定性評価は位相余裕とゲイン余裕の二つの数値を使う
 負帰還の安定性評価はループ・ゲイン周波数特性を使う場合があります.安定性評価とは,負帰還で発振するか否かを判別する評価です.位相余裕とゲイン余裕の二つの数値を用います.ループ・ゲインは負帰還を一巡したループのゲインのことで,OPアンプのオープン・ループ・ゲイン「A(s)」と帰還率「β」の積です.電圧帰還型はOPアンプが開発された時から使われています.代表的なOPアンプの「μA709」や「LM101」,「μA741」,「NJM4558」,「LF356」などに多く使われている回路形式です.
 位相余裕とゲイン余裕をSpiceで評価するときは,負帰還ループを切り離し,その切り離した箇所でループ・ゲインと位相の周波数特性を確認します.発振は一巡してきた振幅と位相が同じになる正帰還のときに起こり,その状態からどれだけ余裕があるかを示す数値が位相余裕とゲイン余裕です.
 位相余裕とは,発振する条件の一つである振幅が同じ時に,正帰還になる360°まで何度余裕があるかです.ゲイン余裕とは,発振する条件の一つである位相が同じ時に,一巡してきたゲインが0dBになるまで何dB余裕があるかです.

●位相余裕は60°あれば安定し発振しない
 負帰還で発振する条件はそのループ・ゲインとループ位相に関係し,どの条件から発振するか否か境界線を引くのは難しいです.しかし,経験的に位相余裕は60°,ゲイン余裕は10dBでは負帰還は安定で発振はせず,45°の場合はゲイン余裕の値に影響されるため発振しやすい状態にあると思った方がいいでしょう.
 図1の回路(a)の非反転増幅器の負帰還を一巡するループ・ゲインの周波数特性はOPアンプのオープン・ループ・ゲイン「A(s)」と抵抗で構成された帰還率「β」の積で表せます.帰還率はR2>R1であり,ループを切った状態では減衰器ですので「β=1kΩ/(1kΩ+9kΩ)=0.1=-20dB」です.したがってループ・ゲイン「A(s)*β」の周波数特性カーブはOPアンプのオープン・ループ周波数特性A(s)のカーブの形はそのままで-20dB分下にシフトした直流ゲインが80dB で,1st poleは10Hz,2nd pole は1MHzの周波数特性カーブです.1st poleから-20dB/decで減衰するので,ループ・ゲイン周波数特性の位相余裕を評価する周波数(ループ・ゲイン=0dBの時)は100kHzと見積もれます.
 一方,回路(b)のボルテージ・フォロワのループ・ゲイン周波数特性はOPアンプの出力と反転端子が短絡され帰還率=1となり,OPアンプのオープン・ループ・ゲイン周波数特性で表せます.ループ・ゲインが0dBとなる周波数はOPアンプのオープン・ループ・ゲイン周波数特性の2nd poleの周波数で,その時のゲインは-3dBより少し周波数が低い箇所にあると見積もれます.
 ループ・ゲイン周波数特性の位相余裕が45°となる周波数は,ループ・ゲイン周波数特性の2nd poleの位置にあります.2nd poleは回路(a), 回路(b)とも1MHzにあり,位相余裕を評価するループ・ゲイン=0dBとなる周波数が1MHzに近い方が位相余裕45°に近いことになります.したがって問題の答えは回路(b)のボルテージ・フォロワです.

●ループ・ゲインをLTspiceで確かめる
 図3は,図2のOPアンプ周波数特性を持つマクロモデルです.マクロモデルはトランジスタのデバイス・モデルのような多くのパラメータを含んだものは極力避けて,電気的特性の鍵となる箇所を理想素子で簡略化して,等価回路として構成したものです.簡略化によりシミュレーション時間を短縮できます.LTspiceの部品ライブラリにあるOPアンプや電源などの部品もマクロモデルです.
 図3のマクロモデルは理想素子のVoltage Dependent Current Source(電圧制御電流源),Voltage Dependent Voltage Source(電圧制御電圧源),抵抗,コンデンサで簡略化し回路を構築しました.オープン・ループ・ゲインの100dBはG1のトランスコンダクタンスとR1の積になります.1st poleの10Hz, 2nd poleの1MHzは「R1*C1」,「R2*C2」です.E1はゲイン1のバッファとして配置しました.


図3 二つのポールを持った理想OPアンプのマクロモデル.
マクロモデルは簡略化によりシミュレーション時間を短縮する

●ループの配線を切ることでループ・ゲイン周波数特性を調べる
 図4の回路(a’)と回路(b’)は,図1の回路(a)の非反転増幅器と回路(b)のボルテージ・フォロワのループ・ゲイン周波数特性を調べる回路です.図3の二つのポールを持った理想OPアンプのマクロモデルは,Ideal2のOPアンプ・シンボルでマクロモデルはサブサーキットとしています.理想OPアンプは入力オフセット電圧や入力オフセット電流等の直流誤差はありません.したがってループのどこかで配線を切ることにより,そのループ・ゲイン周波数特性を調べられます.図4の回路(a’),回路(b’)では非反転増幅器,ボルテージ・フォロワのOUT端子の箇所でループを切断し,V1とV2の電圧源を入力としてLoop端子,Open端子でのループ・ゲイン周波数特性を確認します.なお実際のOPアンプは直流誤差を含みますので,ループの切り方に工夫が必要です.


図4:ループ・ゲインを調べる回路
負帰還ループのどこかで配線を切ることにより,そのループ・ゲイン周波数特性を調べる

●「.MEAS」コマンドで直読する
 図4には非反転増幅器とボルテージ・フォロワの位相余裕を「.MEAS」コマンドで直読できるようにしました.また参考のために,二つのポールを持った理想OPアンプの2nd poleの周波数と位相も測定します.
 まず位相余裕を測定する周波数としてループ・ゲインが1倍(=0dB)になる周波数を探し,その周波数での位相を測るという手順です.具体的には回路(a’)の位相余裕の測り方を図5図6に示します.
 Loop端子のゲインが1となる周波数を探すにはLTspiceの文法にのっとり,「.MEAS AC f_0dB_Loop WHEN MAG(V(Loop))=1」式の意味は,「AC解析において,Loop端子の実部が1となる周波数を探し,変数f_0dB_Loopへ入れなさい」となります.


図5 ループ・ゲインの実部が1になる周波数を探す「.MEAS」コマンド

 ループ端子のゲインが1となる周波数のゲインと位相を測るには,式は「.MEAS AC Ph_Margin_Loop FIND V(Loop) at f_0dB_Loop」となります.式の意味は,「AC解析において,Loop端子のf_0dB_Loop周波数のゲインと位相を探し,変数Ph_Margin_Loopへ入れなさい」です.


図6 ループ・ゲインの実部が1になる周波数の位相を見つけ出す「.MEAS」コマンド

 ログ・ファイルを見るときはメニューバの「View > SPICE Error Log」または,ショートカットキーの「Ctrl + L」でログ・ファイルのウィンドウが現れます.シミュレーション実行後にログ・ファイルには次のように出力されました.

f_0db_loop: mag(v(loop))=1 AT 99517.3
ph_margin_loop: v(loop)=(-3.74447e-006dB,84.3231°) at 99517.3
fp2: mag(v(open))=1/sqrt(2) AT 1e+006
phase_fp2: v(open)=(-3.0103dB,45.0006°) at 1e+006
f_0db_open: mag(v(open))=1 AT 786256
ph_margin_open: v(open)=(-0.000134684dB,51.8307°) at 786256

「.MEAS」の結果をまとめると,
図4の回路(a’)の非反転増幅器:ループ・ゲインが1になる周波数は99517.3Hzで,位相余裕は84.3231°
図4回路(b’)のボルテージ・フォロワ:ループ・ゲインが1になる周波数は786256Hzで位相余裕は51.8307°
図4回路(b’)はOPアンプのオープン・ループ周波数特性であり,2nd poleの周波数はそのゲインが1/√2 (-3.01dB)であるので,オープン・ループ・ゲインが1/√2になる周波数は1e+006 Hzで位相は45.0006°
となります.この結果からも,問の位相余裕45°に近いのは図1の回路(b)のボルテージ・フォロワであることが分かります.

●「.MEAS」で調べた値をプロットする
 図7は,図4の動作結果をプロットしたものです.また「.MEAS」で測定した位相余裕値を書き加えました.図4の回路(b’)のボルテージ・フォロワのループ・ゲイン周波数特性はOPアンプのオープン・ループ周波数特性であり,図4の回路(a’)の非反転増幅器のループ・ゲイン周波数特性は帰還率(ここでは-20dB)分だけOPアンプのオープン・ループ周波数特性がグラフ内で下に移動しています.このため位相余裕を測定するループ・ゲイン=0dBの周波数も低くなり,
-20dB/decの傾きであることから100kHzになっています.プロットのカーソルで確かめると「.MEAS」で調べた値であることが分かるでしょう.


図7 図4の周波数特性を確認する
-20dB分だけ回路(a’)のオープン・ループ周波数特性がグラフ内で下に移動

 ループ・ゲイン周波数特性において,2nd poleのグラフ上の位置は三つの条件に分けることができ負帰還安定性の判別で一つの指標になります.
・2nd poleがループ・ゲインの0dBの位置にあれば,位相余裕は45°に近い値
・2nd poleがループ・ゲイン0dBより下に配置されれば位相余裕は45°より増え,負帰還は安定となる
・2nd poleがループ・ゲイン0dBより上に配置されれば位相余裕は45°より減り,負帰還は発振しやすくなる
 これらは,負帰還のループ・ゲイン周波数特性において,まず大まかな位相余裕を知るために使える手法です.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice005.zip
●データ・ファイル内容
Ideal_OP2.asc:図3の回路
Ideal_OP2.asy:図4のOPアンプ・シンボル回路
Noninverting_Amplifier_Voltage_follower_Loop.asc:図4の回路
※三つのファイルは同じホルダに保存して,ホルダ名を半角英数にしてください

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報


近日発売

Interface 2017年 11月号

これから注目のIoT無線 大研究

トランジスタ技術 2017年 10月号

驚速開発!プリント基板スペシャルDVD

HAM TECHNICAL SERIES

アマチュア無線機メインテナンス・ブック 2

HAM TECHNICAL SERIES

アナログとデジタルの違いがわかる本

アマチュア無線技士問題集

解説・無線工学 2017/2018