トランジスタの発熱が大きいのはどっち?




『トランジスタ技術』のWebサイトはこちら

■問題

 図1はオペアンプにB級プッシュプル動作をするパワー・トランジスタを追加して構成した,オーディオ・パワーアンプです.このアンプの電源は,8Ωのスピーカを接続して無歪最大出力が10W得られる電圧に調整しています.次の二つの条件でこのアンプを使用した時,トランジスタQ1,Q2の発熱が大きいのはどっち.
 A:8Ω負荷で10W出力している時
 B:8Ω負荷で2.5W出力している時
小川 敦 Atsushi Ogawa


図1 問題のオーディオ・パワーアンプ回路

■回答

 B:8Ω負荷で2.5W出力している時
 負荷抵抗に流れる電流は当然,10W出力時のほうが大きくなります.しかし,パワー・トランジスタQ1,Q2のコレクタとエミッタ間の電圧は,負荷抵抗に加わる電圧が大きい時ほど,逆に小さくなります.トランジスタの発熱,つまりトランジスタで発生する電力は,コレクタとエミッタ間の電圧とコレクタ電流を掛け算したものなので,単純に最大出力時が発熱が一番大きいとは限りません.

■解説

●8Ω負荷で10W出力するために必要な出力レベルを計算する
 図2がLTspiceで描画したオーディオ・パワーアンプ回路です.オペアンプの代わりに電圧制御電圧源(E)を使用し,トランジスタはLTspiceをインストールした時に初めから登録されているモデルFZT849(Diodes Incorporated)とD45H11(Fairchild Semiconductor)を使用しています.無信号時のアイドル電流は50mAに設定しています.
 はじめに,8Ω負荷で10W出力するために必要な出力レベルを計算します.
なので・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
Vrms(実効値)・・・・・・・・・・・・・・(2)
 実効値は8.94Vなのでピーク値は√2倍し,12.7Vになります.トランジスタのベースとエミッタ間の電圧VBE(≒0.8V)を加算し,電源電圧は±13.5Vとします.電圧制御電圧源のゲインは100dB(1e5)とします.


図2 オペアンプの代わりに電圧制御電圧源E1を使ってオーディオ・パワーアンプ回路を構成する(LTspiceのシミュレーション用の回路)

●10W出力時にRLで発熱する平均消費電力を調べる
 次に,出力10Wの時のシミュレーションを行います.このオーディオ・アンプの非反転増幅回路のゲインは,20dBに設定しています.先ほど計算したように,出力レベルのピーク値を12.7Vとする必要があるので,入力にはピーク値1.27V,1kHzのサイン波を加えます.その出力が図3です.


図3 ピーク値1.27V,1kHzのサイン波を入力した際の出力を確認する
ゲインは10倍であるので出力のピーク値は12.7Vとなっている

 この出力が本当に10Wなのか,負荷抵抗RLで発生している電力を計算してみます.「PRL=Vout*IRL」なので,これをLTspiceの波形ビューアに表示してみます.波形ビューアのウィンドウをクリックしてアクティブにし,「Plot Setting」→「add trace」(Ctrl+A)をクリックします.
 表示されたウィンドウのExpression(s) to add:フィールドで,V(out)を選択後,*(アスタリスク)を入力します.次にI(Rl)をクリックしてOKボタンを押せばグラフ表示されます.表示されたのは瞬時電力です.平均電力(Average) を表示させるにはCtrlキーを押しながら,「V(out)*I(Rl)」と表示された部分をクリックします.図4のように平均消費電力が約10W(Average:10.075W)になっていることがわかります.


図4 負荷抵抗RLで発生している消費電力を確認する
平均消費電力が10Wであることを確認できる

●トランジスタの消費電力を調べる
 次にトランジスタQ1の消費電力を調べます.Q1のコレクタとエミッタ間の電圧(VCE)とコレクタ電流の掛け算を表示させればいいので,先ほどと同様,波形ビューアで,「(V(vcc)- V(out))*Ic(Q1)」を表示させます.図5のようにV(out)の波形のピークで消費電力が減少していることがわかります.


図5 トランジスタQ1の消費電力を確認する
出力V(out)のピーク時に消費電力は減少する

 図6は,図5にトランジスタQ2の消費電力を加算した波形です.この波形の計算式は「(V(vcc)- V(out))*Ic(Q1)+(V(vee)-V(out))*Ic(Q2)」です.計算式は,波形ビューア上でトップの式を右クリックすると入力できます.


図6 図5にQ2の消費電力を加算して確認する
トランジスタQ1とQ2の平均消費電力は約3.62Wであることがわかる

 ここでも消費電力の平均値を表示させるため,Ctrlを押しながら計算式をクリックします.Averageは3.6223Wと表示されています.つまり,負荷抵抗での発生電力が10Wの時,トランジスタQ1とQ2の平均消費電力は約3.62Wです.

●2.5W出力時の平均消費電力を調べる
 次に,出力電力2.5Wの時の結果を調べてみます.まず,8Ω負荷で2.5W出力するために必要な出力レベルは,
Vrms(実効値)・・・・・・・・・・・・(3)
実効値4.47Vなのでピーク値は√2倍し,6.3Vになります.入力信号レベルをピーク値0.63Vに変更後,同様のシミュレーションを実行すると,図7のようになり,Averageは4.4308Wと表示されます.


図7 入力信号レベルをピーク値0.63Vに変更して確認する
トランジスタQ1とQ2の平均消費電力は約4.43Wであることがわかる

まとめると
A: 負荷抵抗での発生電力が10Wの時  → トランジスタの平均消費電力は約3.62W
B: 負荷抵抗での発生電力が2.5Wの時 → トランジスタの平均消費電力は約4.43W
となります.
このように,Bの条件のほうがトランジスタの発熱は,大きくなります.

●最もトランジスタの消費電力が大きい時
 最後に出力電圧とトランジスタの消費電力の関係を解説します.Q1に着目して式を立てると
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
PQ1の最大値を求めるためにVoutで微分し,0と置くと
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
となり,変形すると
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
つまり,出力電圧が電源電圧の1/2の時が最もトランジスタの消費電力が大きくなります.電力で言うと,最大出力電力の1/4の時です.
 DC解析を行うために,LTspiceの回路図ウィンドウで,[Simulate]と[Edit Simulation CMD]を選択して,「Edit Simulation Command」ウィンドウを表示させ,[DC sweep]タブを選択後にOKボタンを押してから,シミュレーションを実行します.
 図8はDC sweep解析(.dc VIN 0 1.27 0.01)でVINを0から1.27Vまで0.01Vステップで変化させ,Q1の消費電力をプロットした結果です.V(out)が電源電圧Vccの半分の6.75V付近の時,消費電力が最大になっていることがわかります.ちなみに,普通に表示させるとグラフの横軸はVINになっていますが,横軸メモリのあたりでマウスを左クリックし,表示されたウィンドウにV(out)と入力することで,横軸を変更できます.


図8 VINに直流電圧を入力して,トランジスタQ1の消費電力を確認する
V(out)=6.75V付近で消費電力が最大となっている

■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice004.zip
●データ・ファイル内容
BClassAmp1_J.asc:図2の回路
※ホルダ名を半角英数にしてください

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報



別冊CQ ham radio QEX Japan No.25

特集 入門 作って学ぶMLA(マグネチック・ループ・アンテナ)

CQ ham radio 2017年 12月号

特集 HF帯デジタルモード最新事情

トランジスタ技術 2017年 12月号

3Dアニメーション!アンテナ&RFシミュレータ全集

Interface 2017年 12月号

人工知能ウルトラ大百科